「海洋散骨は埋葬の選択肢のひとつ」 事業者が考える一番大事なこととは 墓じまいにも

故人の思い出の海に散骨する海洋散骨の様子【写真提供:株式会社ハウスボートクラブ】

時代の流れとともに、故人との別れにも多様化の波が押し寄せています。お墓に遺骨を納めることが主流だった昔とは違い、寺院などへの永代供養や納骨堂、そして樹木葬など、その形はさまざまです。そんななか、近年注目を集めているのが海洋散骨です。樹木葬と同じく、自然葬のひとつとして知られていますが、なぜ今注目が集まっているのか、海洋散骨を行っている株式会社ハウスボートクラブ代表取締役社長の赤羽真聡さんに話を伺いました。

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海洋散骨とは何?

――海洋散骨とはどのようなものなのでしょうか。

「一般社団法人海洋散骨協会のガイドラインでは、『祭祀の目的をもって、故人の火葬したあとの焼骨を海洋上に散布すること』とされ、簡単に言うと、亡くなった故人の遺骨を海にまく埋葬方法のことです」

――貴社の海洋散骨は、どのように行われているのでしょうか。

「我々が行っているのは、亡くなられた故人を火葬したあとの遺骨を当社事務所に持ってきていただいて、粉骨ルームと呼ばれる部屋でご家族の立ち会いのもと、遺骨をパウダー状にします。その粉骨を水に溶ける紙製の袋に入れて、ご遺族にお渡しします。その後、船で散骨する海に出航し、船の上から海に散骨。思い思いの形で、故人とのお別れを提供させていただいています」

遺骨はパウダー状にして水溶性の紙袋へ【写真提供:株式会社ハウスボートクラブ】

――散骨するのは、遺骨のすべてなのでしょうか。

「それはご依頼される方によって異なります。すべての遺骨を散骨される方もいらっしゃいますし、一部を手元に残しておきたいという方もいらっしゃいます。依頼される方のご要望に沿って、適宜対応させていただいています」

――海に遺骨をまく海洋散骨は、法律的にどのようになっているのですか。

「我々が海洋散骨を始めた頃は、そういった法律やガイドラインがありませんでした。そこで、散骨事業者が集まって『一般社団法人日本海洋散骨協会』を作り、そのなかで、たとえば遺骨は細かく粉砕しなければいけない、散骨は陸から一定距離以上離れた場所でなければならないなどのガイドラインを作成しました。それから10年ほど経ってから、協会が作成したガイドラインを踏襲する形で厚生労働省からのガイドラインが作成され、より広く海洋散骨の安全性が知られるようになりました」

海洋散骨が近年増えている3つの要因

――そもそも貴社が海洋散骨を始めたのは、どのような経緯があったのでしょうか。

「海洋散骨は、弊社の創業者である村田ますみが18年前に始めたものです。会長の母親は沖縄の伊江島でダイビングを楽しむような方だったのですが、亡くなる前に『亡くなったら、海に散骨してほしい』と話されていたそうです。その後、会長の母親が亡くなったときに伊江島で散骨をしたのがきっかけでした。当時はまだ、海洋散骨はそれほど一般的ではなかったので、会長は『これを世の中に広めたい』と思い、弊社を立ち上げたのが我々の始まりです」

――始めた18年前からこれまでに、どのくらいの方が海洋散骨をされていますか?

「2023年秋時点で、約5000件ご利用いただいています。近年は増加傾向にあり、直近の1年間では約860件の利用がありました」

――なぜ、増えているのでしょうか。

「いろいろな観点があると思いますが、考えられる要因が3つあります。ひとつは、そもそもこの海洋散骨という埋葬の仕方を多くの方に知っていただけるようになった点です。そのうえで、二つ目はやはり『墓じまい』というのが広がりつつあるなかで、そのひとつの方法として検討される方が増えたのかなと感じています。そして三つ目が、多様性が認められるようになり、生涯独身で過ごされる方が増えてきました。そのため、後継者のいない人や、お墓を持っていない人が多くなっているのかなと考えています」

本人の意向がほとんどだという海洋散骨【写真提供:株式会社ハウスボートクラブ】

海洋散骨の現状 生前の話し合いも大事

――実際に海洋散骨を利用される方は、故人の意向が多いのでしょうか。

「そうですね、当社の場合の話になりますが、基本的にはご本人の意向がほとんどです。故人の遺志が約7割、故人が海好きなど好みに合うというのが約2割ですから、全体の9割に海洋散骨への思いがあったと我々はとらえています」

――散骨できる海域も増えているのでしょうか。

「現在、全国81か所で船が出航可能ですので、海に面するすべての都道府県で海洋散骨ができるようになっています。また、海外に関してはハワイで一部、可能です。日本人にとってハワイは結婚式を挙げるなど、特別な場所になっているようで、ハワイの海にも特別な感情を抱いている方が多いようです」

――海洋散骨したいと思ったら、どうしたらいいのでしょうか。

「可能であれば、生前に海洋散骨の体験をしていただきたいです。当社では毎月、東京や横浜で体験クルーズを行っているのですが、実際に船に乗ってみると、口コミやホームページを見るだけではわからないリアルな体験ができ、実際のイメージがつきやすくなります。たとえば、思った以上に船が揺れるので、どうやって遺骨をまいたらいいのだろうとか、お花はどうしようかとか……。もしご本人の参加が難しい場合は、ご家族の方でもいいと思います。実際に体験することでイメージが変わると思いますので、まずは体験クルーズに参加されることをおすすめしています」

――親や自分が亡くなったときのために考えることだと思いますが、やはり今のうちから十分に話し合っておく必要がありそうですね。

「そうですね。これまで、故人の埋葬先はお墓だけでした。ですが、現在は納骨堂や樹木葬など、埋葬の仕方が多様化しています。海洋散骨は、その選択肢のひとつです。ですから、自分に合った埋葬先を選んでいただきたいというのが、我々の考え方です。まずはどういう形で眠りにつきたいのか、そこが一番大事だと思いますので、生前のうちにご家族で話し合われる時間を持ってほしいと思っています」

◇株式会社ハウスボートクラブ
2007年の創業以来、東京湾を中心に全国各地で海洋散骨のサポートを行う。ダイビング好きだった村田ますみ現会長の母親の「亡くなったら、海に散骨してほしい」という願いを実現したことがきっかけで、「世の中に広めたい」と海洋散骨「ブルーオーシャンセレモニー」を主軸の事業とする会社を設立。年々、海洋散骨の利用者は増え、昨年は1年間で約860件、スタートして17年で約5000件の利用があったという。

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