アングル:多国籍企業、中国事業資金を元で調達 ドルよりコスト低下

Laura Matthews Shankar Ramakrishnan

[ニューヨーク 9日 ロイター] - 中国で事業展開している多国籍企業の間で、現地事業の資金確保のために人民元建て債券(パンダ債)を発行する動きが増えている。過去6年間で初めて、米ドルで調達するよりもコストが安くなったためだ。

多国籍企業はここ数年間、ドルか自国通貨で資金を調達し、それを元に換えて中国子会社に貸す傾向が強かった。ドルの金利がゼロに近かったため、そうした手法の方がコストが安かった。

しかし昨年後半から、米連邦準備理事会(FRB)が高金利を維持する一方で、中国は景気減速に対応して利下げを余儀なくされたため、元で調達することのメリットが際立つようになった。

米中の金利差により、企業は元で調達した方が150ないし250ベーシスポイント(bp)も金利コストを節約できる。

市場専門家によると、現地の通貨で調達すれば為替リスクを防げるという利点もあり、通貨スワップやパンダ債への関心が急激に高まった。

スタンダード・チャータードの英国マネジングディレクター、デジリー・パイレス氏は「つまり元が必要な企業にとっては、元で借りることが魅力的になった」と話す。

元での調達が増えた背景には、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)以降に多国籍企業がいくつものサプライズに見舞われてきたため、そうしたリスクに備えたいとの意向がある。また、企業が高金利環境の中で資本コストを引き下げる新たな方法を模索していることや、元が徐々に国際市場で受け入れられつつあることの表れでもある。

ある米優良企業の通貨トレーダーは、元はかつて流動性が低かったため企業の資金調達手段に使われなかったが、そうした認識も今では変わりつつあると話した。

ただ、FRBが年内に利下げを開始するなら、元による資金調達の優位性は失われるかもしれない。

<通貨スワップ>

昨年6月以来の中国の利下げにより、米中の国債利回り格差が数年ぶりの水準に拡大したため、通貨スワップの利用もここ数カ月で増えている。

リスク管理アドバイザリー企業チャザム・ファイナンシャルの幹部アモル・ダールガルカー氏によると、4月1日時点で、1年物のドルとオフショア元(CNH)の通貨スワップは米金利より2.28%低くなっている。つまり、企業はドルよりCNHで資金調達した方が金利コストを228bp節約できる可能性がある。この幅は2022年の同時期に比べて300bp拡大した。

同氏は、「以前は好機ではなかったが、今は好機だ」と述べ、昨年末ごろからこの通貨スワップの需要が増え始めたと説明した。

BNPパリバのグレーターチャイナ向けグローバル市場事業責任者、ジョージ・サン氏によると、パンダ債(非中国企業が発行する元建て債券)の発行は今年500億ドル近くに達しており、過去最高だった昨年1年間の1430億ドルを抜きそうなペースだ。

<不透明感に対応>

元で資金を借りて資産とマッチさせるコストが下がったため、このうまみを長期にわたって固定しようとする企業が増えてきた。

中国の通貨スワップ取引は大半が期間3ー5年だが、ソシエテ・ジェネラルの幹部、アントワーヌ・ジャックマン氏によると最長10年間のスワップの需要も増えている。

BNPのサン氏によると、元での資金調達は、11月の米大統領選後に通商政策が変化した場合に為替レートの変動リスクを避けられるという利点もある。

サン氏は「貿易の状況がどうなるか不透明で、中国と米国の両方で事業を行うことが分かっている以上、通貨と金利のミスマッチは最小化しておきたいものだ」と語った。

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