aiko「相思相愛」は『名探偵コナン』の“ラブコメ”を象徴する曲に 歴代主題歌で描かれた登場人物の恋模様

4月12日、映画『名探偵コナン 100万ドルの五稜星』の公開がスタートした。今や国民的アニメシリーズとなった『名探偵コナン』。原作は、1994年1月の連載開始から今年で30周年を迎えた青山剛昌の同名マンガ。1996年にアニメ化され、その翌年の1997年から映画シリーズがスタートした。毎年春の映画興行シーンを力強く牽引するシリーズとなり、特に近年の人気は非常に目覚ましい。2018年の『ゼロの執行人』で一気に興行収入90億円台に飛躍、そして、2023年の前作『黒鉄の魚影』は、シリーズ初の100億円の大台を超えただけでなく、結果として興行収入138.8億円を突破するという大ヒット作品となった。そして今年の新作は、公開初日で興収9億6000万円という記録を打ち立て、前作の初動を大きく上回るロケットスタートを切った。今作が、今年の春の映画興行シーンの行方を占う重要作となることは間違いないだろう。

今作でシリーズ27作品目となるが、歴代の作品を振り返ると、メインとなる舞台やフィーチャーされる登場人物などが毎回変わり、その多様なバリエーションに驚かされる。ただ、マンガやアニメを含めて一貫しているのは、「ミステリー×ラブコメディ」を一つの作品の中で鮮やかに両立させていること。その2つを自然な形で、かつ、ケミストリーを生むように両立させる手腕は、まさに青山剛昌の作家としての強みであり、また、その掛け合わせこそが、このシリーズが長年にわたり、そして幅広い世代のファンに愛され続けている理由であると思う。

後者のラブコメディの側面はとても多彩な展開を見せていて、工藤新一(江戸川コナン)と毛利蘭の関係性をメインで描きつつ(イギリス・ロンドンのビッグベン前での新一からの告白、その後の京都での蘭の返答を経て、2人は恋人として結ばれている)、他にも、服部平次と遠山和葉、鈴木園子と京極真、佐藤刑事と高木刑事をはじめ、様々な登場人物たちの恋愛模様が丁寧に描かれている。また、劇場版では、マンガやアニメ以上に、登場人物たちの恋愛模様に深くフォーカスされることが多く、歴代の劇場版の主題歌を振り返ってみると、ラブストーリーとしての『コナン』と深く響き合う楽曲が多いことに気付く。

1998年の『14番目の標的』では、コナンと蘭が、お互いの命を決死の覚悟で救い合うスリリングなストーリーが展開される。この作品のエンドロールを彩るのが、ZARDの「少女の頃に戻ったみたいに」だ。〈あなただけは 私を やさしい人にしてくれる とても 大好きよ とても 大好きよ〉という歌詞の切実な響きが、映画の余韻とともにいつまでも胸に残り続ける素晴らしいエンディングであった。

また、記憶喪失となった蘭を命懸けで守るコナンを描いた 2000年の『瞳の中の暗殺者』は、初期の劇場版の中でも特に大きく2人の関係性にフィーチャーした作品で、その主題歌に起用された曲が、小松未歩「あなたがいるから」である。〈もしも この世に汚れがなければ 姿を変えずに愛し合えたのに どうして時は衆を別つの ねぇ 傍に居て 今だけ〉という一節は、本来の新一の姿で蘭の傍にいてあげることができない葛藤や胸の痛みを描いているように読み解くことができて、『コナン』シリーズと深く響き合うラブソングの代表例と言える。

平次と和葉の恋愛模様が劇場版でフィーチャーされることも多々あり、その一つである2017年の『から紅の恋歌』の主題歌には、倉木麻衣の「渡月橋 ~君 想ふ~」が起用されている。新一と蘭が、どこか遠距離恋愛に似た関係性であるのに対して、平次と和葉は、いつも傍にいてお互い相手に片想いをしているにもかかわらず、なかなか本音を伝えられずにいる。〈君となら 不安さえ どんな時も消えていくよ いつになったら 優しく 抱きしめられるのかな〉〈いつも いつも 君 想ふ いつも いつも 君 想ふ〉と歌うこの曲は、まさに、そうした2人の揺れる恋心を鮮やかに射抜いた珠玉のラブソングであるように思う。

そして、現在大ヒット公開中の『100万ドルの五稜星』においても、平次と和葉の恋愛模様が大きくフィーチャーされている。物語の舞台は、北海道の函館。平次は、新一がビッグベンで蘭にプロポーズしたことを強く意識しており、それよりも素敵な告白スポットを見つけようと意気込んでいる。そして、和葉に告白する絶景ポイントとして白羽の矢を立てたのが、函館山から見ることができる三大夜景の一つ、通称"100万ドルの夜景"だ。

今作のメインの軸となっているのは、コナン&平次のコンビと怪盗キッドが、時に対立し時に連携しながら、日本刀を巡る謎を解いていく本格ミステリーであるが、一方で「平次は和葉に告白することができるのか?」というもう一つのサスペンスフルな軸が用意されていて、その2つの軸がクライマックスへ向けて次第に重なっていく展開が繰り広げられていく。

なお、蘭は、今作においては、恋の先輩として平次の背中を押し、和葉への告白が成功するようサポートする役割に徹しており、また平次と和葉の恋を邪魔しようとする大岡紅葉、および、執事の伊織も登場することで、今作のラブコメディの要素がよりいっそう際立っている。それだけでなく、平次とキッドには浅からぬ因縁(今作で一瞬プレイバックされる“キスの恨み”)もあったりして、このように今作には、平次と和葉のラブストーリーとして楽しむ要素や展開が数多く散りばめられている。

終盤に向けて2人のラブストーリーがどのように展開していくかについてはぜひ劇場で確かめてもらいたいが、ネタバレにならない範囲で、今作のエンドロールを彩るaikoの主題歌「相思相愛」について触れておきたい。

まず、同曲のタイトルについて。これまでも劇場版の主題歌にラブソングが起用されることはあったが、これほどまでに直球のタイトルの曲は珍しい。「相思相愛」とは両想いを意味する言葉で、両想いの関係性が数多く描かれている『コナン』シリーズの真髄を射抜いたタイトルである。この言葉そのものは同曲の歌詞の中には出てこないが、歌い出し、および、サビの〈あたしはあなたにはなれない なれない/ずっと遠くから見てる 見てるだけで〉という一節は、まさに、「相思相愛」でありながら両想いに至ることができない切実な関係性を見事に言い表した言葉であると思う。

特に、誰かを好きになる気持ちを憧れや敬意のようなものに見立てて、その上で自分と相手を比べつつ、〈あたしはあなたにはなれない〉と表す点には、aiko独自の筆致が色濃く表れているように感じる。タイトルこそ直球であるが、やはりaikoが綴るラブソングには底知れぬ奥深さが宿っていると改めて思う。そして、そのあまりにも深い恋心が、軽やかに躍動するメロディラインと軽快なポップサウンドに乗せて歌われる振れ幅こそが、この曲の素晴らしさだ。

なお、同曲は、平次と和葉だけでなく、すでに恋人同士である新一と蘭、また、キッド(黒羽快斗)と中森青子をはじめ、様々な登場人物の関係性に重ね合わせて聴くことができる普遍性を帯びている。もちろん、映画から独立した一つのラブソングとして聴くこともできる楽曲で、映画の大ヒットという追い風を受けながら、この曲が広く長く愛されていく予感がする。映画をすでに観た人もそうでない人も、ぜひ、aikoが綴った一つひとつの言葉に耳を澄ませながら聴いてみてほしい。

(文=松本侃士)

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