繫いだ手を

 移動中の大統領専用車で笑顔、夕食会のスピーチでまた笑顔。国内ではあまり見かけなくなって久しい満面の笑みがとても印象的だ。「国賓」の厚遇で米国を訪問中の岸田文雄首相▲バイデン大統領との首脳会談では、日本周辺で威圧的な行動を続ける中国を名指しで批判し、強固な同盟関係を強調。米国が主導する月探査事業「アルテミス計画」で、早ければ2028年にも日本人飛行士が月面に立つという大きめのお土産も▲裏金事件で政権基盤が揺らぐ岸田氏、秋の大統領選で強敵との激突が待ち受けるバイデン氏。どちらも首脳会談を政権浮揚につなげたいのだ-と昨日の解説記事▲ホワイトハウスでの夕食会は人気音楽ユニット「YOASOBI」の出席も話題を呼んだ。支持率回復の呼び水に、と日本側が仕掛けた秘策か、それとも米国側の援護射撃か▲その思惑が実を結ぶかどうかはさておき、意地の悪い当欄が思い浮かべたのはYOASOBIの出世作「夜に駆ける」のこんな歌詞だ。〈君のために用意した言葉/どれも届かない〉…「君」はもちろん国民。〈もう嫌だって疲れたよなんて/本当は僕も言いたいんだ〉…高齢不安は根強い▲深刻な内憂を抱える2人が、緊密な連携を繰り返し確認し、何度も笑い交わす。〈繫(つな)いだ手を離さないでよ〉(智)

© 株式会社長崎新聞社