「2024年問題」の渦中でJR貨物の針路は? 今後3年間の中計を読み解く 貨物新幹線構想の進捗は?【コラム】

大量定時輸送にメリットを持つ鉄道貨物輸送。貨物列車は1本で最大650トン(10トントラック65台分)の貨物を運べ、物流効率化や省エネに貢献します(写真:ninochan555 / PIXTA)

年度替わりの4月。今、一番の話題は「2024年問題」かも。「時間外労働の上限規制が厳格化されて人手不足が深刻になる」が問題の本質で、運輸・物流や医療・福祉業界が代表例とされます。宅配便がこれまでの日数で配送できなくなるなど、社会的影響が懸念される中で、産業界全般から期待を集めるのがJR貨物。

「大量の貨物を定時で運べる、トラックから鉄道への物流モーダルシフト」の必要性が叫ばれて数十年。掛け声先行で実績が伴わなかったのですが、輸送手段をトラックから鉄道に切り替える荷主企業が現れています。

JR貨物のニュースは荷主側からも数多く発信されます。サッポロビール(企業名はサッポロホールディングス)は2024年2月から、千葉工場から仙台工場への物流手段をトラックから鉄道にモーダルシフトしました(画像:サッポロホールディングス)

本コラムは、JR貨物が2024年3月29日に発表した、2024年度から3年間の中期経営計画(中計)で貨物鉄道の針路を観測。「貨物新幹線」に関しても追加情報をお届けします。

次の150年に走り出す

本サイトでは取り上げる機会を失したのですが、2023年は「鉄道貨物輸送150年」。日本では、鉄道開業翌年の1873年から貨物輸送が始まりました。

節目の年を乗り越えた「JR貨物グループ中計2026」のサブタイトルは、「一人ひとりが決意を新たに さあ、走りだそう、次の160年へ」。モーダルシフトの受け皿として高まる期待を推進力に、総合物流企業グループへの飛躍を実現します。

う回ルート、代行輸送をスピーディーに

本サイトをご覧の皆さまに関心を持っていただけそうな話題に絞って、中計を読み解きます。

鉄道輸送で力を入れるのは「安全基盤の強化・安定輸送の追求」。最近は自然災害が頻発・激甚化します。鉄道の輸送障害時、旅客と貨物の違い。旅客は自分で行動し、バスなり航空機なり別の移動手段を自分で探しますが、貨物はそういかない。

災害時に取る手立て。鉄道にう回ルートがあれば、JR旅客会社に協力要請します。しかし、迂回ルートがない場合、内航船やトラックで代行輸送しなければなりません。

最重要視するのはスピード。原材料が到着しないと工場は操業できず、商品がなければ販売できません。異常時こそJR貨物の真価が問われるといえるでしょう。

具体的には、利用運送事業者と協働、平時から内航船を一定レベル活用します。船舶輸送利用で、海運会社との信頼関係を築きます。利用運送事業とは通運会社のこと。荷主企業とJR貨物を鉄道貨物駅からのフィーダー輸送でつなぎます。

新南陽駅を代行拠点化

本州の鉄道ネットワークを見ると、東北から北陸エリアまでは太平洋側、日本海側双方に幹線鉄道があります。

JR貨物がう回ルート確保が難しいとするのが山陽線筋。中国エリアには山陽線、山陰線の2本の幹線がありますが、山陰線は通常貨物列車が運行されないので、迅速なルート変更に対応できない可能性を否定できません。

過去情報を検索したら、2018年7月の西日本集中豪雨で山陽線が被災した際、山陰線のう回ルート開設に1ヵ月半を要したというニュースも見付かりました。

そんな時、頼りになるのがトラック輸送、そして瀬戸内海の内航海運です。JR貨物は、山陽線新南陽駅(山口県周南市)を代行拠点化。コンテナホームを拡張、トラック駐車場も整備して、輸送手段変更に対応します。代行拠点は他エリアにも展開します。

山陽線新南陽駅の代行拠点化イメージ。コンテナ列車着発線にトラック駐車場を隣接させてスピーディーに取り卸しできるようにします(画像:JR貨物グループ中期経営計画2026)

EF210、EF510を増備

車両増備に関しては、中計と同時発表の「2024年度事業計画」(単年度計画)に記載されます。

車両・設備関係投資額は178億円。電気機関車(EL)は、EF210-300番台やEF510-300番台を増備します。直流機のEF210は山陽線など、交直両用のEF510は交流電化の九州地区中心に、それぞれ運用します。

車両改造で注目したいのが、東北エリアを走るEH500形の日本海縦貫線対応への改造(一部施工済み)。考え方は中計で挙げたう回ルートに共通しますが、北海道・東北から関東などへの貨物列車は通常、太平洋ラインを走行します。万一の自然災害時に日本海ラインを経由できるようにして対応力を強化します。

2024年度の設備投資計画。維持・更新関連の投資額が成長・戦略投資額をやや上回ります(資料:JR貨物グループ2024年度事業計画)

貨物新幹線は車体と荷役システムの開発がカギ

ラストは、ファンの皆さまの関心が高い貨物新幹線。本サイトでは2023年2月以来、約1年2ヵ月ぶりの登場です。

中計には、「新技術の推進」の項目で「電車型貨物列車の開発検討」、「新幹線による貨物鉄道輸送」が登場しますが、直接の貨物新幹線は登場しません。しかし、鉄道関係のセミナーなどでは会社としての考え方を披露する場面もあるようです。

現状は、前回コラムと同じくあくまで構想段階といったところ。JR貨物は貨物新幹線実現のポイントを、①旅客新幹線をベースにした貨物用車体の開発、②スムーズな荷役システムの構築ーーの2点に集約します。

非常に大ざっぱな話で恐縮ですが、貨物新幹線は旅客新幹線に比べて重量が重くなるため、高速化が求められる新幹線ネットワークとは相反します。積載量確保と高速走行のバランスをどう取るのかを考えます。

荷役システムは、現在のフレートライナーのようにフォークリフトでパレット(貨物を積載する台)を1個ずつ積み卸すスタイルはいかにも非効率。短時間で一気に積載・取り卸しできるシステムが求められます。

残念なことに、今回も「貨物新幹線が実現に向けて一歩前進」の情報はお届けできないのですが、それでもこの話題が求められるのは、「未来に向けた貨物鉄道の展望を新幹線で切り開きたい」のJR貨物、ファン双方の思いがあるからです。

鉄道ファン・貨物ファンなら、貨物新幹線に関心を持ち続け、エールを送りましょう。

記事:上里夏生

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