【社説】韓国総選挙、与党大敗 日本との関係悪化気がかり

 韓国の総選挙で、対日関係の改善に尽くしてきた尹錫悦(ユンソンニョル)大統領の保守系与党が大敗した。もともと少数与党で国会対応には苦労していたが、革新系野党の大勝で、与野党の議席差が一層広がった。

 求心力や政策推進力の低下は避けられない。約3年の任期を残す尹政権が、従来の政策変更を余儀なくされる恐れも指摘されている。

 気になるのは対外政策だ。とりわけ日韓関係。尹大統領の就任前は「史上最悪」といわれるまで冷え切っていた。徴用工など主張の食い違う問題が山積していたからだ。再び冷え込まないか、日本としても注視する必要がある。

 今回の総選挙は、有権者による尹政権への中間評価という意味を持つ。独断的で対話を重んじない政治姿勢などへの逆風は強く、厳しい審判が下された。与党「国民の力」は、定数300のうち、比例代表向けの系列政党と合わせて、108議席にとどまり、改選前より六つ減らした。

 逆に、最大野党「共に民主党」は系列政党と合わせて19増の175議席。革新系の新党「祖国革新党」は12議席と大幅増となった。法案を迅速に採決できる180議席以上を確保し、国会の主導権を確実に握った。尹政権には大きな打撃である。

 与党の大敗は、「子飼い」の検察出身者を要職に登用した身内びいきや、妻の高級バッグ受け取り疑惑への強い批判の表れだろう。特に、家族の疑惑を追及する特別法を拒否権を使って廃案にした対応は異論を聞こうとしない傲慢(ごうまん)なイメージを定着させた。

 さらに、長ネギの価格に関する尹氏のとんちんかんな発言が政権与党にはマイナスとなった。食品価格の高騰で高まっていた庶民の不満に油を注いだといえよう。

 とはいえ、強引とも批判される尹氏の強い信念と推進力が、日韓関係を急速に改善させることにつながった面は否定できない。

 それだけに、今後の日韓関係が懸念される。野党の「共に民主党」と「祖国革新党」の代表はいずれも日本に対する強硬姿勢で知られている。これまでも、尹政権の対日政策への批判を繰り返してきた。3年後の大統領選に向け、さらに批判のトーンを高めることが予想される。

 良好な日韓関係を支えてきた重鎮議員が相次いで落選したことも気がかりだ。韓日議員連盟の会長や、尹政権の初代外相、野党の知日派議員である。政府間だけではなく、議員相互の交流や意思疎通も重要だ。パイプが細らないように努めなければならない。

 日本にとって、韓国は単なる隣国にとどまらない。植民地支配をしていた負の面も含めて、歴史的なつながりや文化的・経済的交流は深い。

 歴史認識の問題で、両国には意見の隔たりがある。それでも、互いに大局的視点に立ち、韓国の政権が保守系であれ、革新系であれ、意思疎通を欠かさず、一致点を探る努力を続けるべきである。両国関係が良好であれば、北東アジア地域の平和と安定の土台にもなるはずだ。

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