『光る君へ』ファーストサマーウイカの佇まいが面白い “推し”と出会った“清少納言”誕生

『光る君へ』(NHK総合)第15回「おごれる者たち」。道長(柄本佑)の兄・道隆(井浦新)は強引に娘・定子(高畑充希)を中宮にすると、妹で一条天皇(柊木陽太/塩野瑛久)の母である詮子(吉田羊)を内裏の外へ追いやった。道隆は息子・伊周(三浦翔平)らに身内びいきの人事を行うだけでなく、定子のために公費を投じ始めるなど、独裁に拍車がかかる。道長はそんな兄のやり方に納得がいかない。一方、まひろ(吉高由里子)はさわ(野村麻純)とともに出かけた近江の石山寺で思いもよらない人物と出会う。

第15回では、自暴自棄になっていた道兼(玉置玲央)が道長の言葉に胸を打たれ、はらはらと涙を流す姿や、塩野演じる麗しく成長した一条天皇の登場など、目を引く場面が多々あった。その中でも、ファーストサマーウイカ演じるききょうが定子と初めて対面する場面が印象に残る。

ききょうは念願叶って内裏で女房として働くことになった。まひろはききょうが自分の喜びを唯一伝えられる相手である。まひろのもとへ訪れたききょうの明るい面持ちと、まひろの返答に「ああ、よかった」と心の底から安堵したような声色に、ききょうにとってまひろは気兼ねなく話せる大切な存在なのだと分かる。

公式ガイドブックにて、ききょうを演じているファーストサマーウイカは、ききょうにとって定子は“推し”、と例えている。ききょうと定子が初めて対面する場面は、まさに“推し”との衝撃的な出会いを描いていた。おずおずと顔を上げたききょうは定子の姿を目にして思わず見惚れてしまう。ファーストサマーウイカが発した「きれい……」という感嘆の声や返事を忘れてぼーっと見入る表情に、ききょうがいたく感動していることが表れている。

ファーストサマーウイカの“推し”に心酔する演技もさることながら、ききょうらしい肝の据わった言動も魅力的だ。定子から「清少納言」という名を与えられた時、ききょうは定子を立てる貴子(板谷由夏)に対して「夫とはすでに別れましてございます。それに元夫は少納言でもございません」とキッパリ言い切った。貴子と伊周のなんとも言えない顔つきから、ききょうの空気を読まない姿勢が伝わってきた。だが、それこそが自分の考えや感情を素直に表に出すききょうの魅力だ。

顔をわなわなさせて、隠しきれないほどの喜びをあらわにする姿には可笑しみがあるが、微笑ましくもある。そんなききょうに定子も心惹かれたのか、「愉快である」と親しげに笑った。定子の好意的な言葉に、興奮冷めやらぬききょうの佇まいが面白い。

“推し”とまではいかないかもしれないが、まひろもまた藤原寧子(財前直見)との思いもよらない出会いに胸を高鳴らせる。誦経中、まひろとさわがひそひそ話すのを叱ったのが寧子だった。 『蜻蛉日記』を愛読していたまひろは寧子との出会いを大いに喜ぶ。ききょうと違って喜びの表現は控えめだが、まひろ演じる吉高の普段よりやや早口な台詞の言い回しからまひろの興奮が伝わる。母を迎えに来た道綱(上地雄輔)に対して、まひろは「日記に出てきた道綱様にもお会いできるなんて、来た甲斐がありました」と嬉しそうな顔を浮かべた。まひろが喜ぶ様子は愛らしく、道綱がまひろに惹かれてしまうのも納得だった。

まひろが感激する姿も心に響くが、寧子演じる財前の演技にも心打たれる。本作で財前が見せる表情はどれもチャーミングだ。寧子はまひろとさわに対して、はじめこそキッと厳しい顔を見せるが、2人が反省するのを見るとにこりと笑いかける。その笑顔は、今は亡き兼家(段田安則)が寧子には甘えてしまうのも納得できるほど、穏やかであたたかい。寧子といえば、兼家の前でことあるごとに「道綱、道綱」と息子の名前を呟くコミカルな場面が印象的だが、まひろと言葉を交わす場面では愛情深い人物像が際立つ。寧子はまひろとの会話の中で、まひろの恋の痛みを悟ったかのように「心と体は裏腹でございますから」と優しい声色で語った。続く言葉もまた、まひろの心に強く響く。

「それでも、殿との日々が私の一生の全てでございました」
「あの方との日々を日記に書き記し、公にすることで妾の痛みを癒したのでございます」

寧子の言葉には妾としての悲しみも感じられる。だが、財前は気品ある佇まいとやわらかな表情、兼家との関係に一切悔いを感じさせない台詞の言い回しを通じて、寧子の兼家に対する深い愛を表現していた。

道長への思いを心に秘めて過ごすまひろにとって、『蜻蛉日記』の切なさは胸にしみるものがあった。まひろは月を眺めながら、作者である寧子の言葉を思い返す。

「書くことで、己の悲しみを救った」

まひろもまた、自身の悲しみを書くことで救うのかもしれない。

(文=片山香帆)

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