『名探偵コナン 100万ドルの五稜星』青山剛昌ワールドが融合!? 物語の重要な転換点に

劇場版『名探偵コナン』シリーズの第27作となる『名探偵コナン 100万ドルの五稜星』が4月12日に公開となって、北海道の函館を舞台に繰り広げられる推理とバトルの物語の全貌が明らかになった。その内容はヤバいの一言。『名探偵コナン』や『まじっく快斗』『YAIBA』といった青山剛昌によるワールドが、ガキッと噛み合いグインと加速するような感覚を味わえる、ひとつの転換点であり新たな出発点とも言える映画となっていた。

建物の屋上で、西の名探偵こと服部平次と怪盗キッドが刀を手にして切り結ぶ。本作の予告編として流された映像には、モノクルを飛ばされシルクハットのつばを着られたキッドの顔を見た平次が、何かに気づいたような展開が描かれていた。

大きな核心に迫る展開でもあるのかと期待させたが、公開された映画では、冒頭にアバンとして流されるシーンでしかなかったことが分かり、キッドと工藤新一が同じ山口勝平の演じるキャラクターだということを、改めて“ネタ”として前振りに使いつつ、今作の主要キャラクターの顔見せをしただけだったのかと思わせた。

本編はといえば、平次とキッドの激突といった要素から少し離れたストーリーになっていた。やはり予告編でほのめかされていた、新撰組の元副長で明治維新では幕府軍の幹部として箱館戦争で戦った土方歳三の遺産をめぐるストーリーなのかもといった予想も、一部には当たっていたものの全体としては別の“お宝”をめぐる物語になっていた。さまざまな作品で活躍してファンの多い土方だけに、『名探偵コナン』でも向かうところ敵なしといった活躍を、もっと見せてほしかったと思った人もいそうだ。

それでも、土方の存在が物語の中で重要な要素となっていることは確かだ。本筋では、土方に心酔していた斧江財閥の創始者、斧江圭三郎が遺した遺産をめぐる争いが描かれていく。その遺産のありかを探る展開が、さすがミステリー作家の大倉崇裕が脚本を手がけていると思わせてくれるくらいに入り組んでいて、江戸川コナンや平次といっしょに暗号解読に挑み、推理を重ねて真相にたどり着く楽しさを味わえる。

第25作『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』でも大倉は、無関係に見えた松田刑事と佐藤刑事の結婚式シーンがドタバタと崩れてその理由が明かされた先に、ある結婚式がどうしてねらわれるのかといった疑問が浮かび、それが安室透を襲った過去の因縁と重なってひとつの大きなタペストリーが織り上がるような物語を作り上げた。『100万ドルの五稜星』でも、手がかりになるアイテムをコナンや平次とキッド、そして別の勢力が奪い合い、それが揃っても解けない謎に挑むといった展開で、最後まで目を離させない。

一方で、第23作『名探偵コナン 紺青の拳』で大倉とコンビを組んだ永岡智佳監督が、第24作『名探偵コナン 緋色の弾丸』以来3作ぶりに映画シリーズに戻ってきて、こちらもいつもながらのスピーディーなアクションをたっぷりと見せてくれる。刀や木刀で切り結ぶバトルがあれば、バイクと車によるチェイスがあり、空中での生身の剣戟という実写ではトム・クルーズでもなければ不可能といった戦いもあって、どれだけキャラクターたちをこき使うんだといった思いが浮かぶ。

そうしたストーリーの中で、『名探偵コナン』をはじめとした青山ワールドの住人たちをそれぞれにしっかりと見せ場を用意した上で活躍させているから素晴らしい。メインとなるのはやはり平次で、すべての謎を解く鍵となる刀を探し回ったり、その刀を横から奪おうとしているキッドを追い詰めたりといった活躍ぶりで平次ファンを喜ばせる。

そんな平次と相思相愛であるにもかかわらず、言葉にできずにいる遠山和葉との関係も今作の見どころで、ある意味メインストーリーと言えるかもしれない。もどかしい2人に箱館で医学生をしていて、居合いの達人でもある福城聖という青年が割って入り、和葉にアプローチをすれば平次の方には第21作『名探偵コナン から紅の恋歌』に登場し、平次への熱愛ぶりを見せた大岡紅葉が執事の伊織無我と共にちょっかいをかける。

そんな紅葉の行動が、北海道の観光スポットめぐりになっていて、中心的な舞台となっている函館も含めて北海道への興味を誘ってくるところも今作の特徴と言えそうだ。タイトルにも絡んでいる、函館山から見下ろす100万ドルの夜景がどれだけの美しさなのか、アニメで描かれたものではなく実物を見てみたいと思わせる。シンガポールに行きたいと思わせた『紺青の拳』以来の“ご当地コナン”と言えそうだ。

キャラクターでは平次と和葉に続いてキッドの活躍も目立つ。変装の名人とはこういうことだといった姿を見せてくれるし、謎解きのストーリーにも神出鬼没ぶりを発揮して絡んで物語を進める。ただ、キッド自身に解決しなければならない課題があって、それに挑むようなドラマにはなっていない。コナンも同様に、毛利蘭との関係が何か進展する訳ではない。その意味では、キャラクターのファンの全員が喜べるオールスターキャストの映画と言えるかもしれない。

何しろ『YAIBA』が主戦場の沖田総司が出て来て鬼丸猛も出てくる。『まじっく快斗』でキッドを追い続ける中森銀三警部も出て来て、娘の中森青子も登場してはコナンの顔をまじまじと眺めて何かに思い至る。なぜか工藤新一の父親の工藤優作と母親の工藤有希子まで出てきて仲睦まじげな様子を見せるが、そうしたキャラクターたちの総ざらいを、単なるファンサービスでは終わらせない事態がやがて起こって観客を震撼させる。

これがヤバい。マジにヤバいのだがどうヤバいかは映画を観てのお楽しみ。言えるのは、ここからどのような展開となり、そしてどのような融合が果たされるのかといった興味がググッと湧いてくるということだ。もしかしたら、コナンと今作では完全にサブに回っていた灰原哀にとって重要な、黒ずくめの組織の問題とも関わっていくのかもしれない。

つかず離れずの腐れ縁のような関係を続けて物語を長引かせるのではなく、何か大きな賭に出たような最新作。だからこそ2025年公開の次回作に流れた超絶イケボイスのキャラがどう絡み、何が起こるのかが今から楽しみで仕方がない。

(文=タニグチリウイチ)

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