映画「オッペンハイマー」をフィルム上映、広島市の八丁座19日から 全国で2カ所だけの試み

八丁座の映写室で、映写機にセットしたフィルムを確認する蔵本支配人(左)たち

 広島市中区の八丁座は19日から、クリストファー・ノーラン監督の話題作「オッペンハイマー」を35ミリフィルムで上映する。上映素材のデジタル化が進み、フィルム映写機そのものが映画館から姿を消す中、フィルムによる新作上映は珍しい。配給会社によると、全国でも109シネマズプレミアム新宿(東京)と八丁座の2カ所だけの試みとなる。

 原爆を開発した物理学者の葛藤を描き、米アカデミー賞を7部門で受賞した同作は、通常のデジタル・シネマ・パッケージ(DCP)のほか、迫力ある映像や音が楽しめる「IMAX」や「ドルビーシネマ」のフォーマットで各地の映画館でデジタル上映中だ。

 八丁座は現行のDCP上映に加え、当面は1日1回、午前10時5分からの回をフィルム上映する。2018年2月に特集上映した大林宣彦監督「HOUSE」(1977年)以来、6年ぶりのフィルム上映となる。

 製作現場でもデジタル撮影が普及しているが、ノーラン監督は、映像の色や奥行きを豊かに表現できるフィルム撮影にこだわることで知られる。35ミリ版について「オリジナルネガの粒状感や質感、アナログ的な色彩を凝縮した。映画の世界により入り込むことができる。上映できる場所があることに興奮している」とコメントしている。

 2スクリーンを持つ八丁座は10年の開業時、ドイツ製35ミリフィルム映写機2台を導入。ここ10年でデジタル素材による映画上映が一気に主流となり、1台は21年に廃棄した。残る1台もデジタル映写機の更新に併せて近く処分する予定だったが、「オッペンハイマー」公開をきっかけに継続使用を決めた。

 現存する映写機は「キノトンFP30D」。今月2日、東京から招いた業者に点検してもらったところ、消耗品のランプを交換すれば上映できると確認できた。蔵本健太郎支配人は「フィルム映写機は役割を終えたのかと寂しく思っていたが、上映が実現して本当にうれしい。深みのある映像、腰のある音を体感してほしい」と話す。

 新藤兼人監督の「原爆の子」(52年)をはじめ、デジタル素材のない映画の上映も検討している。蔵本支配人は「できる限りフィルム上映を続け、映画文化の継承につなげたい」と意気込む。

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