「学校は大きな壁に見えた」小柳ゆきさんの衣装手がけたデザイナー、不登校の5年間で見つけた“自分の居場所”

歌手、小柳ゆきさんのステージ衣装も手掛けた衣装デザイナーが高知にいます。小中学校時代5年間は、不登校でした。「出口のないトンネル」を歩く日々でしたが、次第に光が。最終的に見えたのは“夢の輪郭”でした。

大物アーティストにも衣装を提供

高知県東部の海辺のまち・香南市夜須町。自宅の工房で自作の衣装に囲まれながら製作に没頭する小松希芳さん(28)。

小松さんは、2017年、ファッションブランド「Juno」を立ち上げ、映画やドラマ、舞台などの衣装を製作している。

これまで歌手やお笑い芸人など有名人の衣装も多数手がけてきた。大物アーティストでは、歌手の小柳ゆきさんにもステージ衣装を提供。着物の帯をリメイクしたステージに映えそうなインパクトある一着だ。インスタグラムにアップしたこの衣装が、専属のスタイリストの目に留まり、注文があったという。

小松さんは、着物や帯、端切れなど、これまでたんすの奥で眠っていた素材に命を吹き込むことに、こだわりを持っている。

■小松希芳さん 「最近の衣装はほとんど頂いたものばかりで作っています。日本人独特の『もったいない精神』です。これが端切れや着物だったとは思えないような全く違うものにリメイクして蘇らせる、そういうところにやりがいを感じますね。」

集団生活になじめなかった小中学校時代

小松さんは、小学5年生から中学3年生まで5年間、不登校だった。小松さんには学校が大きな壁に見えた。「常に皆と足並みを揃えて行動しなければいけない」「そうしなければ、はじかれてしまう」そんな集団生活になじめず、いつも周囲の目を気にしながら過ごしていた。窮屈さに耐えられず、次第に学校に足が向かなくなっていった。

■小松希芳さん
「思い返すと、小学生にしては気難しい性格だったのかもしれません。どこか冷めた目で世の中を見ていたような…。学校に行けなくなったことで、家族には随分心配をかけたと思います。自分の気持ちを上手く表現できず、泣いたり怒ったり、自分自身を責め続け、出口のない真っ暗なトンネルの中を歩いているような気持ちでした。」

自分の気持ちをコントロールできず、もがいていた小松さんだったが、中学生になってある変化が現れる。

小松さんは、当時、不登校の生徒をサポートする教育支援センターに通っていた。そこでひたすら、当時流行した“ミサンガ”や“携帯ストラップ”など、大好きなものづくりに時間を費やしていた。中学生のレベルをはるかに超えた完成度の高い作品の数々。教育支援センターの先生たちは、小松さんの才能に気づき、「作品を販売してみないか」と、声をかけるほどだった。自分の個性が認められ、トンネルの向こうに光が見え始めた。その後、中学3年ごろからは洋服を作り始め、今の道につながっている。

不登校経て「夢」の道へ いま若い人に伝えたいこととは

小松さんは、不登校だった日々を、自分の「夢の輪郭」が見えた有意義な時間だったと振り返る。

■小松希芳さん 「 特に中学時代は、年齢関係なく、いろいろな人と関わることで、思いやりの心や感受性を身につけることができました。更に、自分の個性が認められたことで自信にも繋がり、将来進むべき道も見え始めた貴重な時間でした。」

小松さんは、その後被服科のある高校に進み、卒業後は服飾専門学校へ。迷うことなく、衣装デザイナーの道を切り開いていった。

去年は、若手デザイナーの登竜門ともいえるカナダ・バンクーバーでのファッションショーに参加。SNSにアップしていた「春夏秋冬」を表現した4作品が、ショーの関係者に「他にはない色彩とデザイン」と評価されたことで参加することが決まった。

初のファッションショーに向けて、1年がかりで12着の作品を仕上げ、海外デビューを果たした小松さん。着物をリメイクしたパンツルックや18畳ものフラフを裁断して仕上げたドレスなど、独自のスタイルをアピールした。

長いトンネルから抜け出し、しっかりと自分の居場所を見つけた小松さん。不登校の経験から、いま若い人たちに伝えたいこととは?

■小松希芳さん 「不登校になってしまう人にはそれぞれの事情があると思いますが、決して自分を責めたりしないでほしい。私が一番伝えたいのは『何かひとつ、自分の好きなものを見つけること』。私の場合は、ものづくりが好きという気持ちを持ち続け、やりたいことを見つけられたからこそ、今があります。最近はSNSのように、自分から発信できる場所も、チャンスもたくさんあります。すぐに結果が出るとは限らないかもしれないけれど、地道に継続していけば、必ず良い方向が見い出せると思います。努力は必ず、将来の糧になります。」

小松さんが大切にしている言葉とは

工房の近くには海があり、山がある。波の音や鳥のさえずり、近くを走る列車が奏でる音を自然のBGMにイマジネーションを高めながら、自ら選んだ大好きな時間を積み重ねていく。

そんな小松さんには、大切にしている言葉がある。それは一言芳恩(いちごんほうおん)。声をかけてもらったことを忘れずに感謝すること、という意味がある。

■小松希芳さん 「私の人生がまさに、この言葉なんです。不登校だった時期に自分の個性を見つけて背中を押してくれた先生、ずっと私を見守ってくれていた家族。今の自分があるのは、まわりの人の支えがあったからこそです。いろいろな人に声をかけて頂いて、広がってきた世界。今の環境を作ってくれた人たちに感謝して、これからもファッション界で生き抜いていきたいと思っています。」

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