『虎に翼』はリーガルドラマ×ジャンプ漫画? “100年先”へと続いてく吉田恵里香の脚本

朝ドラことNHK連続テレビ小説『虎に翼』は第2週「女三人寄ればかしましい?」(脚本:吉田恵里香/演出:梛川善郎)にして、さっそく“リーガルエンターテインメント”らしさが発揮された。

ヒロイン・猪爪寅子(伊藤沙莉)は昭和7年、明律大学女子部法学科に入学。年齢も生い立ちも違う60人の同期のなかから男爵令嬢の桜川涼子(桜井ユキ)、弁護士夫人の大庭梅子(平岩紙)、朝鮮からの留学生・崔香淑(ハ・ヨンス)と、教室のなかでどこか浮いた者たちとして行動を共にするようになる。涼子がかなりのセレブ、梅子はだいぶ年長で主婦でもある。崔は異国人。寅子は元気で悪目立ちするタイプ。

ほかにクラスではもうひとり浮いた存在の人物がいた。男装の山田よね(土居志央梨)である。彼女は誰とも交わろうとせず、むしろ積極的に喧嘩を売るタイプのようで、孤高の人だが、寅子は彼女に「うっとおしい」と言われても気になってならない。こういうおせっかいな感じは朝ドラヒロインらしい。

よねが授業を抜け出したのを追いかけた寅子は裁判所で裁判の傍聴を初体験する。そこで繰り広げられていたのは、離婚裁判。夫・東田(遠藤雄弥)が控訴したため離婚が完全に成立していない。そのため妻・峰子(安川まり)の財産は夫のものになっている。この時代、婚姻状態の女性は「無能力者」とされ、財産は夫が管理することになっていた。峰子は母の形見を取り返したいのに取り返せない。法律がこんなにも理不尽なものだとは……。法改正がされればこんな目に遭わずに済むのだろうが、その法改正が延期になった。峰子はちょうど時代の過渡期に苦しんだ人物であろう。

法律は守らないといけない。改正されない限り手出しできない。八方塞がりで思考停止になりそうなところ、寅子の家の下宿人・優三(仲野太賀)は「法律とは自分なりの解釈を得ていくもの」と言い、穂高は「法廷に正解はない」と、可能性を考えることを授業の一貫にする。

法律は揺るがないものではないのか。寅子は何か突破口がないか勉強を続けた結果、民事訴訟法第185条に「法律や証拠だけでなく社会 時代 人間を理解して 自由なる心証の下に 判決をくださなければならない」とあることを発見。裁判長(栗原英雄)の自由な心証に期待し、再度、裁判を傍聴することにする。生徒たちも誘って。穂高もそれに賛成し、傍聴が課外授業と相成った。

いつも空いている傍聴席をずらりと女性たちが並び、なにか異様な雰囲気が漂うなか、峰子の弁護士(じろう)と、東田の弁護士(長谷川忍)が舌戦を繰り広げる。人権派ふう弁護士とクールな弁護士の拮抗するやりとりをシソンヌのふたりが演じたことがSNSでも好評であった。

コントを得意とするお笑い芸人は芝居の要素のひとつである対象の特徴を端的に表現することが得手なので、短い時間で、裁判の状況を明確に見せるにはふさわしい。

法律を扱ったドラマは理屈部分が敬遠されるのではないかと懸念もあったが、うまく回避できている。劇中劇や再現映像のように、主軸のドラマと少し雰囲気が違うほうが、この場合、見やすくなる。

法廷パートの過程部分を見やすくクリアーできれば、あとは弱者を苦しめる理不尽な状況を華麗に回避するヒューマンドラマ展開で、心すっきり、いい気分に。裁判長は、今回のケースは権利の濫用であるとし、峰子の財産を彼女に返すように判決を下した。

だが、主人公側がうまくいってめでたしめでたしではなく、あと味に苦みを残す。これは小さな一歩に過ぎず、離婚裁判はまだ続くし、よねはクズ夫を完膚なきまでに叩きのめすまでには至らず、反省もなくこれからも同じようなことを続けるだろうと絶望を抱いたまま。

それでも小さな一歩を積み重ねていくことで、何かが変わるのだと信じる穂高のまざなしは、主題歌「さよーならまたいつか!」の「100年」と重なって見える。1日1歩、100年積み重ねたら、世界が変わる希求ではないか。

リーガルものが人気になるわけがよくわかる第2週であった。理路整然として誰もにわかりやすいし、先述したように理不尽な目に遭っている弱者が法のもと、正攻法で逆転することは爽快なのだ。楽しみながら自分を守る知識が得られるのだから、こんなにありがたいものはない。

以前、NHKはお昼に『バラエティー生活笑百科』(1985~2021年)という情報バラエティー番組を放送していた。芸人がレギュラーで、生活のなかでおこるトラブルを巧みな話術でわかりやすく紹介し、相談員に扮し、解決方法を考え、プロの弁護士が解説するという、多角的な構成で楽しめた。『虎に翼』は『生活笑百科』のノウハウも引き継いでいるのではないか。また、吉田恵里香は『SLAM DUNK』や『ONE PIECE』などの『週刊少年ジャンプ』漫画的なノリも盛り込んでいるように感じる。法律を弱者が強者を殴るものと考えるよねと、盾や傘や毛布と思う寅子との対比も平和的に描いていて心地よい。

朝ドラを一部の特権階級や知識階級が満足するもの化することなく、このままドラマと情報がうまく掛け合わさったら、大衆にも強く訴求しそうな気がしている。

筆者のテレビドラマレビューのスタンスは、視聴者層のバランスがいかにとれているかを基準にしている。何を基準にするかは各々の自由であり、あくまでこれは筆者の基準である。そういう意味で法に正解はなく、裁判官の自由な心証で判決を下すという考えには大いに共感する。自分の物差しを持ち、他者の物差しも尊重しながら、ドラマを観て論じていきたいと改めて思うのは法律というものを題材にした『虎に翼』の醸す清澄な空気によるものだろう。どんなことでも生きていくなかで、たくさん勉強して視野を広げてより良いものとは何かを考えることの重要性が問われている気がする。

(文=木俣冬)

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