U-23日本代表のパリ五輪最終予選に「3つの不安材料」…六川亨氏がシビアに検証

大黒柱のボランチMF藤田譲瑠チマ(C)Norio ROKUKAWA/office La Strada

16日中国戦からUAEと韓国戦

男子サッカーの決戦が近づいている。7月26日に開幕するパリ五輪の最終予選を兼ねたU-23(23歳以下)アジア杯カタール大会が、いよいよ15日からスタート。カタール入りした大岩剛監督率いるU-23日本代表は、現地時間11日にU-23イラク代表とテストマッチ(非公開)を行うなど着々と調整を進めている。

1次リーグB組の日本は、初戦(現地時間16日午後4時開始)で中国と対戦。第2戦(同19日午後6時30分開始)にアラブ首長国連邦(UAE)、第3戦(同22日午後4時開始)は韓国と対戦する。上位2カ国が1次リーグを突破して決勝トーナメントに進出するが、アジアの五輪出場枠は「3.5」。決勝に進んだ2カ国と3位決定戦の勝者が出場権を獲得するという「狭き門」である(3位決定戦敗退国はアフリカ予選4位のギニアと大陸間プレーオフを戦う)。大岩ジャパンは激闘を制してパリ行きのチケットを手にすることができるのか。元サッカーダイジェスト編集長の六川亨氏が見通しをシビアに検証した。

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日本は1996年のアトランタ五輪に28年ぶりに出場して以来、7大会連続で出場。2012年ロンドン大会、21年東京大会では4位に入賞している。98年フランス大会から連続出場を続けているW杯と同様、今では「出場するのが当たり前」というムードが漂っている。

しかしーー。3月22日のマリ、25日のウクライナとのテストマッチのメンバー発表の際、JFAナショナルチームダイレクター(NTD)を務める山本昌邦氏は「正直、この4月の予選、私には危機感しかありません」と警鐘を鳴らした。

GK鈴木ら相次ぐ主力の招集外

山本NTDはアトランタ五輪(西野朗監督=18年ロシアW杯監督)、00年シドニー五輪(トルシエ監督)の代表コーチとして予選突破に尽力。02年の日韓W杯ではトルシエ監督をコーチとして補佐し、日本サッカー初のベスト16入りに貢献した。

W杯後に五輪代表監督に就任。04年アテネ五輪予選では、UAE開催分の予選でスタッフ、選手全員が細菌性腸炎に苦しめられるなど苦労を重ねながら、3大会連続で五輪本大会出場を決めた。 五輪のアジア予選を突破することの難しさを身をもって経験してきた山本NTDだからこそ、「危機感しかありません」という言葉がズシリと重みを帯びる。

懸念材料はまず「海外組の招集が難しい」ことが挙げられる。山本NTDはこう話していた。

「鈴木(唯人=ブレンビー)と久保(建英=レアル・ソシエダ)は(本大会開催の)7月は(シーズンが)オフになるので話し合い次第。パリ五輪(出場)に前向きに話を進めているが、ハードルは高い。予選(招集)も難しい。海外のクラブは(選手を)リリースする義務はない。交渉は1年くらい前からやっている。海外オフィスも設けて現場は対応しているが、呼べない選手がいる」

実際、鈴木も久保も予選に招集できず、この2人以外にもMF斉藤光毅(スパルタ)、FW福田師王(ボルシアMG)らが招集外となった。

予選メンバーで海外組はGK小久保玲央ブライアン(ベンフィカ)、DF内野貴史(デュッセルドルフ)、MF佐藤恵允(ブレーメン)、MF山本理仁、MF藤田譲瑠チマ(いずれもシントトロイデン)の5人である。この中で所属クラブのレギュラーとしてプレーしているのは藤田チマひとりだけ。

■五輪招集メンバーは「1チーム3人まで」という内規

他の4人は出場機会をつかむのにも苦労しているのが現状。A代表と違って五輪には「拘束力」がないこともあり、チームづくりに大きな足かせとなる。

A代表でスタメン出場を続けているGK鈴木彩艶(シントトロイデン)の五輪予選招集が話題となったが、シントトロイデンのフィンク監督(元神戸監督)はGK鈴木の参加要請を拒否。「FC東京の3人目」としてGK野沢大志ブランドンを呼ばざるを得なくなり、これが大岩監督の構想を大きく狂わせた。

実は五輪招集メンバーは「1チーム3人まで」という内規がある。大岩監督はFC東京のバングーナガンデ佳史扶を左SBのレギュラー候補として呼びたかったはずだが、FC東京にはMF松木玖生、FW荒木遼太郎の攻撃系の当確選手がおり、GK鈴木を招集できなかったことでGK野沢ブランドンを選び、DFバングーナガンデの招集を見送るしかなくなった。苦渋の決断だったはずだが、欧州組の招集問題とJの1チーム3人ルールが、チームづくりを難しくしてしまった。

そもそも海外組の招集を難しくしたのは、U-23アジア杯の開催場所と日時が変わったからだ。

もともとU-23アジア杯は、1月から2月にかけて開催される予定だった。この日程ならチームによっては、選手の予選参加を前向きに検討してくれたかも知れない。

現予選メンバーの国際経験不足

しかし、昨夏に中国で開催予定だったアジア杯(A代表が参加)が、新型コロナウイルスの影響で取りやめとなり、22年にW杯を開催したカタールが代替開催に名乗りを上げた。ただし、猛暑を避けるために24年の1月から2月の開催に変更された。このあおりを受けたのがU-23アジア杯だ。

開催時期が4月に延期されたため、欧州各国リーグが佳境を迎える時期と重なり、「ヨーロッパでプレーしている日本人選手は(予選に)呼びにくい」(山本NTD)状況になった。

さらに現五輪代表世代の国際舞台での経験不足も、山本NTDにとっては不安材料である。

日本はW杯は98年大会から、五輪は96年大会から連続して出場権を獲得し、アンダー世代のU-20代表も17年と19年のW杯でベスト16に進出など結果を残してきた。

ところが現五輪代表世代の選手たちが、国際経験を培う格好の場所となる21年のU-20W杯インドネシア大会は、新型コロナウイルスの影響で中止となった。主軸のMF松木らが出場した23年のU-20W杯アルゼンチン大会は、1勝2敗で1次リーグ敗退となり、決勝トーナメント以降の苛烈な戦いを通して、国際的な経験値をアップさせるチャンスを逃してしまった。

山本NTDの「(選手たちには)世界大会の経験不足がある」という指摘については「ごもっとも」と言うしかない。

前出の荒木、松木に加えてA代表経験もあるFW細谷真大(柏)、売り出し中のFW藤尾翔太(町田)、唯一の大学生(筑波大)FW内野航太郎と多種多彩なアタッカーがそろっている攻撃陣と比べるとDF、GK陣のコマ不足も不安材料である。

「谷間の世代」というのは言い過ぎかも知れないが、Jリーグでもレギュラーとして試合に出場している選手が少ないというのは、厳然たる事実である。もちろんパリ五輪の出場権を獲得した場合だが、OA(オーバーエージ)枠にアーセナルのDF冨安健洋、ボルシアMGのDF板倉滉らの名前が、早い段階で取り沙汰されていることも、DF陣が手薄ということの証左と言える。

中東各国の急激な底上げも見逃せない。

日本代表は中国、UAEを撃破してライバルの韓国と1次リーグB組首位を争う展開になるだろうが、ここからシビアな戦いが待ち構えている。 B組を1位で突破した場合、準々決勝でA組2位通過予想のカタールと対戦することになり、勝ち上がっても準決勝でC組上位予想のサウジアラビアとイラク、D組上位予想のクウェートとウズベキスタンとの対戦が控えている。これまで中東サッカーは、サウジアラビアだけが突出した存在だったが、他の中東勢も国を挙げた強化に取り組み、アジアトップの日本に対し、徹底した研究で丸裸にしていることが予想される。A代表が準々決勝で敗退した1月から2月のアジア杯でイラン、イラクに敗れたことが好例だ。

五輪代表が8大会連続出場を逃したとしても、決して不思議ではない状況に大岩ジャパンは置かれている──。

▽六川亨(ろくかわ・とおる)1957年生まれ。東京都板橋区出身。法大卒。月刊サッカーダイジェスト記者を振り出しに隔週、週刊サッカーダイジェストの編集長を歴任。2001年以降はCALCIO2002の編集長を務めながら多くのサッカー専門誌の創刊を手掛けた。W杯、EURO、五輪など精力的に取材。携帯サイト「超ワールドサッカー」でコラムを長年執筆中。著書に「Jリーグ・スーパーゴールズ」「サッカー戦術ルネッサンス」などがある。

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