【社説】日米同盟強化 国民への説明軽んじるな

訪米中の岸田文雄首相がバイデン大統領と会談し、安全保障分野の連携強化に合意した。自衛隊と米軍の一体的な運用が加速する。

日米同盟が「前例のない高みに到達した」と誇らしげだが、国民への説明もなければ国会論議も経ていない。首相の姿勢は前のめり過ぎる。

首脳会談で両国は「グローバル・パートナー」として、世界的な課題に協力して取り組むことを確認した。

特に注目すべきは、自衛隊と在日米軍の部隊運用に関わる「指揮・統制」の連携強化である。これまでの米軍再編に伴う司令部機能の集約、基地の共同使用、集団的自衛権の行使容認から、さらに踏み込んだ。

指揮・統制の連携強化が進めば、有事の際に自衛隊が米軍の指揮下に組み込まれる恐れがある。当然、憲法との兼ね合いが問題になる。日本の指揮権の独立を損なうことがあってはならない。

アジア太平洋地域では、力や威圧による現状変更の試みを強める中国やロシア、北朝鮮の脅威が増している。平和と安定を維持するために、日米両国が連携して抑止力を高める必要性は理解できる。

ただし安保政策の変更はリスクや負担を伴う。国民の理解や合意を得る必要があるのに、首相はその過程をあまりにも軽んじている。

反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有を明記した安保関連3文書の改定が象徴的だ。防衛政策の大転換であるにもかかわらず、国会閉会中に閣議決定だけで済ませた。殺傷能力のある武器の輸出解禁もそうだった。

今回の日米同盟強化は米国で初めて明らかにされた。国民の生命に関わる防衛、安保政策をなし崩し的に変更することは許されない。

岸田首相の訪米は、2015年の安倍晋三氏以来の国賓待遇だった。日本が22年に反撃能力の保有や防衛費増額を決めたことに対し、バイデン政権が高く評価した結果だといわれる。

同盟の強化により、今後も米国からさまざまな協力を求められそうだ。中国や台湾に近い九州・沖縄の防衛関連施設の使用を求められる可能性もある。

地域の平和と安定は、安全保障の強化だけで実現できるものではない。日本政府には中国との対話を求めたい。

日米首脳が共同声明で中国を名指しで批判すると、中国政府は「強烈な不満」を表明した。日米の連携が対中包囲網の強化と映れば、中国との溝はますます深まる。

米国は中国と厳しく対立する半面、政権幹部や高官が中国政府との対話を継続している。その積み重ねは危機管理になる。日本にはこのような動きがほとんどない。

外交まで米国偏重になるのは危うい。日本は戦後築いてきた平和国家として独自の外交を展開し、地域の緊張緩和に貢献すべきだ。

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