生まれつきの責任感と義務感の持ち主、アン・ハサウェイ【成田陽子連載:私が会った人気スターの昔と今】

筆者とアン

約40年にわたってハリウッドを中心に映画記者活動を続けている筆者が、その期間にインタビューしたスターは星の数。現在の大スターも駆け出しのころから知り合いというわけです。ということで、普段はなかなか知ることのできないビッグスターの昔と今の素顔を語ってもらう興味津々のコーナーです。今回は新作『ブルックリンでオペラを』に出演のアン・ハサウェイについて。(文・成田陽子/デジタル編集・スクリーン編集部)

成田陽子
ロサンジェルス在住。ハリウッドのスターたちをインタビューし続けて40年。これまで数知れないセレブと直に会ってきたベテラン映画ジャーナリスト。本誌特別通信員としてハリウッド外国人映画記者協会に在籍。

学校はいつでも戻れるからと初主演作のために名門大学を中退

筆者とアン

アン・ハサウェイの新作『ブルックリンでオペラを』(2023)の公開は不運にもアメリカでの俳優組合のストライキの真っ最中。特別な許可を得て「弱小の制作会社でもメジャーのスタジオでも同じ最小限の広報活動」のルールのもと、アンは甲斐甲斐しく出演に至った経緯やら役作り、共演者との会話などについて語ってくれた。

「2019年に脚本を読んで、最高に面白いストーリーだって思ってすぐに出演依頼を出したのだけれど、その直後にコロナ危機になってしばらく休止期間になったのです。最高に尊敬するマリサ・トメイと卓越した演技力を見せるピーター・ディンクレージが共演することになって物凄く撮影が楽しみでした。

監督のレベッカ・ミラーとの打ち合わせでも、私の詳細にこだわる質問に気軽に答えてくれてポジティブなやる気に満ちてました。私が演じたパトリシアを、現実的に、信憑性を見せて役作りしたのもレベッカの支持のおかげです。何しろインディペンデント映画ですから、低予算で犬もプロデューサーの犬を使ったり、マリサともっとやり合いたかったのに時間がなくて駄目だったり、それなりの苦労もありました」

2001年ころのアンPhoto by GettyImages

初めてアンに会ったのは『プリティ・プリンセス』(2001)の時。当時19歳のアンは本物のお姫様のように品があって可愛かった。

「憧れのジュリー・アンドリュースと共演出来た上に英国のしきたりとか礼儀作法も優しく教えてくれて、彼女のおかげで何とか王女役をやり遂げたのです。この役の為に大学を中退しなければならなかったけれど学校にはいつでも戻る事が出来るし、女優としてのチャンスをものにしたかったの」

と名門ヴァッサー大に通っていた才媛のアンは爽やかな笑顔で答弁していた。『プラダを着た悪魔』(2006)の頃からアンはぐんと成長して、王女様から1人前のタフな女優として安定したスタンスを見せるようになり、『ラブ&ドラッグ』(2010)では裸になっての熱演を見せ、『レ・ミゼラブル』(2012)では髪を剃り、細い体というのにさらに20ポンドも瘦せてファンテーヌ役を激演して、晴れのアカデミー賞助演女優賞を受賞。約10年間で凄い速度の出世であった。

同性婚支持や女性の地位向上運動にも積極的に携わる

筆者とアン

2004年から4年間、イタリー人の起業家と交際、しかし不正なビジネスをしたかどで彼が逮捕されて、この恋愛は終わったのだが、この頃はさすがにかなりやつれが見えていた。

そういう時でもインタビューを中止にしたりせず、しっかりと出て来て、はきはきと答えるプロと言うより、生まれつきの責任感と義務感の持ち主なのである。弁護士の父親と歌手の母親に愛情たっぷり、躾けは厳しく育てられた毛並みの良さが覗くのであった。

この時のストレスからアンは鬱病になり、タバコを吸うようになったそうだが、菜食主義を試してこの期間を克服したと言う。2012年には完璧なビーガンになったものの、2年後の2014年には止めている。

2012年に俳優にしてビジネスマンのアダム・シュルマンと結婚、新郎の宗教のユダヤ教のセレモニーだった。この結婚式の写真を雑誌に売り、その売上げを同性婚を支える団体に寄付している。2016年3月に長男が誕生、次男が2019年11月に生まれている。

同時にアンは自らの不妊症のトラブルについてもオープンに語っていた。女性の向上問題にも積極的に参加して、2018年には300人の女性たちとコラボしてセクハラや差別から女性を守る「タイムズ・アップ」運動を立ち上げている。

現在、企画が8本もリストアップされているが、そのうちの1本はジェシカ・チャステインと共演の『マザーズ・インスティンクト』(母性本能)という女性のドラマで、オスカー女優同士のダブル競演が楽しみだ。

前回の連載はこちら

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