高齢者への配慮がない…さいたま市のケアハウス廃止方針、入所者が撤回求め要望書 署名集める利用者家族も

廃止方針の白紙撤回を求めて要望書を提出するケアハウス「ぎんもくせい」の入所者=12日午前、さいたま市役所

 埼玉県さいたま市が廃止方針を示している高齢者福祉複合施設「グリーンヒルうらわ」(緑区馬場)のケアハウス(軽費老人ホーム)「ぎんもくせい」の入所者は12日、見直しを求め、清水勇人市長宛ての要望書を市に提出した。入所者5人が市役所を訪れ、「ついのすみかと思って入所した人の心を踏みにじる」として、廃止方針の白紙撤回を訴えた。

 市高齢福祉課によると、同施設は1993年5月に開設され、「ぎんもくせい」と介護老人保健施設「きんもくせい」を併設している。市は民間参入や施設の老朽化を理由に廃止方針を決めた。ぎんもくせいは2030年3月、きんもくせいは25年3月に廃止する方針を示している。入所者は今年3月末現在、ぎんもくせいが72人、きんもくせいが85人。市は個別の意向を聴きながら、他の施設の転所を丁寧に行うとしている。

 ぎんもくせいの入所者5人が市幹部職員と対面し、要望書と68人分の署名を手渡した。要望書では「他の施設へ転居する高齢な入所者に物理的・心理的負担をかける」「高齢ゆえに保証人がいなくなる」などと懸念を示し、施設の存続を求めた。白紙撤回がかなわない場合は、建物の耐用年数を考慮し、廃止時期を見直して45年まで延長するよう求めた。

 記者会見した代表の田熊敏和さん(72)は「施設が地域社会に果たしている役割は計り知れない。市は意義が薄れたとしているが、存在はまだ大きい」と訴えた。市側から転所への具体的な対応策が示されていないとして、「高齢者への配慮がないことに、入所者は怒っている」と話した。

 要望書を受け取った山崎勝福祉局長は「不安を感じていることは大変申し訳なく思っています。市の方針は説明会で伝えさせていただきましたが、要望内容は市の方針に対する貴重な意見として承らせていただきます」と述べた。

 市は市議会6月定例会に施設廃止に関連する条例議案を提出するとしている。入所者らは12日、江原大輔議長とも面談し、見直しを要望した。

■妻が施設利用の男性訴え「なくさないで」

 さいたま市は、高齢者福祉複合施設「グリーンヒルうらわ」の介護老人保健施設「きんもくせい」を2025年3月末に廃止する方針。認知症の妻(70)がきんもくせいを利用している男性(77)は「妻は今、穏やかに生活している。施設をなくさないでほしい」と訴えている。

 男性によると、妻は3年前ごろから、認知症の症状が出て、要介護3と認定された。2人暮らしで、男性が介護を続けている。妻は夜中に起き、トイレにこもってトイレットペーパーを大量に使うこともあるという。男性自身が体調を悪化させ、「随分苦労して、にっちもさっちもいかなくなった」と振り返った。22年5月ごろから、きんもくせいを利用し、現在は週4日のデイサービス、月5日ほどのショートステイをしている。

 「施設の人は優しく熱心で、水が合った。穏やかに生活できる」と安心した矢先、今年3月2日の説明会で廃止方針を知らされた。民間参入や施設の老朽化が理由と言われても納得はできない。金銭面や立地のほかに、当事者の慣れている場所が非常に重要という。男性は説明会直後から、廃止反対の署名活動を始め、千筆を既に超えた。

 夫妻はいずれも元教員で、結婚して47年ほど。妻はとにかく働き者だったという。認知症になってから、男性が寝ている間に食洗機にトイレットペーパーが入っていたことがあった。「役に立ちたいと思っているのかな」

 男性は妻とできるだけ一緒にいようと、高齢者施設への入所を避けてきた。症状が進み、子や孫の顔は分からないという。「分かるのは俺だけになった。妻はうちが好きでね。きんもくせいのサービスを利用し、自分で面倒を見たい。大事に大事に時間を過ごしたい」。男性はささやかな願いを口にした。

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