借入金利「引き上げ」、許容度が上昇 日銀のマイナス金利解除で企業意識に変化

2024年4月「金融政策に関するアンケート」調査

3月19日、日本銀行はマイナス金利解除やイールドカーブ・コントロール(長短金利操作)の撤廃を決めた。マイナス0.1%としてきた短期の政策金利を、0~0.1%へ変更し、利上げに踏み切った。
東京商工リサーチは4月1~8日に企業アンケートを実施し、企業の資金調達への影響を探った。この1年間で借入金利が「すでに上昇している」と回答した企業は17.7%に達し、政策を変更する直前の2月のアンケートから1.6ポイント増加した。向こう半年の借入金利について、メインバンクより「引き上げをはっきり伝えられた」、もしくは「可能性を示唆された」と回答した企業は合計30.8%に達し、2月より5.2ポイント増加した。

政策変更の方針は決定前に広く報じられていたこともあり、借入金利「引き上げ」に対する企業の許容度も変化している。メインバンクから借入金利について、現状から0.1%上昇を打診された場合、「受け入れる」との回答は77.3%に達した。0.3%の上昇では37.3%、0.5%の上昇では19.1%だった。2月調査では、それぞれ73.3%、34.7%、18.8%で、「受け入れる」企業の割合は増加した。

今回の調査で多くの企業が借入金利の上昇を織り込んでいることがわかった。ただ、本業での稼ぐ力が改善しない場合、外注費や設備投資、人件費などコスト面にシビアな事業計画の策定に繋がる可能性もある。

※本調査は、2024年4月1~8日にインターネットによるアンケート調査を実施し、有効回答4,369社を集計・分析した。
※資本金1億円以上を大企業、1億円未満(個人企業等を含む)を中小企業と定義した。
※前回調査は2024年2月14日公表。


Q1.資金調達の借入金利は今後どのように変化すると思いますか?昨年4月の水準と比較して回答ください(択一回答)

「すでに上昇」が17.7%
「2024年7~12月のあいだに上昇する」が最多の37.5%(4,264社中、1,601社)だった(2月調査32.2%)。「2024年6月末までに上昇する」は18.8%(803社、2月調査21.1%)、「すでに上昇している」は17.7%(755社、同16.1%)にのぼった。
「すでに上昇」、もしくは「今年中に上昇」と回答した企業は合計74.0%にのぼる。2月の調査では69.5%で、4.5ポイント増加した。
「すでに上昇」と回答した業種別(業種中分類、回答母数10以上)は、トップは「洗濯・理容・美容・浴場業」の38.4%(13社中、5社)だった。

Q2.今後(概ね向こう半年)の資金調達の借入金利について、メインバンクより今年に入ってから、どのような説明がありましたか?(択一回答)

「金利引き上げ」に言及は30.8%
「今後の金利の話はしていない」が65.4%(4,369社中、2,859社)で最も多かった。2月調査では68.9%だった。また、「金利引き上げの可能性を示唆された」は25.3%(1,106社、2月調査21.8%)、「金利引き上げをはっきり伝えられた」は5.5%(241社、同3.7%)だった。こうした「引き上げ」に言及した企業は合計30.8%で2月調査(25.6%)より5.2ポイント増加した。
「引き上げ」に言及した企業を業種別(業種中分類、回答母数10以上)で分析すると、 トップは「洗濯・理容・美容・浴場業」の61.5%(13社中、8社)だった。

Q3.メインバンクから今後の資金調達の借入金利について、既存の利率より0.1%、0.3%、0.5%の上昇を打診されたと仮定した場合、貴社はどのように対応しますか?(択一回答)

「受け入れる」と回答した企業は、上昇幅が0.1%では77.3%(3,834社中、2,965社)だった。0.3%では37.3%(3,673社中、1,371社)、0.5%は19.1%(3,553社中、682社)で、上昇幅が増加するほど、割合は低下した。ただ、2月調査(それぞれ73.3%、34.7%、18.8%)と比較すると、「受け入れる」と回答した企業の割合は増加した。


3月19日に日銀はマイナス金利政策の解除を決めたが、長期金利に大きな変化はみられず、円安基調も続き、住宅ローン金利も低位で安定している。政策変更が決定される前に広く報じられるなど「市場との対話」も奏功し、17年ぶりの利上げは大きなインパクトを与えていないようにみえる。ただ、企業と金融機関に限定すると風景は様変わりする。

メインバンクから向こう半年の借入金利について、「引き上げをはっきり伝えられた」、もしくは「可能性を示唆された」と回答した企業は合計30.8%で、2月調査より5ポイント以上増加した。「洗濯・理容・美容・浴場業」や「パルプ・紙・紙加工品製造業」、「繊維工業」、「道路貨物運送業」など、コロナ禍の影響や原材料・人件費などのコスト高、構造不況、法令改正の影響を受ける業種が上位に並ぶ。「金利のある世界」の入口に戻ったいま、金融機関は業種特性などを加味して、与信コストをシビアに見直しているようだ。

借入金利の上昇幅について、中小企業は既存金利より0.3%上昇した場合、「他行へ調達を打診する」との回答が半数を超え、大企業では0.5%上昇で過半を突破する。金利上昇への許容度や金融に求めるサービスは企業ごとにまちまちで、金融機関の出方次第ではメインバンクシェアが大きく変動する可能性も秘める。原材料、エネルギー、人件費に加え、借入コストも上昇する時代に突入し、企業も金融機関も生き残り競争が一層激化しそうだ。

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