『アンチヒーロー』が突きつける世の中に蔓延る毒 長谷川博己抜擢の意図を飯田Pが明かす

長谷川博己が主演を務めるTBS系日曜劇場『アンチヒーロー』が、4月14日よりスタートする。これまでに『マイファミリー』『VIVANT』などの話題作を手掛けてきたプロデューサーの飯田和孝が取材に応じ、作品に込めた思いやキャスティング理由を明かした。

本作は、殺人犯をも無罪にしてしまう“アンチ”な弁護士を通して、視聴者に「正義とは果たして何なのか?」「世の中の悪とされていることは、本当に悪なのか?」を問いかける逆転パラドックスエンターテインメント。

飯田プロデューサーは完成した第1話について、「やりたかったことはやれたなという感じ」と手応えを語る。「主人公のダークヒーローが“どこまで踏み込んでいくか”が注目されているポイントだと思いますが、きっと予想よりもダークなところに行っている気はしていて。(「アンチな弁護士」と聞いて)おそらく“違法スレスレのことをする”といった想像をするかと思いますが、それよりも人間の内部……人の弱みにつけこむというか。そこを視聴者にどう受け入れてもらえるか、ワクワクもあり、ちょっと興味もありますね」。

コロナ禍の2020年、脚本家・福田哲平と共に立ち上げたという本企画。「メッセージ性というよりも、とにかく次から次へと見たくなるような、引き込まれるエンターテインメントを作ることを念頭に置いていた」とした上で、「今は人を傷つけるのも簡単だし、評価や称賛が一瞬にして崩れ落ちる時代。その中で、『本当に真実が見えているのだろうか』と常々思っていて。自分の目、自分の耳、自分の肌でしっかりと感じなければ、それが引き金になって誰かを不幸にしてしまうこともある。だからこそ、自分の感覚をもう1回大事にすることが必要なんじゃないか、と。ドラマを通して、そんなことを少しでも感じてもらえたら」と狙いを語る。

主人公のアンチな弁護士を演じるのは長谷川博己。飯田プロデューサーは「最初の企画書から、主人公のイメージキャストには“長谷川博己”と書いていました」と振り返る。

「主人公は掴みどころのない人間で、何を考えているかわからない。けれども、実は胸の中に芯を持っているのかもしれない。“簡単には正体がわからない”というところを重要視して、そこを体現してくれる方と考えたときに、真っ先に長谷川さんが浮かびました。僕は2017年の『小さな巨人』(TBS系)にもプロデューサーとして参加していて、長谷川さんには芯の強さもある反面、繊細さだったり、いろんな面を持ち合わせている方だなと。僕自身、その期間だけでは全部が掴み切れなかったので、もう1回お仕事したいな、という気持ちと、このキャラクターに日本の俳優さんの中で一番合っているのではないか、という思いがありました」

主人公の同僚弁護士を演じるのは北村匠海。飯田プロデューサーは「演じるのがすごく難しいキャラクターだと思っていて。ド新人ではないけれど、弁護士になってそれほど年月は経っていない。ある種、視聴者目線的なキャラクターにもなってくる中で、そこをどう表現していくのかと考えたときに、北村さんの表現力に注目しました」と明かし、「実際にご一緒してみると、すごく頭のいい方だけど、頭で芝居をしていないんです。第1話から第10話まで台本がある中で、ちゃんと“この段階から、こう変遷していく”という計算はあるんですが、演じるとそれが計算に見えない。すごく自然な佇まいをされるというのが、北村さんの特長だなと思います」と絶賛する。

一方、クールな弁護士を演じる堀田真由については「このキャラクターを演らなそうな人がいいなと思ったんですよね」と言い、「堀田さんはすごく柔らかくてかわいらしい印象があったので、ちょっと偉そうな言い方になりますが『この役をやらせてみたい』と。それに演技が巧いので、少しずつ素性が明かされていくキャラクターと、しっかりと向き合ってお芝居をしていただけるんじゃないかなと思いました」と起用理由を述べる。

なお、キャスト決定以降の台本はいわゆる当て書きだが、「演じる俳優にキャラクターを寄せることはしていない」とも。「基本的にはストーリーが一番面白くなるように。あくまで、キャラクターがあってのキャスティングです」と説明した。

コンプライアンス遵守が叫ばれる今、挑戦的ともいえる本作。飯田プロデューサーは「脚本家には『フルスイングで』と伝えています。“最後はいい人になるんだよね”“結局ヒーローなんだよね”というところで物語をストップさせるのはやめようと。『行き切ったものを作りたい』『ドラマを面白くしたい』といった思いでTBSの審査部や考査部とも打ち合わせをして、意見をもらいながら作っています」と明かす。

「僕自身は『ひよったかな』と思っていましたが、メイキングのインタビューなどで俳優さんがことごとく『攻めてる』とおっしゃっていて、『ヤバいかな?』とちょっと心配にはなりました(笑)。でも、今の時代に伝えるべきことを伝えるためには、やはり世の中に蔓延している毒の部分をしっかりと描かなければいけないのではないかと。我々のやりたいことがきちんと伝わらず、それが万倍になって跳ね返ってきて、制作陣やキャストが傷つくような事態は絶対に避けたい。中途半端さが命取りになるはずなので、しっかりと描いていこうと思います」

さらに「僕は“謝ったら許してもらえる”“悪い印象が付いたとしても、法律上釈放されたら許してもらえる”という世の中ではないと思っているんです」と続け、「たとえば会社でパワハラをした社員がいたら、その人はずっとそう見られてしまう。子どもには『謝りなさい』と言うけれど、そんな簡単なことではないじゃないですか。『見てる人は見てくれている』と言うけれど、見ていてくれた人がまず潰される世の中だと思うんですよね。すごく矛盾した空気感があって、だからこそ主人公は“殺人罪”というレッテルを貼らせないために動いている。全話を通じて、そこに存在するメッセージを感じてもらいたいという思いもあって、あえてトップシーンは強いセリフから入っています。きっと全話観ていただければ、言いたいことはこれだったんだな、とわかってもらえるかなと思います」とした。

最後は「とにかく第2話まで観てください」とメッセージ。「僕らはいかにドキドキわくわくハラハラしてもらえる主人公にできるか、ということを全身全霊でやっているので、その長谷川さんを見に来ていただけたら。二次的要素で、“何か感じることがあれば嬉しいな”程度なので、あまり難しく考えず、まずは長谷川さん演じる主人公を見に来てほしいです」と力を込めた。

(文=nakamura omame)

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