ジェームズ・キャメロン監督作品まとめ SFとアクションを駆使して人類に警鐘を鳴らし続ける

歴代映画興行収入の全世界TOP5をご存知だろうか。2024年4月現在の順位は以下の通り。

1位:『アバター』(09)約29.2億ドル

2位:『アベンジャーズ:エンドゲーム』(19)約27.9億ドル

3位:『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』(22)約23.2億ドル

4位:『タイタニック』(97)約22.6億ドル

5位:『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』(15)約20.7億ドル

このTOP5の内3作品は同じ監督によって手がけられた。監督の名前はジェームズ・キャメロン。『アバター』『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』『タイタニック』は彼の手がけた作品だ。しかも『タイタニック』は、第70回アカデミー賞で作品賞・監督賞を含む11部門で受賞、最多受賞タイ記録を誇っている。名実ともに世界のトップに立つ監督。それがジェームズ・キャメロンなのである。

1954年カナダ生まれ。少年時代は物作りや実験に熱中、SF小説や海洋ドキュメンタリーのテレビシリーズにもハマっていた。絵画の腕前も素晴らしく地元の絵画コンクールでは常連だったという。14歳で出会った『2001年宇宙の旅』(68)で映画へ目覚め、この作品がきっかけで映画を作ってみたいと思うようになる。1971年に家族と共にカリフォルニアに移り住み、大学では物理学を専攻。学生時代は働きながら絵画やSF小説執筆などの創作活動に没頭、その傍ら、映画制作や視覚効果を独学で学んでいく。

その後『スターウォーズ』(77)の大ヒットに刺激され、仲間と共に自主制作のSF短編映画『ゼノジェネシス』(78)を作り上げた。トラック運転手など肉体労働をしながら創作活動を続けていたキャメロンだったが、この『ゼノジェネシス』がきっかけでロジャー・コーマンの映画制作会社「ニューワールド・ピクチャーズ」に美術スタッフとして入社。そのキャリアをスタートさせる。その後、『殺人魚フライングキラー』(81)で監督デビューするも、プロデューサーの意向により降板。不本意な結果となってしまったが、奮起して作った『ターミネーター』(84)が大ヒット。偉大なるヒットメイカーへの第一歩を踏み出すこととなる。

今回は自主制作『ゼノジェネシス』から、不本意なデビューとなった『殺人魚フライングキラー』も含む、キャメロンの監督作品10本にフォーカス。ドキュメンタリーやテーマパーク映像を除けば、この10本が彼の全ての監督作品。あらためてその魅力に迫ってみた。

1.『ゼノジェネシス』(78)12分

『Xenogenesis(ゼノジェネシス)』

学生時代の友人ランドール・フレイクスと共同監督したSF短編。とある宇宙船の中で、巨大なロボットと戦う男女を描く。レーザー光線を放つロボットや、片手が機械になっている男性、女性が乗って戦うロボット(パワードスーツ)など、後の『ターミネーター』や『エイリアン2』を想起させる描写が随所に見られる。襲ってくるロボットは『ターミネーター2』に出てくるハンター・キラー・タンクそのもの。

本作に限らず、キャメロンの過去作を観ていると、後の作品のモチーフとなる要素がふんだんに出てくることがよく分かる。言い換えると、この自主制作の時点から自分のやりたいことが明確だったということ。キャメロンは、この『ゼノジェネシス』で作りたかった世界観を、ストーリーや設定、そして予算を大きくしながら、これまでずっと作り続けてきたのだろう。

2.『殺人魚フライングキラー』(81)94分

『殺人魚フライングキラー』(c)Photofest / Getty Images

本作をこの「キャメロン監督作品まとめ」に入れるのは躊躇があったが、映画のクレジットにキャメロン本人の名前が出ている以上、あえて紹介させていただきたい。大ヒットした『ジョーズ』(75)の二匹目のドジョウを狙った『ピラニア』(78 監督:ジョー・ダンテ)もヒットを記録。その続編として作られたパニック・ホラーが本作『殺人魚フライングキラー(原題:Piranha II: Flying Killers)』だ。タイトル通り、空を飛び人を襲う殺人魚の恐怖を描く。

ジェームズ・キャメロンの商業映画監督デビュー作ではあるが、撮影中にプロデューサーの意向で降板させられ、編集作業にも立ち会っていない。しかし実際にキャメロンが撮ったシーンは本編で使用されている。キャメロン本人はデビュー作とみなされることを不本意に思っているが、当時の契約の関係もありクレジットから名前を外すことは叶わなかった。

3.『ターミネーター』(84)108分

『ターミネーター』(c)Photofest / Getty Images

2029年の未来、人類を絶滅すべく暴走を始めたコンピューターと人類との戦いが繰り広げられていた。人類軍のリーダー、ジョン・コナーを抹殺せんがため、殺人サイボーグ、ターミネーター(アーノルド・シュワルツェネッガー)が1984年のロサンゼルスに未来から送り込まれてくる。彼はジョン・コナーの母となるサラ・コナー(リンダ・ハミルトン)を探し出し、殺害するため追跡を始めるが、同時に、サラを守るために一人の人類戦士カイル・リース(マイケル・ビーン)も未来から送り込まれていた。さまざまな銃器を駆使し、不死身の体でどこまでも追ってくるターミネーター。彼を相手にサラとリースは死闘を展開するがーー。

ジェームズ・キャメロンの名前を世に轟かせた大出世作。実質的なデビュー作とも言える。強烈なインパクトを残す鋼鉄の骸骨・エンドスケルトンや、ブラッド・フィーデル作曲のテーマなど、映画史に残るアイコンをいくつも生み出した。主演のアーノルド・シュワルツェネッガーは本作で大ブレイク、ボディビル俳優から世界的大スターへの階段を登ることとなった。なおシュワルツェネッガーは当初カイル・リース役を望んでいたが、キャメロンの説得によりターミネーターを演じることになったという。

元々はB級映画として低予算で企画・制作された本作だったが、ロジャー・コーマンの下で鍛えられたキャメロンのコスパ管理能力、演出力、視覚効果の知識と技術、ディテールにこだわる完璧主義が炸裂。約640万ドルの予算で作られたにも関わらず、全世界で7,800万ドル以上の興行収入を稼ぎ出した。

キャメロンが描き続けているテーマ、“テクノロジーに依存しすぎている人類への警鐘”は、本作からすでに始まっており、AI問題に直面している現在の世界を、40年前の時点で見事に予見している。

もっと詳しく:『ターミネーター』はなぜ古びない?時代を超越する「恐怖」と「構成力」

4.『エイリアン2』(86)137分/154分(完全版)

『エイリアン2』デジタル配信中(購入/レンタル)4月10日(水)4K UHD発売 © 2024 20th Century Studios. 発売:ウォルト・ディズニー・ジャパン

リドリー・スコットが監督したSFホラーの金字塔『エイリアン』(79)の続編。エイリアンに襲われたノストロモ号から唯一生還したエレン・リプリー(シガニー・ウィーバー)。彼女は冷凍睡眠状態で57年もの間、宇宙で漂流していた。運良く救出されたリプリーだったが、エイリアンの存在が疑われる植民惑星LV426の調査の為、海兵隊員と共に再び旅立つこととなる。そこでリプリーたちが遭遇したのは、卵を生んで繁殖し続けるエイリアン・クイーンの姿だったーー。

SF映画史に燦然と輝く傑作の続編など誰が撮りたがるだろうか。キャメロンはそんなプレッシャーを跳ね飛ばし、「今度は戦争だ!」のキャッチコピーよろしく『エイリアン』をSFアクションとして生まれ変わらせた。“史上最高の続編”とも言われるSFアクションの傑作。

『ゼノジェネシス』と同様、後のキャメロン作品に見られる演出や美術デザインを本作でも多く見ることができる。エレベーターや工場など場所の構造を活かしたアクションは『ターミネーター2』でも発揮され、パワーローダーや宇宙基地の施設、未来の生活様式などは『アバター』でも同じようなデザインで表現されている。そして、私利私欲に走る人間(企業)が出てくるのも重要な共通点だ。自分のやりたかったことを予算をかけて具現化した、まさに“キャメロンワールド”が詰まった作品となっている。

もっと詳しく:これがジェームズ・キャメロンだ!『エイリアン2』に見るキャメロンワールドの片鱗の数々

5.『アビス』(89)140分/171分(完全版)

『アビス』3月27日(水)デジタル配信開始(購入/レンタル)4月10日(水)4K UHD発売 © 2024 20th Century Studios. 発売:ウォルト・ディズニー・ジャパン

アメリカの原子力潜水艦が、深海油田発掘基地付近で行方不明に。採掘基地のクルーらと海軍ダイバー・チームは捜索のため、暗黒と寒冷と恐るべき水圧で人類を拒むアビス<海溝>へと向かう。そこで待っていたものは、海底深くに生活している未知の生命体だったーー。

『ターミネーター』『エイリアン2』でハリウッドのヒットメイカーとなったキャメロンが挑んだ、海洋SFの超大作。製作費は約5,000万ドルとも、7,000万ドルとも言われているが、興行収入は芳しくなく、実質的なデビュー作の『ターミネーター』以降、キャメロンが手がけた劇映画で唯一ヒットしなかった作品。

『ジェームズ・キャメロンのタイタニックの秘密』(03)、『エイリアンズ・オブ・ザ・ディープ』(05)と、深海にまつわるドキュメンタリーを2本も撮るほど、キャメロンは海洋・深海好きで、少年時代にはすでにダイビングの資格も取得していた。そのキャメロンが少年時代から温めていた物語が『アビス』の元となっている。劇中に出てくる液体酸素も少年時代からすでにその存在を知っており、液体酸素につかったネズミが溺れることなく生還するシーンは、実際の液体酸素を使って撮影された本物である。

そして本作の重大事項とも言えるのが、キャメロン初のCG導入。キャメロン初というよりも、そもそも映画にCGが使われた事例は当時数えるほどしかなかった。透明な水の形状をした知的生命体の表現に悩んでいたキャメロンはCGでの表現を決断。ILM所属の視覚効果スーパーバイザーであるデニス・ミューレンとともに、映画CG黎明期にもかかわらず圧倒的クオリティの知的生命体を作り上げた。この技術は次作『ターミネーター2』へと着実に受け継がれていく。また本作で経験した水中撮影や海中での表現は、その後『タイタニック』『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』でも活用されている。

また、公開時には入れることができなかった津波シーンを追加した完全版が、93年にリリースされた。これにより、核兵器を持つ人類への警鐘がより強い内容となった。

もっと詳しく:『アビス』の映画史的意義。それは“ジェームズ・キャメロンとCGの邂逅”

6.『ターミネーター2』(91)137分

『ターミネーター2』(c)Photofest / Getty Images

サラ・コナー(リンダ・ハミルトン)がターミネーターに襲われた悪夢の日から10年。コンピューター・スカイネットと人類の戦争勃発を訴えるサラは精神病院に収容され、母親と引き離された息子のジョン(エドワード・ファーロング)は不良少年になっていた。そんなある日、未来から2体のターミネーターが送り込まれてくる。1体はジョンを抹殺するためにスカイネットが送り込んだ、液体金属のT-1000(ロバート・パトリック)。そしてもう1体はジョンを守るために未来のジョンが送り込んだ10年前にサラを襲ったものと同じ型のT-800(アーノルド・シュワルツェネッガー)。ジョンを抹殺するため執拗に追いかけてくるT-1000、サラとジョン、そしてT-800は逃げ切れることができるのか、そして人類の未来はーー。

キャメロンは『ターミネーター』の権利を元妻でプロデューサーのゲイル・アン・ハードに1ドルで譲っていたこともあり、映画化の権利はさまざまな人の手に渡ってしまっていた。その権利を高額で買い集めたのが、当時急成長していた映画製作会社カロルコ・ピクチャーズのマリオ・カサールとアンドリュー・G・ヴァイナ。『トータル・リコール』(90)に続く、シュワルツェネッガー主演の超大作を作ろうとしていたカロルコは、『ターミネーター』続編の監督・脚本をキャメロンに打診。当時史上最高額の製作費(最終的には1億ドルを超えたと推定される)で『ターミネーター2』が作られることとなった。

『エイリアン2』でも見られた、状況や場所の構造を活かしたアクション演出が今回も炸裂、そこに巨額の製作費が掛け合わされ、“史上最高のアクション映画”では必ず上位に入る傑作アクション大作が誕生した。圧倒的強さを誇った悪役が味方になるという驚き、その悪役を遥かに超える強さを持つ新型の登場、使命に目覚めた女性の肉体的変貌、未来のリーダーとなる少年の説得力、などなど、アクション・エンターテインメントとしての優れた構成は、本作を世界的大ヒットに導いた。そして、液体金属の新型ターミネーターT-1000を作り上げたCGは、その後に公開される『ジュラシック・パーク』(93)と共に、ハリウッドにCG革命を起こすこととなる。

ド派手な銃撃戦やカーチェイス、爆破シーン満載の映画だが、キャメロンは本作を「平和をテーマにしたバイオレンス映画」と位置付けている。映画のラストでサラ・コナーが語る言葉には、キャメロンの一貫したテーマである“テクノロジーに依存しすぎている人類への警鐘”がしっかりと込められている。

もっと詳しく:『ターミネーター2』「進化」と「深化」ジェームズ・キャメロンがアップデートさせたものとは

7.『トゥルーライズ』(94)141分

『トゥルーライズ』デジタル配信中(購入/レンタル)4月10日(水)4K UHD発売 © 2024 20th Century Studios. 発売:ウォルト・ディズニー・ジャパン

原子力物理学の博士号を習得し、あらゆるハイテク武器の扱いを身に付けている超エリート諜報員ハリー・タスカー(アーノルド・シュワルツェネッガー)。だが表向きはコンピュータのセールスマンと偽り、諜報員であることは妻(ジェイミー・リー・カーティス)や娘には秘密で、家では不器用でうまく立ち回れないダメ亭主、年頃の娘も言うことを聞いてくれない始末…。そんなハリーが立ち向かう敵は核ミサイル4基を武装したテロ集団。しかも家族が敵に捕えられてしまう。地球と家族を救うべく壮絶なる戦いを繰り広げることになるハリーだったがーー。

約1億2,000万ドルをかけて作られたアクション超大作。『ターミネーター2』で製作費の最高額を更新したキャメロンだったが、本作でも再び更新することとなった。原案はフランス映画の『La Totale!』(91)。キャメロンには珍しくコメディ要素の強い作品となっているが、ハリヤーを登場させたり橋を爆破したりと、アクションシーンはド派手で豪快! 映画が公開された90年代当時は、『ダイ・ハード』(88)が変えたと言われるアクション映画の潮流があったが、キャメロン×シュワルツェネッガーコンビが手がけた本作は、格の違いを見せつけた感があった。

ヒットに伴い続編制作も検討されていたが、中東のテロリストがアメリカ本土を攻撃しようとする設定が、奇しくも2001年に起こったアメリカ同時多発テロと似通った内容となってしまったこともあり、予定されていた続編はお蔵入りとなった。

またキャメロン作品の中では、長らくブルーレイ化されていなかったが、キャメロン本人監修の元、待望の4K化が実現。2024年4月10日に4KUHDが発売となった。

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8.『タイタニック』(97)194分

『タイタニック』デジタル配信中(購入/レンタル)3月27日(水)4K UHD 25周年アニバーサリー・エディション(数量限定)、4K UHD発売 © 1997, 2024 Paramount Pictures and 20th Century Studios 発売:ウォルト・ディズニー・ジャパン

1912年、初めての航海に出た豪華客船タイタニック号。新天地アメリカを目指す画家志望の青年ジャック・ドーソン(レオナルド・ディカプリオ)と上流階級の娘ローズ・デウィット・ブケイター(ケイト・ウインスレット)は、船上で運命的な出会いを果たす。身分違いの恋を乗り越え強い絆で結ばれていく2人。しかし不沈を誇っていた豪華客船は皮肉な運命に見舞われる……。

『ターミネーター2』『トゥルーライズ』の製作費を大幅に更新した本作では、約2億ドルの製作費がかけられ、またしても史上最高額の製作費となった。船上のロミオとジュリエットとも言える悲恋と、巨大船が沈没するスペクタクルに観客が殺到、社会現象とも言える一大ブームを巻き起こした。公開当時は全米で約6.6億ドル、全世界で約21.9億ドルの大ヒットとなり、『ジュラシック・パーク』を抜いて世界最高の興行収入を記録。日本でも約277.7億円の興行収入を記録しており(リバイバル上映含む)、歴代3位、実写映画では1位となっている。

第70回アカデミー賞では14部門にノミネート、11部門受賞と歴代最多受賞タイ記録となり、キャメロンは名実共にハリウッドの頂点に立った。授賞式でのキャメロンは、劇中のジャック・ドーソンのセリフ「I ‘m the king of the world!」を叫び歓喜した。

物語の前半は船上で繰り広げられる人間ドラマが中心だが、タイタニックが氷山にぶつかった以降の後半は、徐々に沈没していく様子がひたすら描かれる。真っ二つに折れた船体が垂直に海に突き刺さるシーンは圧巻の一言。船尾から次々と落ちていく人間の描写では、これまでに培ったアクション演出と視覚効果が発揮され、まさにキャメロンの真骨頂を示すものとなった。

もっと詳しく:『タイタニック』ジェームズ・キャメロンが“世界の王”になった必然と奇跡

9.『アバター』(09)162分

『アバター』(C) 2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.

22世紀、人類は地球から遠く離れた惑星パンドラで<アバター計画>に着手していた。この星の先住民ナヴィと人間のDNAを組み合わせた肉体<アバター>を創ることで、有毒な大気の問題をクリアし、莫大な利益をもたらす鉱物を採掘しようというのだ。この計画に参加した元兵士ジェイク(サム・ワーシントン)は車椅子の身だったが、<アバター>を得て体の自由を取り戻す。パンドラの地に降り立ち、ナヴィの族長の娘ネイティリ(ゾーイ・サルダナ)と恋に落ちるジェイク。しかし彼はパンドラの生命を脅かす任務に疑問を抱き、この星の運命を決する選択を強いられていく……。

前作『タイタニック』から12年の時を経て作られたSF超大作。キャメロンのSF作品としては『ターミネーター2』以来18年ぶり。「観るのではない。そこにいるのだ。」のキャッチコピーのもと、多くの劇場で3D上映が実施された。これをきっかけに映画館の3D上映環境が加速度的に拡大、加えてIMAXデジタルシアターの増加も促し、3D映画ブームの火付け役となった。

体の動きをコンピューターに取り込むモーション・キャプチャーを進化させ、顔の表情や目の動きまでを取り込むパフォーマンス・キャプチャーを駆使してナヴィを表現。映画におけるCG技術をまたしても飛躍的に進化させた。『エイリアン2』でも見られた、宇宙船や宇宙基地施設、そして人が操縦するパワーローダーなど、キャメロン好みのSF要素がパワーアップして多数登場。圧巻の世界観を見せつける。

また、アクション演出の巧みさも健在で、クライマックスで描かれるナヴィと人間の戦闘シーンでは、キャメロンの手腕が遺憾なく発揮される。驚くべきは、空と地上で激しい戦いが繰り広げられるにも関わらず、戦況がどうなっているか、誰がどこで何をしているかが非常に分かりやすいこと。決してストーリーは置き去りにされず、戦況による今後の展開(への想像)や、キャラクターの状況(特に死)をしっかりと伝えることで、アクションの凄さと感情の揺さぶりを同時に体感させる。まさにスペクタクルとカタルシスを同時に生み出している。

第82回アカデミー賞では9部門でノミネートされ、撮影賞、美術賞、視覚効果賞の3部門で受賞。全世界での興行収入は約29.2億ドルと、2024年の現在でも堂々の1位を誇っている。

『アバター』デジタル配信中(購入/レンタル)3月27日(水)4K UHD コレクターズ・エディション(数量限定)発売 © 2024 20th Century Studios. 発売:ウォルト・ディズニー・ジャパン

もっと詳しく:集大成にして新境地。ジェームズ・キャメロン『アバター』がインスパイアされた諸要素を探る

10.『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』(22)192分

『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』デジタル配信中(購入/レンタル)3月27日(水)4K UHD コレクターズ・エディション(数量限定)発売 © 2024 20th Century Studios. 発売:ウォルト・ディズニー・ジャパン

神秘の惑星パンドラの一員となった元海兵隊員のジェイク(サム・ワーシントン)は、ナヴィの女性ネイティリ(ゾーイ・サルダナ)と家族を築き、子供たちと平和に暮らしていた。再び人類がパンドラに現れるまでは…。神聖な森を追われた一家は、“海の部族”の元へ身を寄せる。だが、この美しい海辺の楽園にも、侵略の手は迫っていた…。

全5作が想定されている『アバター』シリーズの第2作目。前作から更に13年の時を経て作られた本作では、パフォーマンス・キャプチャーとCGの描画能力が大幅に向上。特に“水”の表現は、HFR(ハイ・フレーム・レート)の効果も相まって、もはや本物にしか見えない出来映え。そのあまりにリアルな映像は、まるで惑星ナヴィに行って撮影してきたネイチャー・ドキュメンタリーのよう。

また、キャメロン映画の特徴である“強い女性・母親像”は本作でも健在。ネイティリにしっかりと受け継がれている。特にラスト付近でのネイティリは、『エイリアン2』のリプリー、『ターミネーター2』のサラ・コナーを凌ぐほどの、鬼神の如き活躍を見せつける。

本作は全世界で約23.2億ドルの大ヒットを記録、歴代興行収入の第3位に堂々ランクインした。シリーズ続編の製作も決定している。

もっと詳しく:『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』を生み出した映像革命とは?その最新技術に迫る(前編)

『オッペンハイマー』(23)でアカデミー賞を獲ったクリストファー・ノーランは、「原子爆弾を作ったオッペンハイマーの見てきた世界を観客に体感してほしい」と語り、高画質のIMAXフィルム撮影という手法を選択した。アプローチこそ違えども、この姿勢はキャメロンにも共通するように思われる。エンターテインメントの形を借りながら、SFやアクションで観客をスクリーンに釘付けにし、3DやHFRで観客を没入体験へと誘う。そうまでして訴えるものは、“テクノロジーに依存しすぎている人類への警鐘”という一貫したテーマだ。

豪華客船から核兵器、そしてAIまで、人類が生み出したテクノロジーが人類を危機に陥れる。ジェームズ・キャメロンという映画監督は、SFとアクションを駆使して人類に警鐘を鳴らし続けているのだ。

参考資料:

「ジェームズ・キャメロン 世界の終わりから未来を見つめる男」著:レベッカ・キーガン 訳:吉田俊太郎 フィルムアート社

「SF映画術 ジェームズ・キャメロンと6人の巨匠が語るサイエンス・フィクション創作講座」著:ジェームズ・キャメロンほか 訳:阿部清美 DU BOOKS

文:香田史生

CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。

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