白銀の北アルプスに春の風物詩「何に見える?」お花見とセットで楽しめる“雪形”探し

4月下旬、大出の吊り橋の広場から眺める白馬三山。雪形「代掻き馬」が写っています(撮影:杉村航)

4月に入って信州、長野も一気に春めいています。この時期、お花見と合わせて楽しめるのが「雪形」です。

雪形とは、雪が溶け現れた山肌が周囲に残った雪によって何かの形になぞらえられたものです。逆に、周囲の山肌から浮き出した残雪の形でイメージされる雪形もあります。古くは農作業のタイミングの目安として用いられていたようですが、雪国に訪れた春の景色としても人々の目を楽しませてくれます。

南北に連なる北アルプス。その長野県側から見える残雪の山肌には、様々な雪形が現れます。すでに朧げながらその姿を現しつつある雪形ですが、桜はまだ蕾や開花したばかりの場所がほとんどです。かなりの数がある雪形のうち、お花見と一緒に楽しめるお気に入りの場所を長野在住の筆者が紹介します。

今後の天気次第でもありますが、いずれの場所も桜と雪形を合わせた見頃は今月中旬から下旬にかけてでしょうか。桜の開花状況と雪形の様子を確認するため、4月10日に数か所撮影してきました。

■白馬エリアを代表する白馬岳の「代掻き馬」

4月下旬、八方より眺める白馬岳と「代掻き馬」

白馬岳北側に出現する「代掻き馬(しろかきうま)」は、白馬のシンボル的存在です。田植え前の代掻き作業のタイミングを知らせてくれるものでした。

村内のいろんな場所からも見えますし、長野市など少し離れた場所でも展望台など開けた場所からなら雪形を確認することができます。お花見と合わせるなら、筆者のお気に入りは「大出の吊り橋」。蛇行する姫川の清流に架かる吊り橋と白馬三山のビュースポットです。周囲は広場となっており、桜をはじめとした鮮やかな彩りが楽しめます。ただし、花の季節の休日は大賑わいですので、可能であれば平日や早朝に訪れるのがいいでしょう。

■鹿島槍ヶ岳の「鶴と獅子」は掛け軸みたい! 爺ヶ岳の「種まき爺さん」は二人いる?

白馬から南下して大町市へ。市街地の東側、山腹にあるのが桜の名所としても人気の「大町公園」です。公園内には様々な種類の桜がありますし、道路に沿った桜並木も見事です。近くには「山岳博物館」もあるので、山好きなら合わせて訪れるといいでしょう。ここからは鹿島槍ヶ岳と爺ヶ岳の2座をそれぞれ桜越しに眺めることができます。

北側にある双耳峰(山頂部に同じような二つのピークがある山)、鹿島槍ヶ岳の南峰(向かって左)から真下に視線を下げると顔を上げた「鶴」がいます。右側には鶴に襲いかかるような躍動感ある「獅子」の姿があります。実はこの獅子の胴体部分は高く聳える崖です。山岳滑走中にその下を通過したことがありますが、そのスケールに圧倒されて目まいがしそうでした。

鹿島槍ヶ岳から左へ。爺ヶ岳の南峰(一番左のピーク)の下に現れるのが「種まき爺さん」です。実は大小二人並んでいるのですが、向かって右側の小さい(北の)種まき爺さんはやや出現が遅いようです。まさに農作業を象徴するような雪形ですね。

■安曇野のシンボル! 常念岳の「常念坊」

広く、安曇野エリア一帯から見えるランドマーク的な常念岳。その前常念岳東面に“袈裟を着たお坊さんが徳利を下げているような形”で現れる雪形が、常念坊です。

お花見がてら眺めるのに気に入っている場所は二つ。一つは「田淵行男記念館」で、館内にはナチュラリスト、山岳写真家である氏の作品が展示されています。山を眺めるに非常に適した場所だと思います。隣りには「名水百選 安曇野の里」もあります。もう一つは「光城山」で、登山道をゆっくりと登りながら、休憩がてらに振り返って眺めるのがおすすめ。ここは標高に応じて開花状態が違い、咲き具合のいい場所を選べるので、写真撮影にももってこいです。

■雪形と桜と思い出と

他にも同じく常念岳の「万能鍬」や蝶ヶ岳の「蝶」など、雪形自体はまだまだ数多くあります。1月に雨が降ったり、2月には記録的な高温となった冬でしたが、3月に入ってからは降雪と冷え込んだ日が続きました。年によって雪の消え方も違いますし、花々の開花のタイミングもまた微妙に変わります。その変化を感じながら春を感じるのも乙なものです。

実は筆者は若い頃、今回紹介した雪形のいくつかの付近を通過するような登山(登攀や滑走)をした経験があります。春、麓から桜越しの雪形を眺めていると、当時の思い出がじわじわと込み上がってきます。山は変わらずそこにありますが、気力と体力は衰えていくものですね……。

雪形は里のいろんな場所から眺めることができますので、立ち寄った際にはお花見がてら、ぜひ探してみてください。ついでに自分だけの雪形も見つけてみてもおもしろいかもしれません。

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