【コラム・天風録】熊本地震の教訓

 雄大な外輪山の一角が大きく崩れた跡が生々しい。阿蘇の景観に溶け込むような、熊本地震震災ミュージアムを訪ねた。昨年開館し、約千人が在籍した旧東海大阿蘇キャンパス一帯の地下に眠っていた活断層の脅威を伝える▲きょう最初の揺れから8年。復興が進み、落ち着いて爪痕を学ぶ時期になったのだろう。崩落した阿蘇大橋の鉄骨や土砂でつぶれた車。そして地震をもたらした「布田川断層帯」の剝ぎ取り標本の前でくぎ付けになる▲以前から熊本で知られた活断層。ただ、この地震で地表に出現するまで、阿蘇に延びていると誰も知らなかった。地層を調査した結果、過去1万年の間に繰り返し、ずれていたらしい▲網の目のように列島に分布する活断層はいつ、どう動くか予測が難しい。大地震のたびに備えが足りないと専門家は説くが、前に進まない。そうした中で調査が遅れていた海底のそれが動いたのが能登半島地震である▲割れたガラスを踏んでけが。水や食料を手に入れるのが大変。近所とのつながりが希薄…。ミュージアムは熊本地震の生の声を引いて「自分事化」の意味を説く。一人一人の備えで震災は軽減できるという重い教訓にうなずいた。

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