約1億年前の泥岩層でキラリと輝く真っ黒な岩のかけら。「どこかで見たような…」 植物食恐竜イグアノドン類の歯の化石だった

鹿児島県で初めて見つかった、植物食恐竜の歯の化石。最大長3.7センチ、最大幅2センチで、木の葉のような形と表面装飾がイグアノドン類の歯の特徴と合致した

■サラリーマン化石ハンター・宇都宮聡さん

 鹿児島県初の植物食恐竜の化石を見つけた時のことを紹介します。2009年8月、私は脊椎動物の化石を求め、長島町獅子島東部の海岸を歩いていました。

 赤紫色をした白亜紀後期(約1億年前)の泥岩層に狙いを定め、崖の表面を見て行くと、真っ黒な岩のかけらがキラリと輝いていることに気が付きました。周りの岩を崩して取り出すと、エナメル質の歯の化石です。長さ4センチほど、側面には複数の線が浮き上がっていました。

 どうやら植物食の恐竜のようです。しばし手に取り「どこかで見たような…」と記憶をたどると、ギデオン・マンテルの図録にそっくりなものがあったことに思い当たりました。18世紀のイギリスで古生物学に大きな足跡を残したマンテル。彼が世界で初めて発見した、イグアノドンという恐竜の歯でした。

 イグアノドンに代表される鳥脚類の歯は、横から見ると少し反っていて、木の葉のような形をしています。歯冠の縁に粗いギザギザがあり、くしを使うように植物をすき取り、かみ砕くようにできています。この恐竜の仲間の化石は既に、福井県勝山市をはじめ、石川県白山市、徳島県勝浦町、熊本県御船町などで発見されていました。

 獅子島の化石もイグアノドンの仲間の歯と鑑定されました。当時の鹿児島で見つかっていた恐竜化石の中では最も古い時代のもので、植物食としては初めてでした。標本は鹿児島県立博物館に寄贈。現在、04年に発見したサツマウツノミヤリュウの標本と並べて展示されています。

 実はこの場所は、21年に恐竜ボーンベッド(化石密集層)を見つけた海岸です。たった一つの小さな歯ですが、「いつか獅子島で恐竜の本体を見つけたい!」と大きな目標を定めるきっかけとなったのです。

【プロフィル】うつのみや・さとし 1969年愛媛県生まれ。大阪府在住。会社勤めをしながら転勤先で恐竜や大型爬虫類の化石を次々発掘、“伝説のサラリーマン化石ハンター”の異名を取る。長島町獅子島ではクビナガリュウ(サツマウツノミヤリュウ)や翼竜(薩摩翼竜)、草食恐竜の化石を発見。2021年11月には化石の密集層「ボーンベッド」を発見した。著書に「クビナガリュウ発見!」など。

(連載「じつは恐竜王国!鹿児島県より」)

イグアノドン類の歯(図解)

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