キャリアの成功に「自信」はむしろ逆効果?デキる人に共通する「3つの要素」【社会心理学者が解説】

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ビジネスはときにハッタリも必要といいますが、キャリアを成功に導くためには大きすぎる自信はむしろキャリアの妨げになると、トマス・チャモロ=プリミュージク氏は説きます。今回は面接官に「この人をぜひ雇いたい」と思われる「デキる人」に共通する特徴をご紹介します。 ※本連載は、トマス・チャモロ=プリミュージク氏による著書『「自信」がないという価値』(河出書房新社)より一部を抜粋・削除・再編集したものです。

チャンスをつかむ人がしている3つのこと

もしキャリアで成功したかったら、雇用可能性を高めなければならない。しかし、どうやって?

スキルの種類も雇用の種類も無数にあるが、雇用可能性を高めるために必要なことはそんなに多くない。実際、いちばん大事な要素はいつも同じだーそれは、能力がありそうに見せることだ。

雇用主が雇いたいと思うのは、自分のビジネスにプラスの貢献をしてくれそうな人や、自分が儲けるのを助けてくれそうな人だろう。つまり雇用可能性があるとは、上司や雇用主にとって、魅力的なビジネスパートナーに見える人、魅力的な部下に見える人ということだ。

それでは、なぜ雇用可能性が高い人と低い人がいるのだろうか。その答えは、デキる人がしている3つのことに集約される。

デキる人がしていること(1) 実力を見せる

仕事のできる人は、例外なく能力がありそうに見える。もちろん、同じ人でも、分野によっては能力がありそうだったりなさそうだったりするだろう。しかしここで大切なのは、雇用主やクライアントの目から見て、仕事に必要な能力をどれだけ持っていそうかということだ。

一流大学を出ている人や、履歴書に書けるスキルや資格(たとえば、語学、パソコン、運転免許など)がたくさんある人は、その分野での能力があると判断される。もちろん、その判断が正しいとは限らない。

なぜなら、本当の能力は実際に雇ってみるまでわからないからだ。雇用主にできるのは、情報を集め、データに基づいて判断することだけだーそこで参考になるのが、履歴書、面接、テストなどになる。

だから、まずは履歴書作りに念を入れよう。時間をかけて書き、他の人にも見せて、履歴書から受けるあなたの印象を教えてもらう。究極的に、これは先手を打って、自分から能力のあるところを見せるということだ。面接の練習をする。必要な情報を集める。さまざまなソフトウェアが使えるようになる。そう、専門家になろう!

たとえ面接で力を発揮できなかったとしても、きちんと準備してきたことが伝わればそれほど問題にならない。ここで大切なのは、ある事柄について本当に知識があれば、緊張していくつかど忘れすることがあっても、知識があるという事実は周りに伝わるということだ。

結果が出せるかどうかはパフォーマンスにかかっているが、パフォーマンスの成否を決めるのは準備だ。そして前にも見たように、自信がありすぎると準備を怠ることになる。何かの能力があるなら、人は必ず気づく。しかし能力がなくても、ときには「あるふり」が通用することもあるのだ(特に他人の能力を正確に見る目を持たない人はだましやすい)。

誰から見ても本物と認められている人だけが、自信のあるふりをしなくても許される。それに加えて、本物の実力者は、むしろ自信のないふりをすることで実力を見せつけることができる。

とはいえ、最近の成功者たちは謙虚なふりをするのが当たり前になっているので、実力がない人も謙虚なふりをしたほうがかえって実力がありそうに見えるという、ややこしい状況になっている。そこで、私からのアドバイスだ。

実力があるなら、謙虚なふりをしろ。

実力がないなら、実力があるふりをしろ。

そして実力があるふりができないなら、自信があるふりをしろ。

真の実力者は、行動で実力を示し、そして謙虚だ。彼らのようになりたいなら、まず十分な準備をするのが出発点になる。そうすれば自分の能力が上がるだけでなく、本番で失敗してもカバーできる。それに加えて、それぞれの分野でトップに立つ人たちは、自分の能力に関してとても謙虚だ。

しかし、これが重要なのだが、社会全体としては、誰もが自信と実力をきちんと見分けられるようになったほうがいい。そうなれば、口だけ達者で中身がない人や、自信過剰な人がもてはやされることもなくなるだろう。

デキる人がしていること(2)勤勉に働く

雇いたいと思わせる人の特徴の2つ目は、勤勉そうに見えることだ。なぜそう見えるかというと、たいていは本当に勤勉だからだ。人はよく、実力が足りない部分を勤勉さで補おうとする。そして真の実力者は、とにかく勤勉に働く。

才能はあるが怠け者かもしれない人と、才能はそれほどでもないが勤勉そうな人ー企業の採用担当者は、どちらを選ぶか悩むことがある。しかし、能力が同じくらいに見える場合は、いつも決まって勤勉そうな人のほうを選ぶ。85%の確率で、勤勉そうな人のほうがやる気のなさそうな人よりも業績を上げるからだ。

つまり、もしキャリアで成功したかったら、何よりもまず努力しなければならないということだ。どんなに才能があっても関係ない。自信があるかどうかも関係ない。

こんなことは今さら言うまでもないのだが、ただ会社に行っていればキャリアで成功できると信じている人があまりにもたくさんいる現状を考えると、やはりこうやって努力と勤勉の大切さを長々と説明せざるを得なくなる。

目標を達成してしまうとやる気や向上心は消え、そして達成したことで自信が生まれる。だから自信はなるべく低く保ち、やる気と向上心を持ち続けたほうがいいだろう。

デキる人がしていること(3) 人から好かれる

デキる人に共通する特徴の3つ目は、人から好かれることだ。もちろん、どうせ雇うなら、感じの悪い人や、退屈な人、めんどくさそうな人よりも、感じのいい人のほうがいいだろう。

そこで、ここでもまた、考えてみれば当たり前だが、あまり実践されていないアドバイスをしたいと思うーキャリアで成功したいのなら、人に親切にしなければならない。または少なくとも、イヤなやつになってはいけない。

誰かに雇われて働いているなら、あなたの出世と成功を決めるのは上司だ。正しい世界であれば、上司はあなたの仕事ぶりや会社への貢献度を評価の基準にするだろう。しかし現実の世界では、完全に客観的な評価ができる上司はほとんどいない。その部下が好きかどうかということが、当たり前のように評価に影響する。

だから、キャリアで成功したいなら、上司に好かれることが大切だ。上司には愛想よくして、反抗的な態度は取らないこと。上司の頭痛の種になってはいけない。むしろ一緒にいて楽しい部下になろう。そうすれば、思ったよりも早く出世させてもらえるだろう。

そしてもう1つ大切なのは、上司が特定の部下を好きになっても、組織にとって必ずしも害にはならないということだ。むしろいい影響を与えることのほうが多い。上司に好かれるような人は、同僚にもいい印象を与える。彼らは職場の雰囲気をよくし、チームの結束を強め、士気を高める。その結果、会社の業績も上がるのである。

キャリアで真の成功者になりたいのなら、人に親切にしなければならない。親切で思いやりがある人だと思われるように努力しよう。そして「ダークサイド」は隠すこと│同僚に見せないのはもちろん、特にボスに見せてはいけない。傲慢な態度がいい結果につながることは絶対にない。

しかし、親切にしていれば、ほぼ必ず見返りがある(時間はかかるかもしれないが)。この点に関しては、アカデミズムの世界ではめったにないことだが、すべての専門家の意見が一致している。

『ビジョナリー・カンパニー』(日経BP社)の著者であるジム・コリンズは、『ハーバード・ビジネス・レビュー』誌に寄稿した記事の中で、最高の企業リーダーは、つねに厳しいプロ意識と謙虚な態度を併せ持っていると書いていた。

人とうまくやれる能力は、マネージャー職に昇進するのに必要な条件であり、組織を成功に導くようなリーダーは必ずこの資質を備えている。他人の気持ちに敏感な人は、雇われるし、昇進もできる。逆に他人の気持ちがわからない人は、解雇されるか、組織を滅ぼす。

仕事で自信を高める方法(本当は自信は必要ないけれど)

実際のところ、キャリアで成功するために自信を高めるのは無駄な努力だ。現に私が知っている中でトップクラスの自信家たちは、仕事でまったく成功していない。裕福な家庭に育ち、いい教育も受けているのに、出世どころか就職さえままならない状態だ。

この自己愛過剰の社会は、理想だけは高く、そのくせ必要な努力はしない人、または必要な才能を備えていない人であふれている。こういった人たちは、部下にするとことさらやっかいだ。どんどん傲慢になり、勘違いが大きくなり、そして社会に対して恨みを募らせていく。

大切なのは、自分の内なる声を聞けるのはあなただけであり、声を気にかけているのもあなただけということだ。他の人は、あなたのキャリアの自信なんてたいして興味を持っていない。彼らが知りたいのは、あなたに能力があるかどうかということだけだ。

自信と実力を見分ける能力のない人は、外側の自信を頼りにあなたの実力を判断することになるが、それでも実力にしか興味がないのは同じだ。

能力レベルの高さを他人に見せることができれば、キャリアで成功できる確率も高くなる。そして能力レベルの高さを自分に見せることができれば、キャリアの自信が大きくなる。論理的に考えて、前者が後者の前提条件になるだろう。本当の意味でキャリアが発展すれば、それはそのまま自信につながる。

もちろん、自信がないのは、もしかしたら自分に厳しすぎることや、悲観的な性格が原因で、本当は自信を持ってもいい状態なのかもしれない。しかし、非現実的な自信のなさ(完璧主義者の自己批判)に対処する方法も、現実的な自信のなさに対処する方法とまったく同じだ。

つまり、実力を高めるしかない。勘違いではなく、本当の意味で自信をつけるには、実際に成功するしかないということだ。そして実際に成功するには、実力をつけなければならないーそれ以外の方法は、すべて無意味だ。

つまり結論は、キャリアの成功に自信は必要ないということだ。むしろ自信はないほうが、「雇われる人材」に必要な3つの要素を身につけることができるだろう。自信がない人は、もっと実力をつけるために専門技術を磨き、自分の実力不足を補うために勤勉に働き、そして傲慢でイヤな人間にならないように気をつけるからだ。

トマス・チャモロ=プリミュージク

ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン教授

コロンビア大学教授

マンパワーグループのチーフ・イノベーション・オフィサー

社会心理学者/大学教授

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