盟友の川崎・小林悠とC大阪・登里享平が初対戦に込めた想い。話さず、目も合わせず、それでも誓ったユニホーム交換

[J1第8節]C大阪 1-0 川崎/4月13日/ヨドコウ桜スタジアム

C大阪が川崎をレオ・セアラの決勝弾で下し、首位に浮上したゲームで、盟友ふたりの印象深いマッチアップが実現した。

ひとりは今季、高卒で15年所属した川崎からC大阪へ移籍した33歳の左SB・登里享平。

もうひとりは、大卒から一筋で登里と川崎で苦楽をともにしてきた36歳のFW小林悠である。

ふたりは入団年が1年しか変わらず、同じ時間を歩み続けてきたのである。

そして迎えた対戦の日、登里はいつもどおり左SBで先発し、小林は73分に4-2-3-1の2列目右で途中出場。運命のいたずらか、ふたりはちょうど直接対峙するポジションへ誘われたのだ。

登里のC大阪移籍に関しては、ふたりは何度も電話で語りあい、小林は「俺はノボリと一緒にやりたい」と熱い想いも伝えていた。それこそふたりで流した涙は数え切れない。それでも登里は新たなチャレンジへ移籍を選び、それぞれの場所での変わらない奮闘を誓い合っていた。

【動画】C大阪レオ・セアラの決勝弾

そんな特別な間柄であるふたりだからこそ、試合前、そしてピッチでも、ひとつも言葉をかわさなかったという。小林はゲーム後、胸の内をこう明かしてくれた。

「ポジション的にマッチアップしたんですが、目を合わせないようにもしていました。僕自身、感情が入ってしまうと思ったので。それに負けている状況でしたし、敵としてピッチに立っている以上は、なんて言うんですかね、情を入れたくないというか。だから最後まで本当に口をきかずにプレーしたんです」

もっとも試合後、勝利に胸をなでおろしながら、喜びを表現するわけではなく、登里が誰よりも早く駆け寄ったのが小林のもとであった。ふたりはそっと健闘を称え合ったのである。不器用とも言える男たちの姿には、なんだかグッとくるものがあった。

試合後、5敗目を喫し、16位に沈む現状に厳しい表情を見せた小林だが、最後に登里への想いを訊いた際に少し表情が和らいだ。

「試合が終わったのでようやくいろいろ話せるなと思っています。やっぱりずっと一緒にいて、プライべートでもずっと一緒にいたので、僕にとって特別な存在。自分はチームを勝たせることに徹しないといけないので、ピッチ内では敵ですが、うん...、なんだか、不思議な感覚でしたね」

そしてハッと気付いたようにこう続けた。

「そういえば、ユニホーム交換を忘れていた。あとで(メッセージ)送っておきます。多分(交換)できるんじゃないですかね」

その言葉を小林より後にミックスゾーンに現われた登里に伝えると、「そうなんですよ、僕もしたいと思っていて」と笑顔を浮かべた。

恐らく、この後、ピッチを離れたふたりは、再び親友に戻り、忘れられない一戦を改めて記憶に残そうと、それぞれのシャツを送りあったのだろう。ふたりのそんな姿に、クラブの垣根を超えた絆を見たのは私だけではないはずだ。

取材・文●本田健介(サッカーダイジェスト編集部)

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