岐路に立つ島民の「足」 ジェットフォイル老朽化 <地方からの課題 衆院長崎3区補選・下>

船齢が40年近くになっているジェットフォイル「ヴィーナス2」=対馬市、厳原港

 壱岐を経由し博多へ向かうジェットフォイル(JF)が発着する長崎県対馬市の厳原港。8日午後、同市厳原町の男性(65)が乗り場前の屋外で乗船を待っていた。この1年半ほど、通院する妻の付き添いや入院中の見舞いのため、たびたび福岡市を訪れているという。「病人にはフェリーの長旅はつらいが、JFなら短時間で行ける。本当に楽ですよ」
 九州郵船(本社・福岡市)はJF「ヴィーナス」と「ヴィーナス2」の2隻で対馬-壱岐-博多間を運航。近年の利用者数は2019年度44万5千人、20、21年度は新型コロナの影響で20万人台だったが、22年度は34万2千人に回復した。市の担当者は「島外からは観光、島から島外へは病院利用の目的が多いのでは」とみる。
 そんな島民の「足」が岐路に立たされている。九州郵船は船体を毎年ドックで修理するなどメンテナンスを施しているが、2隻とも船齢が30年を超え老朽化が進む。「ヴィーナス2」は40年近くになる。同社や国内唯一の建造メーカーである川崎重工業、国土交通省によると、法令で定められた耐用年数はない。しかし九州郵船の担当者は「ある程度の延命は可能だろうが、いつまで使用できるのかは不明だ」と語る。
 同社はJFの更新を検討してきたものの、ネックになっているのが多額の建造費だ。「ヴィーナス」は約28億円だったが、新規で建造すると70億円以上かかる。資金繰りについては、独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構から事業者が資金の貸し付けを受けられる「船舶共有建造制度」があるが返済は必要。同社は「自社負担だけでの更新は難しい」との立場だ。
 離島航路は国や県が島民の生活に必要不可欠な路線の維持を支援している。しかし、現状ではJF更新のための公的支援制度はない。県は国へ制度創設を強く要望してきたが、実現していない。国交省の担当者は取材に対し、更新の必要性には理解を示すが「船価が上がっているので状況は厳しくなっている。事業者、関係自治体と協議、意見交換を進めている」との回答にとどまっている。
 対馬と福岡を結ぶ交通手段には空路もあるが、海、空の二つの手段があることで使い分けや分散ができている面もある。国境離島新法により島民の航路・航空運賃の低廉化が実施されているが、同法は2027年3月末までの時限立法の上、JFの航路自体がなくなれば元も子もない。
 「こういう問題こそ政治家が動いてほしい」。冒頭の男性は、どんよりとした曇り空の下に広がる海に目をやりながら、こう語った。

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