食べ放題で「上タン50人前」注文して店長逆ギレ!? 「食べ放題」はどこまで食べていいのか 【弁護士解説】

ルールがあれば際限なく食べ続けていいものなのか(prof255010 / PIXTA)

「食べ放題」と言えば、定額料金で〝好きなものを好きなだけ〟食べられるサービスだが、先月14日、ある焼き肉店の利用客が、Xにポストした投稿が物議を醸した。

〈焼肉食べ放題で上タンばかり食っていたら店長にマジギレされてクソワロタ たった50人前だぞ? こんな頼むひと初めてだとかキレてたけどほなら食べ放題やめろよな〉

皿いっぱいに上タンが盛られた写真とともにポストされたこの投稿は1.1億件表示され、多くのコメントが書き込まれた。

〈「食べ放題」なのだから、いくら食べても文句を言われる筋合いはない〉
〈ルール違反ではないがマナー違反〉
〈可哀想だとは思うけど、それ言い出したら食べ放題じゃないやろw誰だよ暗黙のルールとか言ってる奴w〉
〈店側もキレるんじゃなくて、売切れにすれば良かったんですかね〉
〈店には同情するけど、客に落ち度はないのにキレるのはあり得ない〉

あまりの反響に投稿主は、さらに以下のようにポストした。

〈なんか炎上しているので補足するけど
・他に頼んだメニューもある
・冷麺1、ビビン麺1、上カルビ6、サンチュ55韓国ノリ15?キムチたくさん
・食べ残しは当然ゼロ
・一度に注文したわけではなく、5人前づつくらい頼んで食い切ってを繰り返していた
・店員に文句言ったりはしていない、怒られてからは大人しく上タン頼諦めて普通のタン頼んだ〉

「お客様に注意や文句をした事実はいっさいありません」

その後も、擁護派&批判派入り乱れての炎上が続き、『FLASH』は3月20日配信の記事でこの件を取り上げ、店を特定して、店側の言い分を掲載している。

記事によれば、店側は実際に投稿主に対応したスタッフに確認した上で、「上タン5~10人前ずつご注文いただき、提供させていただいておりました」が、在庫がなくなった旨を説明すると「ネギ牛タン4人前などを提供し、トラブルもなくお帰りになられたとのことです」と回答。

さらに「お客様のXの投稿を拝見すると、《店長にマジギレされてクソワロタ》などと記載されております。しかし、当日、店長もほかの店員も、こちらのお客様に注意や文句をした事実はいっさいありません。店員にトラブルになるような事象がなかったか尋ねたところ、当該お客様自身が常連様でしたので、『そのようなことはいっさいしていません』との回答がありました。従いまして、Xの投稿は事実無根のものです」として、トラブルはなかったとの見解を示している。

『店の在庫がある範囲で、料理の提供を続ける義務』

騒動の顛末はともあれ、一体、「食べ放題」は、時間制限や〝食べ残しをしない〟というルールの元ならどこまでも食べていいものなのか。それともやはりマナーや節度が存在するのか。

これはまさに〝国民的な大疑問〟。自身も食べ歩きが趣味のひとつだという南出優介弁護士はこう答えた。

「食べ放題については、民法で規定された定型的な契約ではないですが、あえて解釈するなら、店側は客に対し、客が指定した商品(料理)を継続して提供する義務を負い、この対価として客側が食べ放題料金を支払う契約、になると思います。こう解する以上、客が注文する限り、店側は際限なく料理を提供しないといけないことになります。

もっとも当事者の合理的意思解釈や、社会通念に基づいて考えると、おそらくこの義務は、『店の在庫がある範囲で、料理の提供を続ける義務』だと考えられます。そのため、客としては、店側の在庫がある限りは、食べる量に制限はなく、他方店としても、在庫のある限りは客の注文に応えないといけないと思います」

今回の騒動についてはこう付け加えた。

「今回の件については、そもそも事実関係について客側と店側が異なることを述べているようですし、どちらが悪いと言った話はできません。ただ、もし仮に店が、『他のお客さまの迷惑になるので』や『他のお客さまが食べる分を残したいので』、といった理由で料理提供を断るのであれば、それは法的には難しいと思います。食べられすぎて困るなら、始めからひとり〇人前まで、という定めをしておくのがいいと思いますね」

「食べ残し」についてのルールを設けている店舗は多いが…(※写真はイメージ umaruchan4678 / PIXTA)

卓上サービス品の取りすぎは「法的に違法」と判断することは難しい?

また、食べ放題と関連して、牛丼チェーンや回転ずし店で、卓上に「ご自由にどうぞ」と置かれている紅ショウガやネギなどは同じく、どこまで食べていいものなのかを聞いてみると…。

「直箸で食べたり、直接口につけたりする行為は、すでに判決が出ているものもありますが、『器物損壊』や『威力業務妨害』として刑事処罰の対象になり得ます。また、民事上でも『不法行為に基づく損害賠償請求の対象』となります。他方で、卓上に置かれている紅ショウガなど『ご自由にどうぞ』的なサービス品の取りすぎについて、『法的に違法』と判断することは難しいと思います。

前提ですが、良識ある大人として、また店とのトラブルを避けるため、適切な分量(それが何人分かは分かりませんが)を取るべきとは思います。ただ、例えば置かれている分量のすべてを自分の皿に取ったからと言って、それが何か違法なことになるかと言われれば、正直うーん…と言った感じです。

おそらくこの、卓上トッピングについては、客がお金を払って、店が料理を提供する契約に付随したサービスと思いますが、店側が取る分量を限定しておらず、『ご自由に』等、制限がない記載をしている以上、法的に違法とは言えないと思います。

もっとも、卓上の無料トッピングは、あくまで自由に取っていい物であって、食べ放題ではないので、なくなったのに店が補充しないことからと言って、『債務不履行だ』と訴えることもできないと思います」(南出弁護士)

場合によっては業務妨害や損害賠償の対象に

度々議論を呼ぶ食べ放題、卓上の無料トッピングの食べ過ぎ、取り過ぎ問題だが、原則的に法的な問題は薄いといえそうだ。「ただし…」と南出弁護士はこう続ける。

「『法的に問題がないからそうした行為をしてもいい。法的に問題があるからそうした行為をしない』という判断基準はやめた方がいいでしょう。やはり常識的に考えて、一般的視点で考えて、さらに逆の立場でも考えて行動することが、トラブルに発展しないコツだと思います。トラブルに巻き込まれると、自分は法的に悪くなくとも、時間や労力、場合によってはお金も無駄にかかってしまいます。その場でトラブルにならなくても、まわりまわって後で自分が損をすることもあります。

また当然のことですが、店側からの注意書き等で、「過剰な取りすぎ厳禁」とか「残したら罰金」などが書かれているなら、適度な量に留めるべきですし、そもそも食べきれないことを理解している上で撮影目的等のために盛りすぎる行為も、場合によっては業務妨害や損害賠償の対象になると思います。

一方で店側も、相当な企業努力の上で、こうした食べ放題のサービスを提供しているものと推察しますが、食べ放題のサービスにはこのような問題はつきものです。〝最初に規定のセットを完食した後のみ食べ放題を注文できる〟などの仕組みをまれに見かけることもありますが、店の利益やプロモーションと相談しながら、客を不快にさせず、極端な食べすぎを防ぐ工夫も必要かと思います。お客側も店側も、お互い気持ちよく、サービスのやり取りができるようになるといいですね」

法的に問題はなくとも、やはり物事には限度は存在すると言えそうだ。

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