おしゃれな街に潜む異空間! 自由が丘『大衆酒場DOUZE12+』で濃すぎるホッピーと絶品料理に本気酔い!

おしゃれな街、苦手ですね。銀座、表参道、代官山、原宿……まぁ、行きませんよ。理由なんてひとつしかない。酒場がないからだ。「いや、めちゃくちゃあるじゃないか」と思ったあなた、さてはおしゃれだな?

私の言う酒場とは大衆酒場で、赤ちょうちんがぶら下がったトタンの外壁、店内はコンクリ剝(む)き出しが必須条件。濃いめの焼酎のホッピーと、安くてウマい料理。雑然としているのだが、なぜかいつまでも居続けたくなる雰囲気……スペインバルとか映える店とかじゃないんですよ。

そんなおしゃれな街が苦手な私が、数年ぶりに訪れたのが自由が丘である。東京都民であれば自由が丘と聞いて真っ先に思い浮かぶのはおしゃれで、おしゃれといえば自由が丘を思い浮かべることだろう。

街を歩くと、至るところからオーガニックの甘い香りが漂い、外国人をモデルに撮影隊があちらこちらでパシャパシャ。少し足を延ばすと高級住宅地が広がり、その中に古民家を改装したおしゃれなカフェや雑貨屋。高架線を走る東急東横線の走行音ですらおしゃれに聞こえてしまう不思議。

こんなおしゃれに卑屈な私が、自由が丘にやってきた理由はひとつ、酒場である。

あったんですよ、こんなおしゃれな街にも『大衆酒場 DOUZE12+(ドゥーズ ドゥーズ プラス)』が。店名こそおしゃれそうではあるが、それこそ数年前に訪れたときからずっと気になっていた酒場なのだ。

何となく撓(たわ)んだ古いタイル張りの外壁、ビール会社の提灯たち、べたべたとポスターの貼られたアルミのガラス扉。その向こう側からは、蛍光灯のいい灯火が漏れている。ここだけ自由が丘から新小岩あたりと異次元空間でつながっているみたいだ。さっそく、その異次元空間に迷い込んでみることにしよう。

「いらっしゃいませー」

おおっ、これはお見事! 開放的な店内には、ホッピーに美尻ハイサワー、アサヒサッポロエビスのレトロポスターが店内にはビッシリと貼られてにぎやかだ。コンクリ剥き出しの床には、石油ストーブが煌々と爆ぜている。

その上にはヤカン……くぅぅぅぅたまらねぇ! 店内がおしゃれだったらどうしようと一瞬よぎったが、見事に裏切ってくれた。よっしゃ、酒いきましょうか。

「白のホッピーセットください!」

「はーい、おまちください」

意外と酒はおしゃれで、ホッピーなんかかわいいジョッキに焼酎少なめ……なんてこともあったりして。

「はいホッピーセットです」

「ありがとうございま……ん?」

おかしいな。ジョッキに氷しか入っていないんだが……? まさか、おしゃれに瓶側で既に“前割り”しているとか? う~ん……

いや、待て!

違う! ジョッキに焼酎がギリギリまで入っているんだ! なんだ、この量……

「ウチのホッピーは、ちょっと濃いんですよ」

そう、はにかんで言うお運び女性。いやいやいや、ちょっとどころの話ではない。だって、これ以上ほぼ焼酎が入らないんだもの。水位99.99%、1ミリほどの僅かな隙間にホッピーを流し込み、恐る恐る飲み込む。

ちょびっ……ちょびっ……ちょびっ……、濃んいぃぃぃぃっ! 分かってはいたが、甲類焼酎そのまんまの味だ。あぁ、でもこのサービス精神は素敵だ。下町の安酒場だって、ここまではしてくれないだろう。受け止めよう、このサービス精神と共に、料理も受け止めようじゃないか。

まずは「春菊ごま和え」から。初めての酒場では、こういう何気ないものから試すのがいい。箸先からでもしっとり感が伝わる春菊。こいつがイケたのなんのって。

柔らかい葉と、ちょうどいい歯触りの茎。ほろ苦さと、うっすら上品なごまの香ばしさがふわり。春菊が苦手という方が結構いるが、ぜひともこの絶品ごま和えを食べてみてほしい。それでも苦手というなら諦めてよし。

続いて、ちょっと変わり種の「鶏じゃが(手羽先)」だ。手羽先の肉じゃが、いや、これは結構新しい発想だ。見るからに出汁を染み込ませているであろう手羽先は、手で持って咥(くわ)え、ズルッと骨から身を引き出す。

これが柔らかく、出汁もよく絡んでいて非常においしい。ジャガイモもコックリと甘く、これは間違いなく“家でも真似しよう案件”である。

ホッピーはまだジョッキの9合目を通過したところだ。ちょびっと口にしては、ソトをつぎ足し、またちょびっと口にしてはソトをつぎ足すの繰り返し。間に春菊と手羽先を含めつつ……いやぁ、忙しいなぁ、うれしいなぁ。

「タラコ煮」なんて、めちゃくちゃ久しぶりだ。子供の頃からの好物で、酒場で見かけたら必ず頼む一品。口にすると、ホロッとした口当たりで卵がほどける。

プチプチとした食感は、火の通りがちょうどいい証拠。ウチのおばあちゃんが作るタラコ煮は東北仕様でかなり塩っぱいが、ここのはちょうどいい。

お刺し身もいきましょうよ、「三点刺盛り」を。マダイとマグロ、なんと珍しいウマヅラハギをメンバーに入れてくれるうれしさよ。

すまし顔で登場したのは、明らかに肉厚の刺し身たち。うっすら銀皮が残るマダイは、淡白ながら弾ける新鮮な食感がたまらず、サファイアレッドのマグロ赤身はネットリとディープに舌を楽しませてくれる。高級魚のウマヅラハギはちょうど旬で、コリシコの身が異常といっていいウマさ。ここに“肝”まで添えてあったとら思うと、いい意味でゾッとする。

ホッピーはやっとジョッキの7合目が見えそうだが、逆に私の酔いは頂上(てっぺん)に近づいている。なんというか、色々な意味で本気で酔っ払った。ここは本当に酒の量も料理のおいしさも、最高の酒場だ。

やはり下町の新小岩の酒場は最高……いや、ここはおしゃれな街の代表、自由が丘だったことをすっかり忘れていた。いつもは良い酒場を見つけると手放しで喜ぶのだが、少しだけ複雑……いや、不案内なおしゃれな街に嫉妬しているだけかもしれない。嫉妬を一緒に飲み込み、やっと6合目。麓には辿り着けるのだろうか……。

なんにせよ、おしゃれな街、ちょっとだけ好きになれそうだ。

『大衆酒場DOUZE12+』

住所: 東京都目黒区自由が丘1-15-16
TEL: 03-6421-2474
営業時間: 16:00~22:00
定休日: 水・日
※文章や写真は筆者が取材をした当時の内容ですので、最新の情報とは異なる可能性があります。

取材・文・撮影=味論(酒場ナビ)

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