「気持ちが出過ぎちゃって...」名古屋戦で“ヒーローになりかけた”磐田DF森岡陸のかける思い「ヘディングが強いキャラを奪われないように」

[J1第8節]磐田 0-1 名古屋/4月13日/ヤマハスタジアム

「もう来たーって思っちゃって」

ジュビロ磐田が名古屋グランパスに0-1で敗れたホームゲームで、62分の途中出場から試合のヒーローになり損ねたDF森岡陸は、苦笑いしながら振り返った。そのシーンは後半アディショナルタイムの6分に訪れた。

右サイドからブルーノ・ジョゼがスローインを上原力也に繋ぐと、右足で蹴り上げられたボールはファーサイドへ。そこで待っていた森岡がタイミング良くヘッドで合わせたが、外側からブロックに来た三國ケネディエブスの身体に当たり、跳ね返りがFWマテウス・ペイショットの上体に当たって、右サイドに流れていった。

「絶対決めてやると思って。引きつけすぎて...気持ちが出過ぎちゃって...悔しいです」

そう語る森岡は、セットプレーを担当する西野泰正コーチからも「お前が入ったら絶対に決められる」と背中を押されていたという。181センチと特別サイズが大きいわけではないが、バネの効いたジャンプとヘディング力には定評がある。

「本当に毎試合、チャンスはあるので。そこで一発、そのチャンスを作れているだけ、まだ良いっていう捉え方もできるかもしれないけど、決めないと意味がないので」と森岡。

もちろんセンターバックとして守備で相手FWを抑えるのが第一の仕事であり、相手の永井謙佑、終盤に入ってきたパトリックというJ1でも名の知られたFWを封じた仕事は大きかった。

それでも、倍井謙の退場で相手が10人となり、1点のリードを追いかける展開だっただけに、森岡は得点も含めた攻撃での貢献をしきれなかったことを悔やんだ。

特に終盤は左サイドバックから右に回ってきた植村洋斗も中盤の組み立てに加わり、右ワイドに開いた森岡が、サイドアタッカーのブルーノ・ジョゼを援護する構図になっていた。

「ブルーノが仕掛けやすいようにビルドアップしていくとか、僕が捨て駒になってもいいから、仕掛けやすいようにやったつもりだったんですけど...」

守備で十分な存在感を見せながら、攻撃面での反省点を口にする森岡。磐田のアカデミーから法政大に進学し、現在は日本代表の主力に定着しているFW上田綺世と同期で、2021年から磐田でプロのキャリアをスタートさせた。

横内昭展監督の1年目だった昨シーズンは、ディフェンスリーダーの大井健太郎から3番を引き継ぎ、主力のセンターバックとしての飛躍が期待されたが、怪我もあり、リーグ戦は2試合に途中出場しただけで終わってしまった。

心機一転でJ1の舞台に挑む今シーズンもリカルド・グラッサ、伊藤槙人、そしてU-23アジアカップ(パリ五輪アジア最終予選を兼ねる)に臨む大岩ジャパンのメンバーに招集された鈴木海音の影に隠れる形となっていた。

明るいキャラクターで、ムードメーカーであることも自負する森岡は「ベンチから選手が良いプレーをしたら盛り上げたり、良くないプレーをしても『大丈夫、大丈夫』って盛り上げていくのが自分の良さだと思う」と語るが、もちろんそうした存在で終わるつもりはない。

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その意味でも名古屋戦で、守備面だけでなく、攻撃面でも貢献してヒーローになることで、横内監督にも大きくアピールできたはずだった。森岡は「去年、やっぱりやってない分、今日の試合とかも僕、スタメンの準備をしてたんですけど、去年は本当に試合に出てないので。監督の信頼を勝ち取れてないなと思った」と正直に、悔しさを口にした。

4試合ぶりのスタメン出場だった伊藤はコンディションが回復して、ほぼぶっつけ本番での試合だったようで、横内監督も森岡との交代がコンディション面も考えてのことだったと隠さない。おそらく、順当なら次節のアビスパ福岡戦も、リカルド・グラッサと伊藤のセンターバックコンビになることが予想される。しかし、森岡には評価を覆すチャンスがある。

4月17日に行なわれるルヴァンカップの2回戦で、磐田はJ2のV・ファーレン長崎とのアウェーゲームに挑む。長崎は週末のJ2で徳島ヴォルティスに6-1で大勝しており、J2でも磐田と同じ静岡県勢である首位の清水エスパルスを勝点1差で追いかけている。そしてチームにはJ2で6得点のエジガル・ジュニオと、昨シーズンのJ2得点王で現在5得点のフアンマ・デルガドがいる。

「そもそも長崎のタレントがJ2のレベルじゃないですよね。フアンマ、エジガル...」と語る森岡にとって、ルヴァン杯はセンターバックで先発し、評価を高めるビッグチャンスだ。

もう一人、卓越したジャンプ力を誇る20歳のDF西久保駿介にもヘディングでの得点が期待されるが、森岡は「ヘディングが強いキャラを奪われないように、僕が決めていきたいです」と笑顔で力を込めた。

J1での戦いに向けて、一挙15人を補強した磐田はここからフレッシュな戦力の活躍も飛躍の鍵を握るが、この遅れてきたヒーロー候補生を忘れるべきではない。

取材・文●河治良幸

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