CBは人材難、左SBの“OA”で推薦するのは? パリ五輪世代の「現戦力」を識者が徹底対談

アジアカップに挑むU-23日本代表【写真:Getty Images】

【対談前編】右SBは熾烈なポジション争いも…CB&左SBはタレント不足

大岩剛監督率いるU-23日本代表は4月16日にパリ五輪最終予選を兼ねたU-23アジアカップのグループリーグ初戦・中国戦に臨む。8大会連続の五輪出場が懸かっているパリ切符を掴み取ることができるのか――。日本サッカー界の至上命題とも言えるなかで、「FOOTBALL ZONE」ではJリーグや年代別代表、日本代表まで幅広く取材をする河治良幸氏と元川悦子氏が大岩ジャパンについて熱論を交わしてもらった。前編では各ポジションの現在地と未来、現戦力の分析をしていく。(取材・構成=FOOTBALL ZONE編集部・小杉舞)

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河治 まず、注目するのは右サイドバック(SB)の半田陸。昨年は怪我をして離脱していた時期もあったけど、(昨年11月の)アルゼンチン戦でチャンスをもらって、見事に2.5アシストのような感じで大活躍だった。移籍せず、ガンバに残ったのでかなり計算が立つ。内野貴史(デュッセルドルフ)よりも(立場は)逆転しているかな、と。少なからず半田と内野、関根大輝(柏レイソル)とものすごくハイレベルでパリ五輪世代ではホットなポジション。

元川 この話は左SBでもあるんじゃないかな。大畑(歩夢)が浦和レッズで継続的に出られるようになって、大岩さんにもピックアップしてもらっている。(4月の最終予選は選外となった)バングーナガンデ佳史扶が怪我がちだったのもあるので。

河治 左SBはA代表がハイレベル。伊藤洋輝と中山雄太やっているポジション争いに比べると……。

元川 すぐに(パリ五輪世代の)誰かが(A代表の2人を)追い抜くという感じではないよね。ポテンシャルということであれば、(バルセロナ・フベニールAの18歳)髙橋仁胡。右SBに比べると、左は(パリ五輪世代より)さらに下の世代が注目かな。やっぱり日本全体の問題点だね。右は継承されていくけど。髙橋くんには期待したい。2005年生まれで後藤啓介(アンデルレヒト)と同い年。飛び級してパリ(本大会)を狙う勢いで出てきてほしい。

河治 次は最終予選抜けてからの話になるけど、本当にオーバーエイジ(OA)がどこになるのという話になった時に基本的にはセンターバック(CB)、前線と中盤というセンターラインだと思うけど、もし本当に人材不足になってしまったら左SBの可能性もゼロじゃないね。

元川 伊藤洋輝ならCBと左SBもできるしね。

河治 CBでは馬場晴也(北海道コンサドーレ札幌)は(選外となったが)アジア大会ではキャプテンマークを任せて存在感があったけど。絶対的かと言われたらそうでもなかった。

元川 西尾隆矢(セレッソ大阪)は2022年にA代表候補合宿メンバーにも選ばれて、パリ世代ながら次のA代表に一番近いみたいな位置づけだった。(昨年)2月に(吉田)麻也とセンターバックの後継者の話をしたけど、フィードができて期待値高いと話していたのが20歳の田中隼人(V・ファーレン長崎)。すごく楽しみと言っていた。あとは市原吏音(大宮アルディージャ)も2005年生まれだしね。

河治 パリ世代はCBが少し人材難。このままいくと五輪本大会の時にはOAを使われるポジションだと思う。ただU-23アジアカップですごくアピールをすることはできる。この世代は急に変わるからCBも一気に出てくる可能性がある。

元川 うんうん、板倉滉の伸びも凄かった。U-23アジア杯が1つの転機になって大きく伸びていく可能性がある。

河治 でも今のところは本大会でOAを使われてしまう。下手したら2枚ともという可能性もゼロじゃないし、最終ラインで2ポジションというのは大いにある。

元川 東京五輪もそう(吉田麻也、酒井宏樹)だったよね。そうなる可能性が大だよね。

河治 ボランチは川﨑颯太(京都サンガF.C.)、山本理仁(シント=トロイデン)がキャプテンでリーダーシップもある。藤田譲瑠チマ(シント=トロイデン)は自分がキャプテンの性格じゃないと。ボランチも左SBに比べるといい意味でハイレベル。

元川 松木玖生(FC東京)もいるね。

河治 松木はインサイドハーフをやったり、もちろん2ボランチもあるけどアンカー側ではない。A代表でいうと鎌田大地みたいな位置づけかな?

次世代の攻撃陣がぶつかる“壁” エース細谷に続くのは?

元川 今回は選外だけど19歳の福井太智(ポルティモネンセ)の位置づけも松木とはちょっと別だけど6番、8番、10番。なんでもいけますという感じ。日本の隠し玉にはなるかもしれない。福田師王(ボルシアMG)も。福井は(バイエルン・ミュンヘンのトーマス・)トゥヘルの指導も受けた。岡崎慎司がマインツの時にすごく重用してくれて、才能を伸ばしてくれた。トゥヘルと出会ったことで福井も伸びる可能性がある。

河治 今回の選外でいうと、海外組の鈴木唯人(ブレンビー)はもう唯人しかいないというぐらいの中心でスペシャルな選手。唯一無二の存在で、今この10番的な役割を高いレベルでこなせる人はこの世代ではなかなかいない。もし、久保建英が本大会で出られたら……だけど。

元川 レアル・ソシエダが出してくれないだろうしね。

河治 アタッカー陣は海外組を含めると充実はしているけど、左の佐藤恵允(ブレーメン)がエースになる可能性もある。

元川 あとは細谷真大(柏レイソル)。冬に移籍をせずにJリーグにいて試合に出続けることを選んだ。やっぱり冬の移籍は五輪を考えると、リスクがある。本田圭佑みたいに五輪があろうが、なかろうが海外に行きます、試合に出られなくても関係ありません、という人と、夏までは柏にいると決断をする人。そういうタイプがいるから。

河治 逆にアタッカー陣は2003年以降生まれでもっと出てきてほしいタレントがいっぱいいたけど。

元川 壁に当たっている感じはするね。

河治 横山歩夢(サガン鳥栖)だったり、俵積田晃太(FC東京)だったり、永長鷹虎(ザスパ群馬)だったり、才能はあるけど一芸プラスアルファでプロで主力級の選手としてもう1つ突き抜けるところに行ってくれないと。

元川 坂本一彩(ガンバ大阪)もだね。FWはもう細谷。今現状としてパリ五輪のFWは誰ですかといったら細谷。でも、藤尾翔太(FC町田ゼルビア)も活躍しているね。ただ細谷が飛び抜けていて、次となった時は横並びかな。(今回は選外の)小田裕太郎(ハーツ)がいるけど、後藤啓介も本大会ではチャンスがあるかもしれない。

河治 でも未知数なところがあるし、結局ここはもうOAは使われる可能性があるわけだよね。でもFWをOA誰使うのかと言ったら結構難しい。伸び次第で変わってくるところもあるし。

[プロフィール]
河治良幸(かわじ・よしゆき)/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。

元川悦子(もとかわ・えつこ)/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。(FOOTBALL ZONE編集部・小杉 舞 / Mai Kosugi)

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