月33万円のはずが…60代夫婦、年金機構からの“緑色の封筒”に安堵も…一転、あとから届いた「年金支給停止通知」に滝汗【FPが解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

60歳前後になると何歳まで働き続けるか悩む人も多いでしょう。判断材料として公的年金がいくらもらえるかを気にする人もいますが、注意しなければならないのは想定外のタイミングで年金が減額されたり支給停止されてしまうケースがあることです。本記事では、 Aさんの事例とともに想定外の「年金減額」が起こりうるケースについて、合同会社エミタメの代表を務めるFP三原由紀氏が解説します。

勤務医のもとへ届いた「緑色の封筒」…開封してみると

現在64歳のAさん。都内の総合病院で勤務医として働いています。初任地で職場結婚した妻は1歳年下、寿退職して主婦業に専念、家庭を守ってきました。

一人娘は2年前に社会人になり独立、現在は夫婦2人とチワワ2匹とでウォーターフロントのマンション暮らしです。休日は愛犬を伴い、夫婦で近所の大きな公園までウォーキングを兼ねて散歩、そして、年に数回の旅行では各地の酒蔵巡りを楽しんでいます。

ある日のこと、Aさんのもとに緑色の封書が届きました。開けてみると「年金の請求手続きのご案内」とあります。そこには、これまでの年金加入状況が記載されていたので、妻と一緒に記憶をたどり記録を確認することに。

というのも、ここ20年ほどは民間の病院で働いていますが、大学卒業後は実に多くの職場を渡り歩いてきました。大学病院、県立病院、厚生連病院、民間病院など思い出すのも一苦労です。

一緒に書類を見ていた妻が県立病院時代の記録がないことに気がつきました。

後日、埼玉県市町村職員共済組合に問い合わせをしたところ、老齢厚生年金と退職共済年金の概算書が送られてきました。合算すると年金見込額は300万円ほどです。妻の見込額は年間100万円ほどなので合計で400万円(月33万円)ほどの年金を受け取れることがわかりました。

Aさんの定年は65歳ですが、定年後については決めかねていました。生涯現役でと漠然と考えているものの、常勤、非常勤含めて具体的なプランは白紙でした。

今回、自身の年金見込額がわかったので、65歳以降はいまよりもペースダウンして年金を受け取りながら働いてもいいか、と考えるようになりました。というのも現在の勤務先である病院から非常勤ではどうかと打診を受けていたからです。

そんなAさんのもとへ再び年金機構から通知が届いたのです。そこには、老齢厚生年金の全額が支給停止になる旨が書かれていました。老齢厚生年金が支給停止になってしまったら、今後のセカンドライフが脅かされます。まさかの展開にAさんは滝のような汗をかきました。

いままで、40年余りに渡って高い厚生年金保険料を納めてきたのに、なぜ支給停止されなければいけないのか? 納得いかないAさんは妻を伴い年金事務所へ説明を求めに行くことにしたのです。

働く意欲を削ぐ「月収50万円の壁」に呆然

公的年金は一定の所得がある人の給付を減らす仕組みになっています。

正式には在職老齢年金制度といい、2024年度は厚生年金を含む収入が月50万円になると、超える分の支給額が半分に減るのです。

<在職老齢年金による年金支給月額の計算式>

基本月額-(基本月額+総報酬月額相当額-50万円)÷2

上記に記載の基本月額は、加給年金額を除いた老齢厚生(退職共済)年金(報酬比例部分)の月額になります。

Aさんの年金支給月額を計算してみましょう。

基本月額:19万円

総報酬月額相当額:90万円

19万円-(19万円+90万円-50万円)÷2=-20万円

上記のように年金支給月額がマイナスになる場合、老齢厚生年金(加給年金額を含む)は全額支給停止となります。 本来は月25万円ほど受け取ることができたのに、もらえるのは老齢基礎年金と老齢厚生年金の一部(経過的加算額)で月6万円ほどです。

1年後には妻の年金支給が始まり、妻のほうは支給停止にはならないものの、当初の年額400万円から172万円へと半額以下に減らされてしまいます。

医師不足が叫ばれるなか、Aさんが生涯現役で気持ちよく働くことはできないのでしょうか。

支給減額を逃れる方法はあるが、ハードルはかなり高い

実は働きながら年金を受け取れるケースもあります。収入と年金(老齢厚生年金)の合計を50万円以内に抑える、かつ、雇用される働き方をやめる、これら2つの条件をクリアできれば在職老齢年金の適用を受けずに老齢厚生年金をまるまる受け取れるのです。

人気テレビ番組シリーズで外科医のフリーランス医師が高額の報酬を手にする様を見かけますが、雇用契約ではなく請負契約や業務委託契約を交わして働けば可能です。

ただし、実際のところ現実的とはいえないようです。フリーランス=個人事業主なので、仕事に対する全責任を負うことになります。

万が一、医療事故などのトラブルが起こったときには後ろ盾になってもらえるであろう病院がないため、極めてリスクが高い働き方といえます。そこまで危険を冒して、在職老齢年金の適用を逃れることにメリットがあるとは考えられません。

一方で、勤務医として働くことはデメリットだけともいえません。厚生年金に加入して働き続けるので、70歳でリタイアすれば以降の年金額に反映されて受け取る金額が増額となります。

これらの話を踏まえ、Aさんは、今後、働き方のペースを落として働くことを視野にいれるそうです。「いままでずっと働いてきたけど、身体が動くうちに年金をもらって友人のクリニックでアルバイトしながらの身分もいいかな。健康で人生を楽しめる時間も有限だしね」と思うようになったようです。

三原 由紀

合同会社エミタメ

代表

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