「カンニングが悪いのは当然だが、それが理由で自死に至るのか」男子生徒の遺族が提訴に踏み切った理由 「学校の対応には強い疑問」裁判の行方は―

大阪市天王寺区にある有名進学校「私立清風高校」の男子生徒が期末試験でのカンニングが発覚した2日後に自殺したことをめぐり、男子生徒の遺族が、学校側に損害賠償を求める裁判を起こしました。SNSやニュース記事の書き込みには「カンニングが悪い」「卑怯者というのは当然」という意見も上がる中、遺族が提訴後に代理人を通じて出したコメントには、男子生徒への長時間にわたる厳しい叱責や指導、死亡後の学校側の対応への不信感が垣間見えました。

■泣きながら謝罪する生徒に約4時間叱責・指導

当時清風高校2年生の男子生徒の両親の代理人は、清風高校を運営する「学校法人清風学園」に1億円あまりの損害賠償を求めて大阪地裁に提訴した後、取材に対し、遺族のコメントを明かしました。

男子生徒の両親のコメント

「息子はなぜ自死を選ぶことになったのか、清風学園に責任はないのか。親として分からないことばかりです。カンニングが悪いことなのは当然です。しかし、それを理由に自死に至るようなことになるのかどうか。この結果をもたらした学校の対応については強い疑問をもっています」

訴状などによりますと、2021年12月に行われた期末試験の1日目、倫理政経科目の試験が行われた午前11時すぎに、男子生徒のカンニング行為が発覚します。

男子生徒は、生徒指導室で多数の男性教師らに囲まれて叱責されたり反省文を書かされたりして、母親が学校に呼び出された後も、学園長室で5人の男性教師に囲まれ、「カンニングは卑怯者がやることだ」などと叱責され、男子生徒と母親は泣きながら教師らに謝罪したといいます。男子生徒と母親が午後3時すぎに下校するまで、叱責や指導は約4時間にわたります。

日頃から朝礼などで「カンニングは卑怯者のすることだ」と訓話していたという清風高校。全科目が0点となり、自宅謹慎を申し付けられた男子生徒には毎日反省日誌を書くことに加え、1巻1時間程度を要する「写経」を80巻分行うという課題が与えられます。

自宅謹慎の間、友人たちとの連絡を禁止され、翌日、男子生徒は1日中写経などに取り組みます。母親は「もう明日にしたら」と声をかけたものの、男子生徒は「もうちょっとやってから寝る」と答えます。

次の日の早朝、家から男子生徒がいなくなっていることに気がついた母親は警察に届け出ると、男子生徒は近所で変わり果てた姿で見つかります。死亡したのは、午前2時半ごろと推定されていて、課題に区切りをつけた後か、取り組んでいる途中にこっそり自宅を出て、自殺を図ったとみられています。

男子生徒が残した遺書には、「死ぬという恐怖よりも、このまま周りから(学校内から)卑怯者と思われながら生きていく方が怖くなってきました」と書かれていました。

■第三者委員会「自死との指導の因果関係を否定」 遺族「真摯な対応なかったのは残念」

男子生徒の両親のコメント

「亡くなったあとに学校側の真摯な対応が無かったことも残念に思っております。学校での指導死はあってはならないことだと思います」

男子生徒の死亡後、第三者委員会による調査が行われましたが、生徒へのアンケートは行われることはなかったといいます。報告書は公開されていませんが、自死と学校側の指導との因果関係を否定しているといいます。

また、遺族側の意見について第三者委員会は、「大阪府に対し『意見書』を添えて報告すればいい」と説明したものの、大阪府に意見書は受領されず、学校側に調査不足を指摘したものの、満足する回答は得られなかったということです。

学校側は取材に対し、第三者委員会の調査結果について、「詳細な内容を伝えるのは遺族の意向もあり差し控える」としながらも「調査結果を尊重する考えだ」とし、提訴については11日時点で「訴状が届いていないため、コメントできない」としています。

■裁判のポイント「カンニングの是非ではなく、指導の在り方と“予見可能性”」

裁判のポイントについて、子どもの人権保障や学校問題の解決・支援などに取り組む大阪弁護士会の笠原麻央弁護士は、「カンニングの是非が争点ではなく、指導による心理的な影響を受けた生徒のその後の行動が予測できたどうか(予見可能性)がポイントになる」と指摘します。

笠原弁護士は、「子どもたちが“自己の将来とのつながりを見通せるような”教育的観点に立って、“卑怯者”という言葉を使うことが適切なのかどうか。さらに複数の処分は、生徒に過重な物理的負荷を負わせた可能性があり、指導というよりも“懲罰”の性格が強かったのではないかとさえ思う。裁判所が予見可能性を判断するにあたって、このような指導の在り方、物理的・心理的負荷の強弱が影響を及ぼすだろう」と話しました。

また、学校側が行った第三者委員会の調査について、「学校側のヒアリング以外に、生徒へのアンケートなどを行うかは『調査の目的』や『保護者が求めていること』などを総合的に判断することになるので、絶対にしなければならないものとまでは言えない。ただ、学校の指導を他の生徒たちがどう受けとめていたかなどを把握することは無関係とは言えず、私が調査委員会の委員であれば生徒の声を聞いてみたい」とした上で、「学校側が第三者委員会の調査結果を有利に使おうとするならば、ガイドラインに沿った調査が行われたかどうかについても裁判で明らかにしなければならない」との見解を示しました。

さらに、「カンニングしなければならない状況がなぜ生まれたのか、指導の中で生徒の話をきちんと聞こうとしたのか、生徒を全否定して“卑怯者”という言葉を不用意に押しつけていなかったかなど、学校の指導の在り方についても総合的に問われるべき。過去にもカンニングへの懲罰については学校関係者と議論を交わしたことがあるが、第三者委員会の在り方も含めて、今回の提訴は大きな問題提起だと思っている」と笠原弁護士は語りました。

男子生徒の遺族は裁判を通して「二度と息子のようなことが起こらない社会をとなるために何が必要なのかも考えていきたい」とコメントしています。

一度のカンニングがきっかけで自ら幕を閉じてしまった17歳の生涯―。男子生徒の命をなぜ守ることができなかったのか、裁判の行方が注目されます。

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