梶裕貴、不思議と縁ある“猫の役” 20歳の猫又“ぶちお”役は「あまり感じたことのない難しさ」<となりの妖怪さん>

梶裕貴 クランクイン! 写真:上野留加

妖怪と人間と神様が“ふつう”に暮らす、緑豊かなある町の日常が描かれるコミックス『となりの妖怪さん』(イースト・プレス)。4月6日(土)から、ABCテレビ・テレビ朝日系列全国24局ネットでテレビアニメが放送スタートし、20歳にして猫から猫又に新生した妖怪の“ぶちお”を梶裕貴が演じる。これまでさまざまな猫や妖怪を演じてきた梶だが、ぶちおについては「今まであまり感じたことのない難しさがあった」という。今回クランクイン!トレンドは、本作の魅力と合わせて演技に込めた思いを聞いた。(取材・文=河内香奈子/写真=上野留加)

■20歳の猫又 演じて感じた苦労と楽しさ

――まずは本作を読んだときの第一印象を教えてください。

コミックスの表紙を拝見して、柔らかい雰囲気や色使いの印象から、「日本の現風景や子どもたちのハートフルな日常が舞台となっている作品なのかな?」と。実際に読んでみると、魅力はそれだけにとどまらず…想像していた以上にシリアスなドラマが繰り広げられていて、とても驚きました。そして、面白い。タイトルに「妖怪」とありますが、描かれているのは、総じて“人間ドラマ”かと。繊細で優しい作品にほれ込みましたね。

――本作はほのぼのとした人、妖怪、神様たちの日常を描くと同時に、人とは違う理(ことわり)で生きるものたちならではの“怖さ”や“存在感”も描かれていますよね。

そうなんです。ミステリー要素もあるので、次の展開がすごく気になりますし、キャラクター1人1人にスポットが当たるエピソードもたくさんあって。誰もが光と闇、じゃないですけど、ネガティブな部分、弱いところも抱えているわけで、それを包み隠さず、しっかりと向き合っていく姿が描かれているところに 「なるほど。これは愛される作品なわけだ」と感じましたし、アニメ化にも深く納得しました。

――梶さんはそんな本作で、20歳にして猫から猫又に新生した妖怪のぶちおを演じます。話によるとぶちおは、テープとスタジオの2回のオーディションを経て決まったそうですね。

ぶちおは、動物のような見た目のキャラクターですが、普通に人間と一緒に暮らしていて、普通に会話をする子です。猫としてはかなりの長生きでしたが、猫又としては、まだまだ生まれたばかりの新参者。しかも、猫又になった今でも猫の姿なのは変わらないので、いわゆる“ダミ声”のよう音色で演じるアプローチもあれば、人間と変わらない声を持ってきても、十分成立する存在だなと感じて。

お芝居の面としても、長生きしてきた猫ならではの達観している雰囲気があった方がいいのか、転生したばかりのピュアな人間らしさが強い方がいいのか、いろいろとバリエーションが考えられたので…特に指定があったわけではないのですが、自主的に、最初から2パターンの演技を収録してお送りしたんです。

――猫らしさを意識したり、逆に猫らしさを払拭してみたり。猫又の妖怪だけども人間と共生している存在だからこそ、演技のアプローチの方法はたくさんあったのですね。

二次審査であるスタジオオーディションのときに「(2本送った内の)どちらの方のイメージでしたか?」と相談したところ、「あまり猫らしさを意識しすぎず、人間として演じてほしい」という演出をいただいて。というのも、先生ご自身のご要望で「今後の展開も踏まえた上で、キャラクター性に違和感がないように」という意図があったようなんですよね。その後、先の展開を教えていただくと「ああ、なるほど! だからね!」となったわけですが。

とはいえ…ぶちおのかわいらしい見た目的に、どうしても、それに合うような声の高さや質で演じたくなってしまうところがありまして。いわゆる「声優の性(さが)」と言いますか…(笑)。

なので、もしかするとアフレコが進んでいくうちに、だんだんとかわいらしい方向にシフトしていった部分もあったかもしれないのですが(笑)、そのあたりは臨機応変にというか、バランスなのかな、と考えています。継続している物語に存在しているキャラクターである以上、成長や変化はつきものですからね。それに誰だって、話す相手によってテンションや声色が変わるのは当然のことですし。つまるところ、だからこそ、ただ“動物や妖怪のキャラクターを演じる”というのとは違う、今まであまり感じたことのなかった難しさと楽しさを感じられる役が、ぶちおでした。

■人も妖怪も同じ 共感できる悩みがある

――ここまでぶちおを演じる上でのお話を伺いましたが、客観的にぶちおを見たときに、どんなところが魅力的だと思いますか?

やはり、人間らしいところですかね。ぶちおには僕と同じく、恥ずかしがり屋で人見知りなところがあるので、すごく共感できるんです。僕はもうアラフォーで、これまで生きてきた中での経験則というものがあるので「じゃあ、どうするべきか?」というのが少なからず思い浮かびますし、いざ仕事となればスイッチを切り替えることもできるようになりましたけど…ぶちおは、まだまだ子どもみたいなものですからね。気持ちがよく分かります。

しかも、猫としての生を全うできた、と思っていたら、なぜか突然猫又になってしまって、そのまま人間として、家族と一緒に暮らしていくことになってしまったわけですから。戸惑うのも当然です。でも、そういった悩みに対して、真っ直ぐに向き合っていこうとする彼の物語だからこそ、きっと誰もが励まされるんだと思いますし、応援したくなるんじゃないかなと。

――本作ではぶちおをはじめ、本当にさまざまなドラマが描かれていますよね。

ほかの妖怪たちにも、その妖怪ならではの悩みがありつつ、でもそれは、視聴者の方々にも共感できるであろう悩み事ばかりで。僕はぶちおの声を担当させていただいているので、彼の気持ちに焦点をあてて丁寧になぞっていきましたが、きっと皆さんにとっても、「(それが妖怪でも人間でも)自分と近いな」と感じられるキャラクターが一人はいるはず。そういった入口があると、より作品世界に没入しやすくなるかと思うので、ぜひ共感できるキャラクターを探してみてほしいですね。

――そんなドラマあふれる本作で、梶さんが演じていて印象に残っているシーンと、読者として見たときに特に印象に残ったシーンを教えてください。

たくさんあるので挙げ出すとキリがないのですが…まずは、ぶちおが猫又になり、悩み迷いながらも、妖怪の先輩たちと触れあって行く中で、少しずつ自分の存在意義というか、自分の本当の気持ちに気付いていくところ…って、もう全部あらすじを話してしまいそうな勢いです(笑)。

それから冒頭でもお話ししましたが、本作には優しく穏やかな妖怪だけでなく、シリアスな展開を引き起こす、少し恐ろしい妖怪も登場します。そんな中、それまで猫又としての一歩目を踏み出せなかったぶちおが、とある人物を“守るため”に行動を起こすシーンがあるのですが…そこがもう感動的で。原作を読んだときからすごく印象的なエピソードでしたし、アフレコでは「どう演じようかな」とワクワクした部分でもありした。

――なるほど。

それから、全体的に柔らかい空気をまとう本作でありながら、子どもの頃に父親が行方不明になってしまった女の子・むーちゃん(杉本睦実)の家族ドラマが軸になっている点も印象的ですね。あとは「ワーゲンくん」という自動車のつくも神が登場するのも見どころの一つだと思います。

ワーゲンくんは、車の妖怪ならではの視点の持ち主。そんな彼に、ぶちおも何か通じるところがあるのか、物語が進むにつれ、深い間柄になっていくんです。そんなワーゲンくんにも、家族に対して思うところがあったりして…。この作品には、日本人が古来から持っているであろう価値観や倫理観みたいなものが、丁寧に込められているような気がしていて。至るところに、原作者であるnoho先生の知識や優しさみたいなものがあふれている世界観だなと、僕は感じました。

――ほのぼのしつつも、ピリッとする。アニメならではの『となりの妖怪さん』の世界が今後も楽しみです。最後に少し余談なのですが、梶さんは猫に対してどういう思いを持っていますか?

不思議と猫役を担当させていただく機会が多いこともあってか(笑)、すごくかわいらしいなと思っています。猫の特徴的なイメージでもある、いわゆる“ツンデレ”みたいな部分も愛らしいですよね。でも、そういう意味でいうと…ぶちおにはあまり猫らしさはなくて(笑)。人見知りで、人懐っこくて、どちらかというと犬…? というより、もはや人間らしいキャラクター。人間を演じるときと近い感覚でお芝居しつつも、もともとは猫だったからこその距離感というか、「自分にしかわからないハードルみたいなものがある」という繊細な心の機微を表現をするのは、純粋な動物役をやるときとはまた違う、この作品ならではの難しさであり、面白さだったのかなと感じています。

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