21世紀の英才教育とは?Google社も重要視する、AI時代を生き抜く子どもの脳の育て方

上昇志向が強いオトナのために、東カレ編集部が厳選した“ワンランク上の自分になれるための本”を紹介します。

今回、紹介するのは、『子どもの脳の育て方 AI時代を生き抜く力』黒川伊保子著(講談社+α新書)

いい脳の持ち主は、「幸福な天才」である。「頭もいいけど、それ以上に運がいい人」と言われる人たちである、と著者は述べている。

自分の子どもを、そんなふうに育てたいと思いませんか?

AI時代を生きる子どもたちは、どんなふうに育てれば“いい脳の持ち主”になれるのでしょうか。

▶前回:「仕事に熱意ある社員、わずか5%」の衝撃。エリート社員も窓際族に憧れるヤバい現実とは

▼INDEX
1. Googleが大事にしている「心理的安全性」とは

2. 21世紀の英才教育

3. 本書のココがすごい!

1. Googleが大事にしている「心理的安全性」とは

企業の人事部では、ここ数年「心理的安全性」というワードが囁かれている。

Googleが4年にも及ぶ社内調査の結果、効果の出せるチームとそうでないチームの差はたった1つ、心理的安全性が確保できているか否かだ、と言い切ったからだ。

心理的安全性とは、なんでもないことを無邪気にしゃべれる安心感のこと。

つまり、脳裏に浮かんだことを率直に口にしたとき、頭ごなしに否定したり、くだらないと決めつけたり、皮肉を言ったり、無視したりする人がチームにいないことである。

デジタル企業の覇者Googleが、チームに必要な唯一の資質に戦略力でもなく調査力でもなく開発力でも実行力でもなく、「なんでもしゃべれる安心感!?」と戸惑った企業人も多かった。

安心感とチームの成果がどう結びつくのか見当もつかない。結局、「心理的安全性」を「風通しのいい職場」と解釈して、「風通しのいい職場に。ハラスメントをゼロに」というキャンペーンに代えて、お茶を濁している企業も少なくない。

そうはいっても、いまさら「風通しのいい職場」なんていうことを天下のGoogleが世界的に発表するだろうか。

Googleの提言の熱意と、「風通しのいい職場」という帰結のぬるさ。その温度差、なんとも腑に落ちない、落ち着かない。それが、おおかたの日本の企業人の感覚だったようだ。

しかしながら、この提言を聞いたとき、私は雷に打たれたような気がした。

なぜなら、私の研究の立場からは「真理」のど真ん中だったから。心理的安全性は、今まさに、世界中が身につけるべき資質。

さすがGoogle、本当にいい企業なんだなぁと、ため息をついた。ヒトは、発言をして嫌な思いをすると、やがて発言をやめてしまう。

「あのヒトに言っても、頭ごなしに否定されるだけ」「あいつに言っても、皮肉が返ってくるだけ」「結局、ネガティブな反応が返ってくるだけ」――上司であれ、同僚であれ、親であれ、パートナーであれ、そんな思いを何度かすれば、浮かんだことばを呑み込むようになる。

そうなると、なんとヒトは、発想そのものやめてしまうのである。脳は、1秒たりとも無駄なことをしない装置なので、出力しないのに演算したりなんかしない。

演算に使う脳神経信号も無駄だし、「言えないストレス」もまた、けっこうな無駄信号だからだ。

つまり、浮かんだ言葉を何度か呑み込んでいるうちに、そもそも何も浮かばなくなるのだ。

20世紀は、そんな新入りくんを指して「場になじんだ。彼も一人前になった」と褒められたが、21世紀には「アイデアの出ない、指示待ち人間」と呼ばれることもある。

否定とか、皮肉とか、いきなりネガティブなことを言うヒトは、チームの発想力を止めてしまうのである。発想力だけじゃない、発想力と同じ回路を使う危機回避力と自己肯定感まで下げてしまう。

これは「家庭」というチームにも言える。親がいきなりネガティブなことを言う癖があると、子どもの発想力が育たない。自己肯定感が低くなって、「いや、俺ダメだから」「私には無理だから」と発言するようになり、逃げ癖がつく。

20世紀は、製品やサービスの機能が単純だった。このため企業は、生活者の「車が欲しい」「掃除機が欲しい」という夢を実現すればよかった。

企業側にも夢を見る人材は必要だったが、そんな人材は1万人に1人いれば足りていた。多くの人間は実行力を望まれたのである。

そして教育の段階で「頭ごなしの決めつけ」をすると、脳は実行力を強める代わりに、発想力を失っていく。

21世紀は、製品やサービスの機能は複雑になり、家電1つ買ってもユーザーの想像を超える機能が付加されていたりする。電子機器なんて何年使っても使い切れない機能があるくらいだ。

では、いったい、誰が夢を見ているのか。「製品・サービスを提供する側」が夢を見る必要があるのだ。

企業人一人ひとりの発想力が企業価値を生む時代になっているのだ。当然、チームの発想力を止めてはいけない。となれば、心理的な安全性の確保は、企業のひいては社会の急務なのである。

Googleは、社員の発想力だけで、世界の巨大企業にのしあがった。そのGoogleが見つけた「心理的安全性」というキーワードは、時代の真実のど真ん中を射抜いているのである。

私は1983年の入社で、入社してすぐに言われたのは、「きみたちは歯車だ。小さな存在にすぎないが、歯車が1つ止まれば、組織全体が止まってしまう」という訓示で、当時の頭ではけっこう感動したのを覚えている。

「こうしろ」と言われたことを疑わずに、遮二無二邁進することで大きな組織を回すことに喜びを感じるセンスが、当時のエリートには不可欠だった。

そもそもエリートたちは、幼い頃から、母親の「こうしろ」に従って、お行儀よく高偏差値の大学を出て、一流の場所にたどり着いたので、それはお家芸のようなもの。末端の小さな歯車が、やがて大きな歯車になっていくのが出世街道だったのだ。

その20世紀の気分が、まだ家庭にも学校にも企業にも漂っている。親や先生や経営陣が「その時代の人たち」だからだ。

若い人たちが何か発言をしたとき、指導者が最初に口にする言葉が、「問題点の指摘」(ネガティブ発言)だと、若い人たちの脳は「問題解決型の回路」を活性化することになる。

これは問題点に素早く気づいて、さっさと対応するための回路で、「ゴールをかかげ、そのゴールに足りない能力やアイテムをゲットしつつ、ひたすら突き進む」パワーを脳にもたらす。

20世紀は、「問題解決型の回路」が必要だった。だから大人は、若い人の顔を見れば小言から言うのが習わしだったのである。

ところがこれが21世紀には、大問題となる。

2. 21世紀の英才教育

私たちの脳にある2種類の回路について

私たちの脳には、とっさに使う認識回路が2種類ある。「問題解決型の回路」と「気づきの回路」である。

前者は、前述したがいち早く問題点をピックアップして解決に向かおうとする、非常に合理的な「問題解決型の回路」だ。

目の前に100の事象があったとして、そのうち98%の事象が正しくて、2しか間違っていなかったとしても、問題解決型の人はダメな2から口にする。いち早く弱点をカバーし、わずかなリスクも残さない、というのが、この脳の気分だからだ。結果(ゴール)に強くこだわるとき、人はこの回路を起動しやすい。

後者の「気づきの回路」とは、「そういえば、あれ、やっとかなきゃ」「そうだわ、あれもやっておこう」のように、「するべきこと」にどんどん気づきながら、タスクを片っ端から片付けていく回路である。

家事のような、あふれかえるほどの膨大な多重タスクは、このセンスがなければやっていけない。そしていい経営者も、この回路を巧みに使って、過去の経験値から、未来プランを創生しているのである。

そして、「気づきの回路」を使えるのは、その対象(家族、家、事業、職場など)に愛着があるとき。相手に興味を失ったとたん、まったく勘が働かなくなるのが「気づきの回路」の特徴でもある。

誰でもどちらの回路が使えるが、同時には使えない。

つまり、「問題解決型の回路」が強く活性化すると「気づきの回路」が不活性化する。私たちの脳内にあるこの2つの回路は同時に働かない。一方が著しく活性化すると、もう一方が萎縮する関係にある。

12歳までの子どもは、基本「気づきの回路」を使っており、子どもをちゃんと躾なきゃと思っている親たちは、子どもの前で「問題解決型の回路」が起動する。

だから、夫であれ妻であれ、働いて帰ってきた人は、玄関入って、最初に「階段の電気つけっぱなしだよ」「これ今朝のままじゃん。一日家にいて、何してたの?」なんて口にしがち。

家族の顔を見た瞬間、「ダメなところ」から口にするのをやめて、共感か感謝かねぎらいか、せめて笑顔をあげよう。

共感した数だけ、ねぎらった数だけ、笑顔の数だけ。そう考えると、「逢った瞬間、笑顔と、感謝かねぎらいで優しい共感をあげる」は、21世紀最大の英才教育と言ってもいいのかもしれない。

生成AIを使いこなすには、対話力が必須

2023年8月7日。経済産業省が、AI人材育成の新たな指針策定に乗り出したことを発表した。その方針の中で、生成AIを使いこなす人材に必須スキルとして、“対話力”をあげている。

Googleの心理的安全性に呼応するようなこの方針だが、“対話力”が問われる時代が始まったのだ。

何でも知っている全知全能のAIは、情報空間に偏りがないから、つまらない質問をすれば、たいして面白みのない優等生的な回答をくれる。しかし、個性的な質問をすれば、その人にしか引き出せない素敵な回答をくれる。AIとともに生きる人間には、そのセンスが不可欠になってくるというわけだ。

さらに、生成AIはいけしゃあしゃあと嘘をつく。たとえば、チャットGPTに「黒川伊保子って知ってる?」と入れると「東大出身でカリフォルニア大学の教授」なんて素敵な嘘をついてくれる。

生成AIをうまく操るには、その出力に対して、「なんとなく腑に落ちない」「つじつまが合わない」と感じて立ち止まる、そんな“危機回避力”もまた不可欠なのだ。

みんな「気づきの回路」を使う人に支えられている

“対話力”も“危機回避力”も「気づきの回路」が作り出す能力だ。

「気づきの回路」を優先して使っている人は、「あれ、気になるなぁ」と思って在庫を増やしておいたら急に必要になってコトなきを得た、とか、「あの人、気になるなぁ」と思って声をかけたら助けてあげられた、のようなことが日常に起こっている。

子どもたちは、母親のこの勘で無事に育つし、会社だって「問題解決型の回路」を優先している人が気づかないところでトラブルが未然に回避されている。

危機回避力は、ある意味疑う力でもある。

子育て中の女性は、子どもたちを守るために危機回避力が最高潮になるが、同時に夫の気持ちを疑う時期でもある。

昔から、女たちの夫の浮気を見抜く勘の鋭さは、小説や映画でも使われる「あるある」。そんな能力が、最先端のテクノロジーを使いこなすための資質なのだ。

「気づきの回路」をうまく使えるようにするには、「心理的安全性を確保する、共感から始める対話」が不可欠なのだ。

では、具体的にどのような言葉がけをすると、心理的安全性が育つのだろうか。

日本語の否定文は要注意

子どもたちの言動に、ダメ出しをしなければいけないとき「ダメよ、無理に決まっているでしょ」のように、主語・述語抜きの否定文を使っていないだろうか。

日本語は、主語と述語を省略できるので、パートナーや部下相手にさえもこの主語なしの否定文を使う方がいる。

主語なしのNOには、暗黙の主語がつく。それは「世間」。「普通ダメだろうよ」「みんな無理だと思ってるよ」のように世間を代表して逃げ場のない全否定をしてしまうのである。

さらに相手が子どもだったり、部下だったり、経済格差のあるパートナーだったりしたら、相手の脳内では二人称がついてしまうことも多い。「おまえはダメなやつだな」「おまえには無理なんだよ」のように。そうなると、人格否定も甚だしい。

このため、主語なしのNOは、相手の自己肯定感を著しく下げる傾向にある。

「私は…だと思う」「私には別の意見がある」という言い方をするとよい。

「あなたのファイトは買うわ。でもお母さんは心配なの」「きみの気持ちはわかる。だけど、父さんには別のアイデアがあるんだ。聞いてくれないか」のように。

子どもの選択を「ダメだ。無理に決まっている」と阻止する親は、子どもにとって人生を切り拓いていくときの目の上のたんこぶになってしまう。しかも、「おまえにはダメ、無理」と聞こえているので、自己肯定感まで下げる。

一方子どもの選択を「気持ちはわかる」と受け止めたうえで、「もっと別のアイデアもある。聞いてみないか」と言ってくれる親は、人生の支援者に位置づけられる。

あなたは、子どもにどちらを残したいですか?「どうせダメだろうな」「自分には無理だし」とつぶやく逃げ癖か、自ら信じて人生を切り拓く自己肯定感か。

後者を選ぶなら今この瞬間から、否定文の構文を替えてみましょう。「いいね」か「わかる」で受けて、主語と術後を省略しないこと。

この国の家庭と職場から、いきなりの「ダメ」と「無理」を消し去ろう。

20世紀と21世紀では、社会が必要とする人材(資産)が大きく異なっている。企業価値を生み出すセオリーがまったく違い、エリートの定義もまるで違う。当然人材の育て方も変わらなければならない。

そして2023年、経済産業省が発表したAI人材育成の指針策定の方向性により、それは明確になった。人類に、大きなパラダイムシフト(仕組みの転換、ひいては時代の断層)が訪れているのである。

そのことを、子どもたちを育てる親たちも理解したうえで子どもの教育について考えよう。

3. 本書のココがすごい!

今回紹介した、『子どもの脳の育て方 AI時代を生き抜く力』黒川伊保子著(講談社+α新書)のすごいところは下記に集約される。

①脳科学に携わる著者の子育て経験(実験)をもとに書かれているので、説得力がある。

②「いい脳」の定義を、頭がいいことだけではなく、幸福であるということと言い切って、子ども自身の充足感にも着目しているところ。

③今回の記事では割愛したが、年齢に応じた脳の育て方が書かれているので実践しやすい。

【著者】 黒川 伊保子(くろかわ・いほこ)

1959年、長野県生まれ。人工知能研究者、脳科学コメンテイター、感性アナリスト、随筆家。

奈良女子大学理学部物理学科卒業。コンピューターメーカーでAI(人工知能)開発に携わり、脳とことばの研究を始める。

1991年に全国の原子力発電所で稼働した、“世界初”と言われた日本語対話型コンピューターを開発。

またAI分析の手法を用いて、世界初の語感分析法である「サブリミナル・インプレッション導出法」を開発し、マーケティングの世界に新境地を開拓した感性分析の第一人者。

▶NEXT:4月29日 月曜更新予定。
『人生が整うマウンティング大全』を紹介します!

▶前回:「仕事に熱意ある社員、わずか5%」の衝撃。エリート社員も窓際族に憧れるヤバい現実とは

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