「自分でコントロールできるのでは」? なぜ「チック」は誤解されるのか、専門家と当事者に実情を聞いた

自分の意思に反して声が出たり身体が動いたりする「チック」の症状が現れる「トゥレット症」当事者は、周囲から誤解を受けることも多い。ある当事者がXで説明したところ、「自分で症状をコントロールできるのでは」「我慢できるのでは」などとして、誹謗中傷する声が寄せられた。

症状は自在にコントロールできるものではないが、なぜこのような誤解が生じてしまったのか。当事者や専門家に話を聞き、向き合い方を2回にわたって考える。前半では、どのような病気なのか、どのような時に症状が出やすいのかを中心に聞いた。

当事者がXで説明→誤解する人続出

発端となったのは、意思に反して攻撃的な言葉や公共の場でためらわれたりする言葉(卑猥な言葉など)を発してしまうこともあるチックの症状の一つ「汚言症」の症状を持つ人に密着し、紹介する動画がX上で拡散されたことだ。これに「相手を選んで攻撃的な言葉を吐いているのではないか」などの声が寄せられると、トゥレット症の当事者でYouTuberの「チック症のタカハシ」さんが24年3月26日Xで「僕(同じくトゥレット症)が解説すると、本当にヤバい相手に対しては症状出ないですね。あくまで僕の場合ですが、適度の緊張感というのは症状を抑えるのに効果があります」などと説明。これに対し、理解の声も寄せられた一方、「症状をコントロールできる」と解釈した人からは誹謗中傷のコメントも書き込まれた。

その後、タカハシさんは27日にも

「命の危険を感じるような状況、例えば猛獣の前であくびは出ませんよね??そのレベルの話をしています。何故か『女性に対しても緊張感を持て』という意見が多いですが、町ですれ違う女性に命の危険なんて普通感じないですよね」

「『緊張』というのにも種類があって、テスト中の程よい緊張感と、人前で発表するドキドキした緊張感は違いますよね。そういう意味で、『適度の』緊張感が大切と言いました。もちろん緊張が症状を抑えるのに効果があるかは個人差があるので個人の意見です」

と補足の説明を投稿している。

そもそも、トゥレット症とはどのような病気で、どのようなときに症状が出やすいのか。J-CASTニュースは4月3日、トゥレット症に詳しい奈良県立医科大学の岡田俊・精神医学講座教授に聞いた。

「心が敏感だから」「厳しいしつけをしたから」起こるわけではない

岡田さんによると、チックとは「非常に素早く、反復するような動きや発声で、自分の意思で抑制が困難な症状」で、声が出る「音声チック」と動作に表れる「運動チック」に分けられる。咳払いや舌打ちといったものを「単純音声チック」、目をパチパチする、肩をすくめるといったものを「単純運動チック」と言い、対して単語を発したり一見意味のある動作のように見えてしまうチック症状は「複雑音声チック」「複雑運動チック」と呼ぶ。

チックは幼児期や小学校低学年頃によくみられ、子どもにとって「非常にありふれたもの」で多くはそのまま消失する。

しかし、「チックが消えてまた現れたり、ある時点から持続して、さまざまな運動チックや音声チックが現れる場合があります」といい、これが1年以上認められると「トゥレット症」と言われる。10歳から15歳をピークにして、大人になると症状が軽減する場合が多いが、大人になっても持続する場合もある。小さい頃のチックが、その後、トゥレット症となるかどうかは、「多くの場合は、小さい時の症状では区別がつかない」という。

要因について岡田さんは、「体質の要素が強い」とし、発症のきっかけも特にないことが多いと説明する。

「心理的なストレスで起こっていると思われることが多く、心が敏感だから、あるいは厳しいしつけをしたら起こるのではないかと誤解されがちですが、そうではない」

「そのときどきの緊張の度合いによって、症状の現れ方が変わる」

岡田さんは、トウレット症のチックは、「そのときどきの緊張の度合いによって、症状の現れ方が変わる」といい、「心理的な緊張によって悪化するのではないか」と思われたりする。また、一瞬は抑制できたりするので「わざとやっているのではないか」という誤解を受けることもある。しかし、「当事者自身が症状をコントロールできるのはほんのわずかな時間だけ」と説明する。

症状が出やすい状態については、次のように挙げた。

「みんなの前で発表するとか非常に緊張する時は強く出ます。それから、リラックスしている時や、緊張がほぐれた瞬間、疲れている夕方や、女性の場合は生理前といったような時も強く出るんですね」

一方、症状が出にくいのは「診察室のなかなど、中等度の緊張の時」という。寝ているときは「基本的には出ないですが、(症状が)強い人の場合には、寝ている時も出ます」。また、「ご飯を食べている時など、単調な作業をしている時は比較的出にくいですが、強い人は出ます」とも加えた。

「つまり、その時々の疲れ具合や緊張度、あるいは作業の内容といったものによって、その時々の症状の表れ方が違ってきます。それを当事者がコントロールすることはほとんどできません。しかし、周りから見ると、それがわざとやっているのではないか、コントロールしようと思えばできるのに、抑制しようとしていないのではないかと見えてしまう。ここが大きな誤解なんです」

また、前出のタカハシさんは「適度の緊張感というのは症状を抑えるのに効果があります」と表現したが、岡田さんは「言葉を補う必要がありますが、言っていることはよくわかります」と理解を示した。「適度な緊張感があるときには症状は出にくいということなのです。この表現だけを見ると、意図的に症状が抑えようとすれば抑えられる、そこに他者との適度な緊張を利用したり、出せる相手を選んで意図的にチックを<やっている>と受け取られてしまったのかもしれない。でも、実際には自分でコントロールはほとんどできませんし、緊張感のもとで一時的に症状が現れにくかったとしても、緊張感から解放された瞬間には激しいチックが出現するのです」と補足する。

「相手への恐怖や緊張があるから症状をがまんして、出せる相手を選んで出しているのではなくて、緊張度が高い相手のいる状況では出なくて、緊張度が低い相手のいる状況では、自ずと出てしまうということなのです。意図的にチックを出す打さないをコントロールしているわけではありません」

X投稿の当事者本人にも話を聞いた

タカハシさん本人にも、5日に話を聞いた。

Xでの「適度の緊張感というのは症状を抑えるのに効果があります」との説明について、タカハシさんは次のように補足した。

「基本的にチックの症状というのは、やってはいけない場面でよく出てしまうんです。中指を立てたくない、立てちゃいけないという場合には、逆に立てたくなってしまう。

例えば僕は車の運転もします。運転中は、僕はチックの症状が出にくいんですよね。それは、(X投稿で言った)『適度な緊張感により症状を抑えられる』一例だと思います。あとは、学校では症状を我慢できるという人も多いです。でも、家に帰ったら緊張が解けて、安心して症状が出ちゃうという人もいます。

だから、チックは我慢できる人もいるのですが、それは症状が出るのを先送りにしているだけ。めちゃくちゃ疲れるし、先延ばしにした後はチックが強くなります」

その上でタカハシさんは、「あくまで自身の場合」だと断った上で、「もちろん、チックを抑えられない人もいるかもしれません。僕の場合は特に、症状を抑える薬を飲んでいるので、その効果で抑えられているところもあるのかもしれません」と補足する。

Xでの説明が拡散されてからは、病気への誤解や無理解から誹謗中傷も寄せられている。タカハシさんは誤解を与えるような表現をしてしまったとしつつも、「なかなか生きづらい、外に出づらい、生活しづらいっていう病気を持っている人がいることは変わりないので、うまく共存できるような道が見つかることを願っております」と話した。

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