【皐月賞 みどころ】史上3頭目となる牝馬Vの偉業なるか!? 最も速い、世代の王者はどの馬か

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「最も速い馬が勝つ」――古くから、皐月賞はそう言い伝えられてきた。

牡馬のクラシックレースの中では最も短い2000mという距離を走るため、ダービーや菊花賞と比べるとおのずとスピード勝負になりがちだが。単に脚が速い=スピードがあるだけでは勝てないの周知の通りである。

第84回皐月賞(GI)枠順

皐月賞を制した馬は、早く出世する――もしかするとこの言葉には、こうした意味が込めらえているのかもしれない。

例えば1999年、このレースを制したテイエムオペラオーは当時、まだ無名の存在。

それが皐月賞を制覇するとクラシック戦線の主役としてライバルたちとしのぎを削り、4歳以降は無敵の快進撃を続け、世紀末の日本競馬界を席巻してみせた。

2012年に皐月賞を勝利したゴールドシップもそんな1頭。道悪馬場をワープするかのように内から伸びてきた彼は皐月賞馬となると、その末脚と豪快なキャラクターで一気に競馬界の主役に上り詰めていった。

この2頭に共通するのはいずれもレース前の時点では世代のトップではなかったということ。

混戦模様の世代のクラシック1冠目を制した馬はその世代をリードするだけでなく、後の競馬界を支える存在となる。例年以上に混沌とした印象を与える今年の3歳牡馬戦線にもそうした軸となる存在が、皐月賞を終えれば現れることだろう。

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そんな今年の皐月賞、主役候補と目されているのがジャンタルマンタルだ。

父のパレスマリスはアメリカでダートGⅠ2勝を誇るのをはじめ、血統構成を見ると芝で走るよりもダートで良績を挙げそうなタイプに感じられたが、実際に走ってみるとパワフルな先行力を武器にデビュー以来、堂々の2連勝をマーク。

デイリー杯2歳Sでは2着馬に軽々と2馬身差を付けるなどレースセンスの高さを早くも見せる形となっていた。

そんな中で迎えた朝日杯FSは馬体こそまだフワフワとしてどこか頼りなげに見えたが、レースではまるで弾むかのようなしなやかなフットワークを見せて他馬を圧倒。

文句なしの走りで無敗の2歳王者となり、最優秀2歳牡馬のタイトルをも獲得した。

この馬に敵う馬はいるのだろうか―― ライバルたちにそう思わせていたジャンタルマンタルだったが、年明け緒戦の共同通信杯では中団から伸びてくるも前を捕まえられずにまさかの2着。

スローな流れが響いたとはいえ、らしくない敗戦は2歳王者の立場を大いにぐらつかせた。

皐月賞は叩き2戦目となるだけに、もう負けられない。しなやかなフットワークは距離延長にも十分対応できそうで、今度こそ2歳王者の意地を見せてくれることだろう。

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俺は新しい時代の王になる―― その名の通り台頭してきたのは、シンエンペラーだ。

兄に凱旋門賞馬ソットサスを持つ国際的な良血馬である彼はデビュー戦で番手から流れに乗って直線で早めにスパートを打つと、迫りくる後続馬を突き放して2着馬に3馬身差を付けて快勝。いきなりスケール感のある勝ちっぷりを見せつけた。

2戦目の京都2歳Sではややあおり気味にゲートを出たことが災いし、後方からのレースを余儀なくされるという厳しい展開となったが、直線に入るとジョアン・モレイラの鞭に応えるようにグイグイと伸び、さらには馬群を割って抜け出してくるという勝負根性のある所を見せて勝利。重賞初制覇を難なく成し遂げた。

ここまで2戦、素質豊かなところを見せたシンエンペラーだったが......

ホープフルS、そして年明け緒戦の弥生賞ともに2着に惜敗。ホープフルSでは先に抜け出したところを差され、そして弥生賞では力を発揮できなかった感があったが、それでも2着を死守したところが大きい。

皐月賞を制して世代の頂点に立ち、文字通り、新時代の王座にシンエンペラーは経つことができるだろうか。

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皐月賞は牡馬のものだけではない。牝馬も出走できるクラシックでもある。そう言わんばかりに、今年は牝馬のレガレイラがエントリーしてきた。

デビューから2戦、すべて出遅れるなどスタートに課題を抱えている馬ではあるが、それを補うだけの破壊力のある末脚がこの馬の武器。

デビュー戦では小回りの函館コースでも直線一気で突き抜け、アイビーSでは素質馬ダノンエアズロックに小差の3着にまで迫った。

そんな牡馬顔負けの実力を持つ彼女が2歳暮れに選んだのは阪神JFではなく、ホープフルS。

牝馬同士とはいえ、忙しいマイル戦を走るよりも牡馬相手でもゆったりとした中距離戦を走れる方が勝算は高いと考えられて選ばれたローテーションだったが......ここでもレガレイラは出遅れたが、直線を向くと上がり3ハロン35秒0の末脚で牡馬たちをごぼう抜き。

気が付けば先に抜け出したシンエンペラーすら軽く交わして勝利して、レガレイラはGⅠホースの仲間入りを果たした。

その直後から、木村哲也調教師は「皐月賞を目指す」と公言。性別の壁にとらわれない挑戦となった今回、勝てば76年ぶり、史上3頭目となる牝馬の皐月賞馬が生まれることになる。

そんな歴史をも変える挑戦を、果たしてレガレイラは成し遂げることができるのだろうか。

混沌とした今年の3歳牡馬戦線。「最も速い馬が勝つ」とされる皐月賞を制し、これからの競馬界をリードする存在は果たしてどの馬だろうか。

■文/福嶌弘

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