長谷川、清水、南ら中核5人が躍動も「惜敗」で求められる「準備」【パリ五輪前アメリカ遠征で浮上「なでしこジャパン」大問題と新たな希望】(3)

パリ五輪でも笑顔を浮かべるべく、なでしこジャパンは万全の準備を進めている。撮影/原壮史(Sony α1使用)

パリ・オリンピック開幕が近づいている。サッカー女子日本代表にとって、女子ワールドカップに並ぶビッグな大会である。この4月には、アメリカで開催された強豪がそろう大会「シービリーブスカップ」にも出場。来たる世界大会に向けて、どんな課題と手応えを得たのか。サッカージャーナリスト後藤健生が考察する。

■ブラジルとの3位決定戦「狙い通りの展開」に!

さて、アメリカに敗れた日本は、カナダとのPK戦に敗れたブラジルとの3位決定戦に回った。

そして、ブラジルにもPK戦の末に敗れたのだが、ブラジル戦は明らかに日本が優勢な試合だった。

ブラジル戦の日本はベテランの熊谷紗希をベンチに置き、ローマで熊谷とともにプレーしている南萌華をDFの中央に置いたスリーバックで戦った。南を真ん中にして、右に古賀塔子、左に石川璃音の3人だ。そして、右サイドには清水梨紗、左には北川ひかるをウィングバックとして、ボランチが長谷川唯と林穂之香。前線にはトップに田中美南、右に藤野あおば、左に浜野まいか。全体的に、若手中心の布陣だったが、アメリカ戦に続いて先発したのはGKの山下杏也加、右サイドの清水、センターバックの南、MFの長谷川、そして右サイドの藤野(アメリカ戦は左サイド)の5人。この5人に熊谷を加えた6人こそが、今の代表の中核をなす選手たちと考えていい。

ブラジル戦が行われたオハイオ州コロンバスのロワー.コム・フィールドは、MLSのコロンバス・クルーのホームとして建設されたサッカー専用競技場だけに、ピッチ状態も良く、日本は正確なパスを回して戦った。そして、対戦相手のブラジルもパスをつないでくるチームだったので、日本としては狙った通りの試合を展開できた。

前線からのプレスもはまって、日本がボールを握る時間も長くなった。

しかし、20分ほど経過するとブラジルも日本のパス回しに慣れて、日本の前線の選手をしっかりと捕まえて、チャンスを作るようになる。

それでも、35分には長谷川からのボールを右サイドで受けた浜野がそのままドリブルで持ち込み、早めに入れたクロスを前線で田中が収めて、落ち着いて相手DFをかわして決めて先制した。

■ファウルを誘ってPKゲットも「追加点」が遠い

1点をリードした日本は、後半は浜野に替えて左サイドに上野真実を入れただけで、そのままのシステムで試合を進める。56分には藤野のシュートが枠を捉えたが、ブラジルのGKロレーナが触ってCKとなる。

そして、63分には日本の前線の選手が連係良くプレスをかけて中盤でボールを奪うと、林のシュートがDFに当たってCKとなった。そして、北川が蹴ったCKをブラジルのDFがクリアしたところに林が飛び込むと、ブラジルのファウルを誘って日本がPKをゲットした。

ちょうどブラジルが交代を準備しているときに、日本の狙い通りのプレッシングから手にしたPKだっただけに、これを決めていればブラジルにとってはかなりの痛手となったはずで、日本勝利に終わった可能性が高い。だが、田中のキックは相手GKロレーナの動きに吸い寄せられるかのようにセービングしやすいコースに飛んでしまい、追加点を奪うことはできなかった。

そして、ブラジルが4人の選手を交代させた直後にブラジルのCKとなり、クリスティアーニのヘディングが決まってブラジルが同点に追いついた。選手交代の直後で集中を欠き、マークが混乱したのが原因だった。

■W杯サムライブルーとも「共通する」準備不足

こうして1対1で終了した試合は、延長なしでのPK決着となったが、日本は清家、長野風花、長谷川の3人のキックが連続してGKのロレーナに止められてしまった。

相手のGKを褒めるしかないのではあるが、しかし、3人ともにGKにとって楽なコースに蹴ってしまった。試合中の田中も含めて4人が同じ失敗を繰り返したのである。

2022年の男子ワールドカップでも、日本はラウンド16でクロアチアと引き分けた後、PK戦で敗れてベストエイト進出を阻まれた。そのときに痛感したのは、PK戦に対する準備不足だった。

ブラジルは「シービリーブスカップ」の初戦でカナダとPK戦を戦っている。従って、日本側はブラジルのキッカーやGKの癖を間近で観察できたはずで、日本のほうが情報を持っているのだから、PK戦は有利なはずだった。

女子代表もPK戦の準備は怠らないでほしい。パリ・オリンピックでも当然、PK戦にもつれ込む試合があるはずだからだ。そうした面も含めて、今回の大会での経験が本番につながるといいのだが……。

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