「涙の女王」キム・スヒョンの天才、としか言いようのない表現力に、大号泣が待っている9〜10話レビュー【韓国ドラマ】

結婚生活の危機を迎えているふたりの間に、愛を取り戻す奇跡は起こるのか? 「涙の女王」は韓国tvNで2024年3月9日から放送されているドラマ。Netflixで土曜と日曜に配信中です。マチュアリストでは全16話のレビューをお届けします。9〜10話について紹介しましょう。
※ネタバレを含みます

★7〜8話はこちら★

あれほど離婚を願ったはずなのに……。ペク・ヒョヌ(キム・スヒョン)とパク・ヘイン(キム・ジウォン)という元・夫婦の心には、お互いを思い合う“愛”があることを知る9~10話。

毎話、エンディングのあとに公開される「エピローグ」は、ヒョヌとヘインが恋に落ちた瞬間や幸せな記憶が描かれて、素敵なプレゼントをもらえる気分で楽しめた。でも、10話の「エピローグ」はズルい。大号泣が待っている。

すべてを失い、豪邸も追い出され、龍頭里にあるヒョヌの実家に居候することになったクイーンズ財閥ご一行。「離婚したのだから」とヒョヌ家族の親切に甘えまいとするヘインだが、ヒョヌは「僕が安心できるから、今は君が折れて。少しだけ不幸を薄めよう」と諭す。ヘインの勝ち気で強がりな性格を知り尽くしているからこそ、傷つけないようそっと寄り添うヒョヌのやさしさが沁みる。

その一方で、ヒョヌはクイーンズ財閥を乗っ取ったユン・ウンソン(パク・ソンフン)の手口を密かに調査。不動産投資詐欺でクイーンズ株を不法に奪取したことを突き止め、「ユンのやり方で奪い返す」と誓う。いよいヒョヌvs.ウンソンの直接対決スタートだ。

さっそくヒョヌは帰宅途中にウンソンの手下に襲われる。が、学生チャンピオンだったボクシングの腕前で手下を警察に突き出す。キム・スヒョンの身のこなしがしなやかで胸キュン、だ。

その乱闘の最中に、ヘインの居場所を突き止めたウンソンが龍頭里に現れ、「主治医は家族にしか病状を教えない。なので家族になれ。クイーンズデパートの社長に復帰しろ。俺が君を助ける」と高圧的に決断を迫る。ウンソンが夜の闇の奥から登場する姿が、ヘインに対する執着の強さを感じさせて、怖すぎる。

さて、乱闘から帰宅して、ヘインに傷の手当てをしてもらいながら、「こうして傷を負ったらこまめに薬を塗って、絆創膏を貼っていれば、今とは違ってた」とつぶやくヒョヌ。対するヘインは、結婚せずに別れていれば、自分とは正反対の人と幸せに暮らしていたはず、と憎まれ口をきく。だが、ヒョヌはきっぱり、「それでも同じ選択をした」と言い切る。

きっとヒョヌは、様々なトラブルに直面して気づいたのだろう。夫婦が長い人生を一緒に過ごすには、相手を気づかい、声をかけ、コミュニケーションをとる日々の努力を忘れてはならないことに。そして、ヘインと結婚した運命を後悔などしていないし、諦めてもいないことに。

2人には「傷には薬と絆創膏」の小さな積み重ねが足りなかった。「『今日は何が?』と、そばにいるときなぜ言えなかったんだろう」というヒョヌの後悔に、思わず我が身を振り返る。

一方、ヘインはヒョヌに罪をかぶせようとするウンソンに一人で立ち向かう決心をし、「私もあなたを心配する余裕はない。私のために何もしないで。私なりに方法を探す」とヒョヌを突き放す。落ち込むヒョヌがどうしたか?がキーポイントだ。

そして、ウンソンの指示に従い、社長復帰会見にのぞむヘイン。だが、その口から語られたのは、ウンソンに脅迫されてこの場に出たこと、さらに余命宣告を受けているという衝撃の事実だった。ヘインがヒョヌに言った「私なりの方法」が、この一撃。残された時間は少ない。だからこそ、「確実な近道」を選択したヘインはあくまで強く、演じるキム・ジウォンはと凛として美しい。

すべてをさらけ出したあと、騒然とする会見場の片隅にいるヒョヌを見つけて、「これでよかったよね?」と確かめるように見つめるヘイン。その瞳は、ヒョヌを守り抜いた安堵を湛えているように映る。そして、ヒョヌも涙をこらえ、瞬き一つせずにヘインを見つめ返す。約40秒間、言葉もなく、目と目で心を通わせ合う2人の演技に胸が震える。

そして、10話エピローグ。「何もしないで」とヘインに突き放された夜、兄と深酒をしたヒョヌは、出会ったころにヘインから言われた「あなたが酔うとかわいくて、胸がときめく」という言葉を思い出していた。「僕はヘインを見ると胸がときめく。ヘインも酔っている僕にときめくかな?」「会えないと会いたいし、会っていても会えなくなりそうでたまらなく怖い」—— それは、余命短いヘインのそばにいてやりたい、その思いを受け容れてほしい、という切なる願いがあるからに違いない。

葉っぱ占いをしながら家路につくヒョヌ。ヘインの部屋の前にたどりついたとき、「好き」で葉っぱが1枚残った。「好き?」。思わず笑みがこぼれるヒョヌ。「でも、僕は違うのに……僕は愛してる」。その言葉をドア越しにヘインが聞いているとも知らず、ヒョヌが愛おしさを込めた優しい声で最後にポツリとつぶやく。「愛してるよ、ヘイン」……

たったこれだけのセリフなのに、ヒョヌの心にある幸せ、喜び、痛み、苦しみ、後悔といった感情の揺らぎが手に取るように伝わってくる。キム・スヒョンの天才、としか言いようのない表現力に涙腺は勝手に決壊。しばらく画面の前から動けない。そして、鬼リピした。名作の予感しかない。

そう、ヘインは「愛してるよ、ヘイン」を聞いたことで、ウンソンの脅しに屈せず、記者会見で真実を語り、ヒョヌを助ける覚悟が決まったのだ。エピローグが見事に活きている。

ウンソンとの戦いは始まったばかり。2人の切ない“愛”は、正真正銘の命懸けだ。奇跡でもいいからハッピーエンドへの道を歩むことを祈らずにはいられない。

Netflixシリーズ「涙の女王」独占配信中


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