昭和へタイムスリップ-。そう感じる光景だった。西日に映えるれんが調のタイル壁。格子状の窓ガラスが輝く。目を引くのはステンドグラスがちりばめられた直径1㍍超の大時計だ。丸みを帯びた数字のデザインはどこか懐かしく、時を刻む姿にここがかつてまちの中心だったと感じ取る。
今年5月に開業150年を迎えるJR神戸駅(神戸市中央区)。市内在住の鳥瞰図絵師で駅舎に詳しい青山大介さん(48)は言う。「山側から見た駅舎は東京の上野駅や北海道の小樽駅に並ぶくらい格好良い。栄光の薫りを残すレジェンドです」
神戸駅は全国2番目の官設鉄道として開通した大阪ー神戸間の終点駅だった。戦後、鉄道の中枢は三ノ宮駅に移ったものの、1日の平均乗降客数は10万人(2022年度)を超え、乗り場の数は五つと市内で最多を誇る。
駅舎はこれまで2度、姿を変えた。初代はれんがと木造を組み合わせた平屋。ほどなくして、隣の兵庫駅と接続させるために2代目が西寄りに新設された。高架化された3代目が現在の駅舎で、戦争や阪神・淡路大震災を乗り越えて90年になる。
駅前から階段を下りると、東西へと通じる地下街「デュオこうべ」が広がる。雑貨店を横目に山側へと進むと目の前が一気に開けた。「サンポルタ広場」だ。吹き抜け構造で地上は全国でも珍しい八角形のバスターミナルがある。天井の装飾も特徴的で差し込む陽光が教会のような荘厳さを伝える。
再び、地上へ。夕照の駅と高架下周辺は過去と現在が交錯する独特の雰囲気が漂う。車輪とレールの擦れる音が響き渡る。時間旅行をした気分に浸りながら伸びる光の鉄路を見つめる。
【よりみち】魅惑のスパイスカレー
JR神戸駅から南へ徒歩10分。稲荷市場にほど近い川崎本通りの一角から香ばしい匂いが漂ってくる。「大衆スパイス酒場ニューヤスダヤ」は客足が途絶えることがない。
香辛料を駆使し、日替わりでおよそ4種類のカレーを提供する。記者はこのうち3種類を注文。挽肉や野菜などの具材がスパイスと溶け合い、ほどよい辛さが口の中に広がる。
店主の藤村勇輝さん(46)はカレーの名店「旧ヤム邸」(大阪市)で5年間シェフを務めた後に独立。惜しまれながら閉店した老舗居酒屋「ヤスダヤ」の店舗跡で5年前から営業する。仕込みは午前7時から。「同じメニューは出したくない」と、自分の舌を頼りに新しい味を追い求める。
この界隈を「昼間から酔客がいるパンチの効いたまち」と表現する藤村さん。店内はターンテーブルや少し怪しげな古本などの私物が並び、混とんとした雰囲気も店のウリだ。
不定休。売り切れ次第閉店。営業時間などはインスタグラム(@newyasudaya)で発信している。(風斗雅博)