まさに“ノボリ劇場”。悲願のリーグ制覇へ首位浮上のC大阪で光り輝いた登里享平の影響力

[J1第8節]C大阪 1-0 川崎/4月13日/ヨドコウ桜スタジアム

J1の・8節で対戦したC大阪と川崎の一戦は、ホームのC大阪が優位に試合を進めると、70分にカピシャーバの左からのクロスにファーサイドでレオ・セアラがヘッドで決勝弾を叩き込み、C大阪が勝利を挙げた。

このゲームで初めての古巣戦を迎えたのが今オフに高卒から一筋15年を過ごした川崎からC大阪に移籍した33歳の登里享平だ。

いつも通り左SBで先発した登里は、SBの概念に捉われない柔軟なポジショニングで川崎を翻弄。C大阪のポゼッションの中心には間違いなくこの6番がおり、川崎での恩師である鬼木達監督にもこう言わしめた。

「今日の試合だけでなく、何試合も彼のプレーを見ましたが、本当にセレッソの中心人物だと思いますし、彼がゲームのキーになっているということをミーティングでも話していました。そういう意味で言うと相手からしたら非常に嫌な選手だなと」

【動画】C大阪レオ・セアラの決勝弾

当の登里は川崎戦に向けては、やはり複雑な想いがあったという。

それでも「アップの時、(セレッソサポーターが)自分の応援歌を歌ってくれた時に、腹を括ってしっかり挑むことができました。心強かったというのが本当の気持ちでした」と、強い後押しを受け、“セレッソの登里”として真骨頂を発揮してみせた。周囲に指示を送りながら、チームをコントロールするサッカーIQの高さを改めて見せつけたのだ。

盟友の川崎FW小林悠もこう振り返る。

「本当に前半からノボリの立ち位置によって、マークがつき切れない場面がありましたし、彼があそこにいることで、相手のビルドアップがすごく循環していました。最後まで捕まえ切れないまま時間がすぎてしまったなと、やっぱり厄介な選手でした」

1-0で勝利した瞬間、C大阪のチームメイトは登里に抱きついて喜ぶも、登里はそっと、近くにいた小林、遠野大弥らに声をかけ、センターサークルへと向かった。

そして、川崎の選手たちと健闘を称え合うと、川崎のベンチへ駆け寄り、鬼木監督やスタッフたちとガッチリ握手を交わしたのだ。その目には光るものがあったように映る。

もっとも、その後は、C大阪のチームメイトたちとスタジアムを一周し、ゴール裏で舩木翔の誕生日を祝うハッピーバースデーが歌われると、「俺!?」と前に出ておどけてみせて周囲を笑わせ、スタジアムを盛り上げた。

C大阪サポーターからのノボリゴールに、誇らしげに拳を掲げた姿は、まさに天性のムードメーカーである彼ならではであった。

C大阪のクラブスタッフに訊けば、加入から約3か月で、すでにピッチ内外で欠かせない存在になっているという。

そして、勝利の余韻が過ぎた頃、登里は「挨拶をできていなかった」と移籍後、初めて川崎サポーターのもとへ。2番のタオルマフラーやユニホームが並ぶ光景を目にするとやはり抑えられない熱いものが頬を流れた。

移籍後、これほど温かく古巣のサポーターに迎えられる選手もそうはいないだろう。

まさに両チームのサポーターからエールが送られたこの日のスタジアムは、“ノボリ劇場”と呼ぶに相応しかった。

本人は川崎で多くのタイトルを手にしてきた自身の経験を還元し、C大阪に悲願のリーグ優勝をもたらしたいと、力強く意気込む。その存在価値を改めて証明した男は、まさに光り輝いていた。

取材・文●本田健介(サッカーダイジェスト編集部)

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