【皐月賞】ジャスティンミラノが無傷の3連勝でレーコードV!世代の頂点へ導いた 空からの『もうひと押し』

第84回皐月賞 戸崎圭太騎手鞍上のジャスティンミラノが優勝 (C)SANKEI

レース直後。澄み切った空のもと、ジャスティンミラノの鞍上・戸崎圭太は空に向かって右手を挙げた。

その姿はファンに向けてのガッツポーズだけでなく、空に向かって何かを伝えていたようにも見えた。

このレースが行われる数日前、競馬界に悲しい出来事が起こった。

4月6日に落馬事故に遭った藤岡康太騎手がその4日後の4月10日にこの世を去った。昨年のマイルCSをナミュールで制するなど、これからが期待されたトップジョッキーはわずか35歳でその生涯を閉じることになってしまった。

大きな悲しみに包まれた中で行われた今週の中央競馬。皐月賞前日の13日には阪神競馬場で第1レース前に兄の藤岡佑介や武豊らが黙とうを捧げ、その死を惜しんだ。

今年の皐月賞で藤岡康太と深い繋がりがあり、大きな影響を受けていたのはジャスティンミラノだったことだろう。

彼は調教パートナーとしてジャスティンミラノに乗り、デビュー戦、共同通信杯の1週前、そして皐月賞の1週前追い切りでもジャスティンミラノに稽古をつけていたという。

共同通信杯の1週前追い切り後には、この馬の将来に期待している旨のコメントを残すなど、藤岡康太が高い期待を寄せていた1頭でもあった。

いつも近くにいて当たり前と言うべき存在がこの世を去った。競走馬にとって成長過程にあたる3歳春に訪れた突然の別れに、ジャスティンミラノは何を思ったのだろうか。

まるで夏の被を思わせるほどに強い日差しの中で行われた今年の皐月賞。

76年ぶりとなる牝馬による皐月賞制覇を目指すレガレイラが1番人気に支持されたものの、単勝10倍を切る馬が5頭もいるという混戦模様に。

その中でジャスティンミラノは2番人気の支持を受けた。

初めての中山コース、そして初めての他頭数のレースがどう影響するかが焦点とされていたが、共同通信杯から+10キロとなる512キロの馬体は明らかにパワーアップしており、堂々たる周回は無敗馬ならではの貫禄さえ感じさせ、レースへと臨んだ。

レース直前にダノンデザイルが出走を取り消し、ゲートが開くとビザンチンドリームが出遅れるという波乱のスタートとなった今年の皐月賞。

(C)SANKEI

その他の馬はスムーズにゲートを飛び出し、内枠の馬同士による先行争いが行われ、毎日杯を逃げ切ったメイショウタバルがここでもハナを主張して逃げの姿勢を取った。

その後ろをシリウスコルト、2歳王者のジャンタルマンタル、ミスタージーティーが続き、ジャスティンミラノは5~6番手という位置に付け、すぐ後ろにシンエンペラー。1番人気のレガレイラは後方から3頭目という極端な位置取りを取って第1コーナーを曲がっていった。

前を行くメイショウタバルは第1コーナーを通過しても1ハロン11秒台の速い時計を出し続け、1000mの通過時計は57秒5という速いペースで後続を離していく。

この日の中山の馬場は前が残りやすく、先行馬が有利な傾向があった。それだけに浜中俊とメイショウタバルは積極的に仕掛けていった。

メイショウタバルの逃げを見た各騎手は3コーナーを過ぎたところで追いかけ始めた。5馬身近くあったその差は4コーナーを回り、直線に入るころにはすでになくなっているほどだった。

そうして迎えた最後の直線、先頭に立ったのはジャンタルマンタルだった。

朝日杯FSでも見せた弾むようなフットワークで加速し、前を捕らえた。差し届かずに2着に敗れた共同通信杯と同じ轍は踏まないと言わんばかりの積極的なレース運びで後続を離しにかかっていった。

そのジャンタルマンタルを懸命に追いかけてきたのがジャスティンミラノとコスモキュランダ、シンエンペラーの3頭。

残り200mの坂のところでシンエンペラーが脱落したが、外から2歳王者を捕まえようと追いすがった。

ゴールまで残り100m。併せ馬のような形でジャスティンミラノとコスモキュランダが迫る。

しかし、ジャンタルマンタルの脚色もまだ衰えない。この時点での差は1馬身半近く。普通ならばもう届かないだろう。2歳王者が皐月賞を制し、世代最強を誇示するかと思われた。

ところが、ゴール前残り50mほどのところでジャスティンミラノとコスモキュランダがもうひと伸び。届かないと思われたジャンタルマンタルとの差を詰めていくと、ついに馬体を並べて差した。

最後はこの2頭の競り合いとなったが、ジャスティンミラノがクビ差分だけ先に出たところでゴール。共同通信杯に引き続き、再び2歳王者を破って皐月賞のタイトルを獲得した。

3戦無敗で世代の王座に就いたジャスティンミラノ。ゴール前の様子ではまさか届くとは思わなかったが......レース後のインタビューで戸崎圭太は涙ながらにこう語った。

「康太が後押ししてくれたんだ。康太も喜んでいるんじゃないかな」

ジャスティンミラノの走りは素晴らしかったし、それを引き出した戸崎圭太の騎乗も見事だったのは間違いない。しかし、セーフティーリードを奪ったジャンタルマンタルを差した最後のひと押しは本当に神がかっていたように思う。

......もしかしたら、本当に藤岡康太が空からジャスティンミラノの背中をひと押ししたのかもしれない。レース直後、右手を空に突き上げた戸崎圭太は心の中でこう思っていたことだろう。

「康太、ありがとう。この馬のことは任せてくれ、お疲れ様」

空の上からこのレースを見ていたであろう、藤岡康太は微笑んでいたのだろう。そう感じるほど、中山の芝は日差しに眩しく照らされていた。

■文/福嶌弘

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