「あす、この家壊しにきます」こぼれる涙…公費解体に複雑な思い 40年暮らしたわが家に別れ 富山・氷見市

能登半島地震から3か月あまり。富山県氷見市の被災地にも春が訪れました。

「これからどこに住めばいいのか…」

長年暮らした自宅を公費解体した親子の揺れる思いを取材しました。

能登半島地震発生から3か月あまり。被害の大きかった富山県氷見市姿地区にも春がやってきました。

桑原桂子さん(89):「桜咲いてきれいやなと思って眺めとる」

地震で自宅が全壊した桑原さん親子。40年以上住み続けた家の解体が始まりました。

桑原敏夫さん(66):「あんまりすっきりしたのでね。ここに家があったのかなあという思いです」

あの日突然家を失い…「1番見つけたいものは、現金と通帳」

元日の地震で、桑原さんは所有する建物4棟が被害にあい、このうち母屋と納屋は全壊。市道を塞ぐように倒壊しました。地震発生当時2人は外出中で無事でした。

家を失った2人は、避難所生活を余儀なくされます。

桑原敏夫さん(66):「私の家はだめでした。住む場所がないんですね。全壊なもんですから。自分の家に住んだほうがいいですわ」

母 桂子さん(89):「食べるものはここで十分食べられるさかいね、心配ないがやけど。今からの生活がね、心配やわね。いつまでこんなが続くがかな」

地震から1か月。桑原さんの自宅を訪れると、何かを必死で探す姿がありました。

記者:「探しているものは?」

桑原敏夫さん(66):「1番見つけたいものは、現金と通帳。印鑑ですね。銀行印。あと実印ですね。あとマイナンバー」

公費解体の書類の準備も進みません。結局、この日は何も見つかりませんでした。

桑原敏夫さん(66):「どうすることもできないですね…」

市内の応急住宅に2次避難も年金暮らしで「どうしていこうか」

2次避難先は市内の一軒家。

桑原敏夫さん(66):「ここが台所です」 記者:「いつも夜ご飯はどうされているんですか?」

桑原敏夫さん(66):「ここで食べています。作って食べています」

足の悪い母に代わって、桑原さんが家事をしています。慣れない生活ですが、ようやく温かいご飯を食べられるようになりました。

家賃は現在市が負担していますが、2年後には自己負担となります。

母 桂子さん(89):「5万か。5万もいるもんで。いつも考えとるんやちゃ。心配でね。こんな高いところにおられるかなあと思って」

桑原敏夫さん(66):「会社定年になりましたので、年金生活なんですよね…今からどうしていこうかなと思っているんですけど。未定です」

『あす、この家壊しに来る』言うたときに、やっぱり涙出た…

解体始まる地震から3か月。いよいよ、自宅と納屋の解体が始まりました。

桑原さんも解体に立ち会います。

桑原敏夫さん(66):「セカンドバッグないですか?セカンドバッグ」 解体業者:「これ?」 桑原敏夫さん(66):「それそれそれ。あーありました、現金」

ずっと探していたものたちが次々とがれきから出てきました。

記者:「よくスキーされていたんですか?」 桑原敏夫さん(66):「そうそう。極楽坂。極楽坂ですね。日曜日ごとに行っていました。ずぶ濡れになっとるかと思ったんですけどね。あーうれしいですね」

母、桂子さんは…。

母 桂子さん(89):「『あす、この家壊しにくる』言うたときに、やっぱり涙出た…ひとりでに涙出て…」

結婚を機に19歳でこの地区に移り住み、70年の月日を過ごしてきました。自宅は、大工だった亡き夫・惣一さんが建てました。

母 桂子さん(89):「ここのあたりの人みんな他へ行くさかいに寂しくなるけれども。それでもやっぱり…」

桑原さんは「いつかまた姿地区に」と話す母の思いを汲んで、ある希望を残しました。

桑原敏夫さん(66):「基礎工事部分はまだ崩れていませんので、まだ大丈夫だと思っています」

基礎を解体せずに残して、その上に再び自宅を構えられるようにします。

ちょうどこの頃、壊れていた姿地区の寺の鐘も作り直されました。

長福寺 北鹿渡文照住職:「以前よりももっときれいに直していただきました。そこで皆さんには喜びの鐘を1つずつ撞いていただきたい」

桑原さんも復興を願う音を響かせます。

しかし、この数日後…。

残されているはずの基礎はなく更地にー。

記者:「以前、基礎のお話されてたじゃないですか」

桑原敏夫さん(66):「残念ながら、相当ひどい状態なものですから、全部解体ということでお願いしました」

地震の影響で、基礎には大きなひびが入っていて壊さざるを得ませんでした。

桑原敏夫さん(66):「他で家建てて住むという訳にもいかないものですから。ここでなんとか生きていきたいなとは思っております」

母 桂子さん(89):「今からどうして…どこに住めばいいか」

希望を感じさせる春の訪れ。しかし、桑原さんたちが次の季節に踏み出すのは簡単ではありません。

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