「演劇の見立ての究極形にして理想形」ウンゲツィーファ、北海道戯曲賞大賞受賞の『動く物』と新作『旅の支度』2本同時上演

ミュージシャンの大森靖子や俳優の菅田将暉、FUKAIPRODUCE羽衣主宰の深井順子など、00年代以降、銀杏BOYZの影響を受けたクリエイターが多数登場している。彼ら/彼女らはみな、信頼に足る表現者であり、筆者が本橋龍主宰のウンゲツィーファに興味を持ったのも、フライヤーのイラストを元銀杏BOYZの村井守が手掛けていたからだった。また、坂口恭平や笹口騒音ハーモニカの音楽が劇中で使われていたことや、新作が素晴らしかった松井文など、ほぼ演技経験のないミュージシャンを俳優として起用していたことも、舞台に足を運んだ契機のひとつだ。

これまで6本ほど本橋の関わる作品を見たが、もっとも印象的だったのは、彼が書く脚本における見立ての巧さである。演劇では、ミネラルウォーターが滝や涙になったり、脚立や梯子が天国への階段になったりする。老人が子供を、男性が女性を演じるのも通例だ。

その見立てをここまで広範かつ効果的に活用するか、と驚嘆したのが、いわき総合高校芸術・表現系列(演劇)の公演『Thing Thing Thing』だった。ゆうめいの池田亮と本橋が共同で脚本・演出を手掛けた同作では、生徒全員が持つ布団大のタオルが、風呂敷にも波にもマントにも寝具にも化ける。演劇の見立ての究極形にして理想形だと、驚嘆の感に打たれた。

そんなウンゲツィーファの最新公演は『ウンゲ演劇集 ふたりぼっちの星』で、2本同時上演となる。平成29年度に北海道戯曲賞で大賞を受賞した代表作『動く物』と、新たに書き下ろされた『旅の支度』。1日にふたつの公演をハシゴすることが可能なタイムテーブルとなっている。

前者は同棲するカップルが、消えたペットを探すシークエンスを通じ、ふたりの間に流れる険悪な空気を炙り出す。ペットの正体が一体何なのかが明かされなかったり、過去のふたりの記憶が呼び覚まされたりする中、苦い喜劇が立ち上がってくる。ふたりの心の揺れとペットの存在が絶妙に同期するのが興味深い。俳優は藤家矢麻刀、高澤聡美のふたり。

後者はとある家族の受難がテーマで、母の再婚に伴う旅行の準備に追われる弟と姉の話だ。ある理由から母を呪っている姉は、終始不機嫌で旅行の荷物をまとめるのにもひと苦労。弟は姉の機嫌をそこねないように振舞うが、姉と母の確執はそう簡単には収まらない。テンパったふたりの感情が昂ぶるあたり、俳優の実力がここぞとばかりに発揮されるだろう。演じるのは黒澤多生と豊島晴香。

両作品に通底するテーマは、“対立”ではないだろうか。人と人とが対立する瞬間——。それは現実に自分に降りかかったら面倒だし災難ではあるだろうが、客席という絶対安全な場所から無責任に眺望するのには、おもしろいことこのうえない。そこに機知やユーモアがあれば、なおさらだろう。そして、というか、しかし、と言うべきか、そうしたウェルメイドな会話劇を、われわれ演劇ファンはたくさん見てきたはずだ。だが、ウンゲツィーファの描く“対立”はそうした次元をゆうに超えている。安全だったはずの客席の自分を突き刺し、思い切り揺さぶりをかけてくるのだ。

劇場に入る前と出た後で、価値観やモノの見方が変わる――。それこそ筆者が演劇に求めるものだが、その意味で、ウンゲツィーファの2作品は筆者の考える現代演劇のひとつの到達点だ。少なくとも、2作品の脚本を読んだ限りでは、そう断言できる。それは、本橋が現実を描く際の解像度の高さが尋常ではない、からでもあるだろう。

なお、ネット上の説明によると、会場となる神保町のPARAは、単なる劇場というよりは、美術、演劇、哲学など、様々なジャンルの芸術と人が集うスペースらしい。実際、様々なカルチャーに関するレクチャーや実践クラスも設けられている。そして、ウンゲツィーファはそんなPARAに、レジデンス・アーティストとして関わっているという。

単純な利用や消費の一環ではなく、ウンゲツィーファの作品はPARAの協力のもと定期的に発表され、レパートリーとされるとのこと。クリエイションの模様は、随時、PARAのスタッフでもある中條による日記によって更新されている。舞台美術の面での自由さを筆頭に、PARAという場所の風通しの良さが、この2作品にプラスに作用することは論を俟たないだろう。

文:土佐有明

<公演情報>
ウンゲツィーファ ウンゲ演劇集 ふたりぼっちの星 『動く物』『旅の支度』

2024年4月18日(木)~21日(日)
会場:東京・PARA

公式サイト
https://ungeziefer.site/

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