地元で「麗央のカーニバル」の初優勝 震災から8年の熊本に元気を届けた竹田麗央

地元・熊本の空の下、21歳の笑顔が輝いた(撮影:佐々木啓)

<KKT杯バンテリンレディス 最終日◇14日◇熊本空港カントリークラブ(熊本県)◇6518ヤード・パー72>

悔し涙をたくさん流してきた。うれしいのに泣くなんてもったいない。単独首位で18番グリーンに竹田麗央が帰って来た。大勢の地元ギャラリーが見守る中、無造作に沈めた短いウィニングパット。プロ3年目、64試合目で決めた初優勝に満開の笑顔が咲いた。

「たくさんの応援が力になりました。小さなころから見に来ていた大会で、自分が勝てるなんて思ってもいなかった。信じられない。うれしくて涙は出ませんでした」

この瞬間を刻むために、時計の針は動いていた。2日目に初めて首位に立った3月の「Vポイント×ENEOS」は9ホールの短縮競技となった最終日に失速して5位。単独首位から最終日を出た2週前の「ヤマハレディース葛城」は2位に終わった。プロで母の哲子が運転する帰りの車中は涙が止まらなかった。

「優勝したいという気持ちが強すぎて、思ったようなプレーができなかった。きょうは何も意識せず、楽しむことだけを考えた。無駄な力は入りませんでした」

口で言うのは簡単だが、普段通りが一番難しい。しかも、地元大会。期待が重圧になってもおかしくない状況で3打差を逆転した。573ヤードの11番パー5は2打目をグリーン手前まで運んだ。残り15ヤードをピンそば30センチに寄せたバーディで首位に並び、13番パー3で岩井明愛がボギーをたたいて単独首位に立った。15番パー4はグリーン左ラフから10ヤードのチップインパー。優勝への流れを決定づけた技ありのパーセーブだった。

「麗央」と書いて「りお」と呼ぶ。竹田家に誕生した第二子の初めての女の子。「4月生まれなので、さくらとつけたかった」という母の思いに対し、父・宜史さんの候補は「りお」など複数あった。そんなとき熊本・合志市内で営むゴルフショップに男性客がやって来た。「ブラジルのリオのカーニバルはすごかよ。ホント、すごかとよ」と前後の脈絡なしに熱弁。女の子の名前は「りお」に決まった。

「そのお客さんが来たのは、そのときが最初で最後。どこの誰かも知らないんです」と哲子。2016年の熊本地震からちょうど8年となった最終日。「あの日のことはよく覚えている。熊本のみなさんの前で初優勝することができて本当にうれしいです」。この日の熊本はまさに「麗央のカーニバル」だった。

熊本勢は昨年0勝に終わり、1988年のツアー制度施行後から続いていたシーズン連続優勝はついに途絶えた。「今年は私が勝つ」。年頭の誓いを最高の舞台で実現させた。女子ゴルフ大国の復活を告げる初優勝。“すごか”ニューヒロインが誕生した。(文・臼杵孝志)

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