【社説】熊本地震と能登 被災者支援は平時に備えを

自然災害が多発する国だからこそ、過去に学ぶべき教訓は多い。国民全体で共有し、伝承していく必要がある。

2016年の熊本地震の前震から、きょうで8年を迎えた。

■「どこかで見た光景」

今年の元日に発生した能登半島地震で、熊本地震以来となる200人以上が亡くなった。

被災地では「8年前の恩返し」との思いを込めて、熊本の行政職員や教員、支援団体、個人のボランティアらが継続的に支援を行っている。熊本での経験を、ぜひとも生かしてもらいたい。

熊本市を拠点に地域づくりや被災者支援に取り組むNPO法人バルビーの代表理事、中村聖悟さん(50)は1月5日に石川県庁に駆け付け、翌日から輪島市、志賀町などで活動を始めた。

既に9回現地に入り、延べ約40人が生活物資や資機材の提供、自治体や社会福祉協議会などへの助言に当たっている。

他の被災地で陥りがちだった支援の偏りがないように、支援者が少ない能登半島の西側を中心に活動を展開している。

熊本地震では、被災した自宅に残った高齢者や障害者が支援から漏れていた。その反省から避難所以外も巡回し、ビニールハウスで寝泊まりしている人たちや車中泊の人にポータブル電源や食料、飲料などを届けている。

大切なのは「支援の押し売り」にならないことだと言う。避難所に同じ物資が過剰に届いたり、その時点で不要な物が届いたりすれば、迷惑になることもある。「今後も現地のニーズに耳を傾けて支援をしていきたい」と中村さんは話す。重要な視点だろう。

能登の被災者支援は、過去の教訓が生かされていない面が多い。

輪島市の避難所は発生から1カ月以上も間仕切りがない状態が続き、プライバシーが守られなかった。今月3日の台湾東部沖地震では、発生翌日には花蓮市の避難所に間仕切りがあったという。被災者の人権に対する意識の差を浮き彫りにした。

東日本大震災、熊本地震で指摘されたトイレ不足の問題もまた、顕在化している。

被災者支援に詳しく、今回も能登の被災地に入った大阪公立大の菅野拓准教授は、避難所の衛生環境の悪さなどは「どこかで見た光景」と指摘する。日本社会は災害のたびに、平時の準備不足と「闘っている」と話す。

熊本地震は最大震度7を2回も記録する観測史上類を見ない震災だった。九州には多数の活断層があり、同じような大規模地震が起きる可能性は消えない。南海トラフ巨大地震も、いつ起きても不思議ではない。

災害時に被災者が使う携帯・簡易トイレ、食料、飲料などの物資は備蓄できているか。避難所運営や被災者支援のノウハウは共有されているか。次の災害を想定して社会が克服すべき課題は多い。平時に備えを急ぎたい。

■生活再建描けぬ人も

熊本県は5日、熊本地震の創造的復興に一定のめどがついたと判断し、復旧・復興本部会議の終了を決めた。とはいえ、全ての被災者が生活再建の道筋を描けているわけではない。

被害が甚大だった益城町中心部の復興土地区画整理事業は3月末段階で、全地権者308人のうち15人が仮換地案に同意していないという。背景には行政不信もあるとみられる。関係者は理解を得る努力を続けてほしい。

地元でも支援活動に取り組むバルビーの中村さんは、熊本地震が原因で「困窮世帯や孤立した人たちがまだまだいる」と訴える。

先月死去した政治学者の五百旗頭真(いおきべまこと)さんが座長を務めた県の復旧・復興有識者会議は、震災2カ月後にまとめた提言で「災害によって悲惨のどん底に落ちた地方の人々が立派に再生することは、その地方にとって救いであるだけでなく、日本全体の活力と発展に不可欠である」とうたった。

熊本、能登で実現できるよう、九州全体で支え続けたい。

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