【公立夜間中学開校】県内初、夢かなえる場所 意欲燃やす生徒

開校を控える天神スクールで、教員の指導を受けながら新入生誓いの言葉を練習する高野さん(右)

 県内初の公立夜間中学「福島四中天神スクール」が16日、福島市に開校する。さまざまな事情から学び直したいという県民の希望をかなえる学校に、10~80代の男女17人が入学する。開校に携わった教職員や入学する生徒に夜間中学の役割や学びへの期待を聞いた。

 64歳 誓いの言葉

 入学を間近に控え、福島市の高野吉富さん(64)は開校式で披露する「新入生誓いの言葉」の練習に熱を込める。高野さんは中学を卒業後に就職したが、小学生の時に不登校の時期があり、大人になって学習の基礎が足りていないと感じた。

 「日々の生活で目にする看板の英語が読めない」「パソコンの作業が難しい」。苦しい思いを重ね、50歳を過ぎた頃から「学び直したい」と思うようになった。福島市で公立夜間中学が開校すると知り、すぐに願書を送った。「救いの手だと思った。福島市にいながら通えるなんて、本当にうれしい」。高野さんは同校での学びを生活の中心に添えようと、新たな仕事を探している。

 同校は、3階建ての市総合教育センターを活用した学びの場だ。入学生は外国籍2人を含む17人(男性8人、女性9人)で福島市が16人、郡山市が1人。40代以上が76.5%を占める。週5日間の授業で国語や数学、体育など通常の公立中学と同じ全ての教科を学習できる。授業料は無償で、全課程を修了すると中学校の卒業証書が贈呈される。

 幼少の頃は戦争

 「普通の学校に通えるみたいでうれしい」。カンボジア国籍の入学生ベン・スレイニッチさん(43)も入学を心待ちにする一人だ。

 幼少の頃は戦争で学校に通えなかった。2004年から日本で暮らすようになり、日本語学校に通ったこともあったが、読めない文字も多かった。夜間中学の授業でも日本語を理解できるか不安はあるが、期待の方が大きく、「夜間中学で学んで文字が読めるようになれれば、世界が違って見えるかもしれない」と目を輝かせた。

 同校では公立中学の教諭を含め、計14人の教職員が生徒をサポートする。日本語指導を担当する非常勤講師や養護助教諭も配置される。さまざまな年代や国籍の生徒がおり、短い授業時間を充実させるため、1教科に対して複数の教員でカバーするなどの工夫を凝らす考えだ。山内崇司教頭(49)は「生徒たちの自信になって、次に向かうステップになればうれしい」と新入生と同じく胸を高鳴らせる。

 夜間中学 戦後の混乱や不登校など、さまざまな理由で義務教育を受けられなかった人や外国人が学び直しをする公立中学校。文部科学省は各都道府県に最低1校の公立夜間中学校を設置することを求めている。入学要件として〈1〉さまざまな理由で中学校を卒業できなかった〈2〉不登校などでほとんど中学校に行けなかった〈3〉母国で中学校に通えなかった外国籍の人―がある。文部科学省によると2023年4月時点で開校している夜間中学校は17都道府県に44校。

 16日開校へ内覧会に50人 

 福島四中天神スクールの内覧会が12日、同校で開かれ、市民や教育関係者ら約50人が施設を見学した。

 教職員が1~3階を案内し、校内の様子や教科を説明した。職員室と各教室は2階にあり、1階の教室は車いすの生徒のために使用される。3階には更衣室や資料室のほか、保健室を併設した図書室も設置。棚やロッカーなどの備品は廃校になった学校などから譲り受けた。夜間中学で使用される教室や廊下の電気に発光ダイオード(LED)を使用し、夜間でも明るく過ごせるように配慮した。

 内覧会に訪れた市民は「自分も挑戦したい」「校内を見ることができて良かった。もう一回学び直したくなった」と話し、期待の高さをうかがわせた。

内覧会で校内の様子や教科などを説明する教員(中央)。新入生が使う教科書が並べられていた

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