鈴木彩艶の激励に心が震えた。無様な姿は見せられない。覚悟を決めた山本理仁。大岩ジャパン86人の想いを背負って戦い抜く【U-23代表】

約2年間の活動で大岩ジャパンに招集された選手は計86人。コアメンバーとなった者もいれば、A代表に定着したプレーヤーもいる。一度だけの招集で終わった選手も含め、全員の力でここまで戦ってきた。

カタールで開催されるU-23アジアカップ(パリ五輪アジア最終予選を兼ねる)に臨むのは23名だが、想いはひとつ。パリ行きの切符を掴むことだ。

立ち上げ当初から主力として活躍してきたMF山本理仁(シント=トロイデン)も、想いを新たにして最終調整に励んでいる。

「実際に86人の選手が招集されてきたというのを知ったのは、今回のミーティングが初めて。より一層、日本の代表としてここに来ていることを実感したし、彼らの想いも背負って戦いたい。ここに来たくても来られない選手もいるので」

もちろん、23人全員が初めて揃った際に行なわれたこのミーティングで覚悟を決めたわけではない。今までの歩みを振り返り、沸々と湧いてきたからだ。きっかけをくれたのが、クラブのチームメイトで同じパリ五輪世代のGK鈴木彩艶だった。代表に合流するため空港へ向かう際、タクシーに乗り込む寸前に偶然、遭遇して言葉をかけられたという。

「本当にパリ五輪の切符を奪ってきてくれ」

短い言葉だったが、U-23アジア杯予選をともに戦ったA代表GKからの激励に心が震えた。

「ブリュッセルの空港にタクシーで向かう際、ジョエル(藤田譲瑠チマ)を待っていたら、たまたま通りかかったんです。結果的に見送ってくれる形になったんですけど、その時の立ち話で『本当に頼む』という感じが伝わってきた。もちろん、彩艶だけではなくて、そういう気持ちの選手が日本にも海外にもいる。鈴木唯人(ブレンビー)や、オランダ組の斉藤光毅や三戸舜介(ともにスパルタ)もそう。彼らの分も戦わないといけない」

【PHOTO】カタールで開催されるU-23アジアカップに向け、新背番号でポートレート撮影に臨んだU-23日本代表!
今大会は4月開催でインターナショナルマッチウィーク外のため、一部の欧州組が参加できなかった。過去2年の活動でほとんど代表に名を連ねていた鈴木も斉藤も三戸も、日本のために戦いたい意志を持っていたが、今はカタールにいない。

仲間のためにもパリ五輪の出場権を獲る――。そして、今までお世話になった人たちの想いも背負っており、無様な姿は見せられない。

「家族はもちろんですし、今までお世話になった指導者、中学や高校の友だち。いろんな人からテレビを見て連絡をもらった。それだけ注目度のある大会だし、オリンピックに出場する重要さは僕も実感している。日本を代表して戦う意味はそういうこと。必ず勝ち抜かないといけない」

恩師である永井秀樹氏(現ヴィッセル神戸スポーツダイレクター)からも連絡があった。

「絶対に出場権を奪ってこい」

東京Vのユース、トップチームでお世話になった人からの言葉も胸に刺さった。

いろんな人の想いはこれでもかと伝わっている。2年間の総決算。苦しいことも辛いこともあった。昨年9月のU-23アジア杯予選では不甲斐ない出来に終わり、バーレーンとの最終戦後に落胆した表情を見せた。大岩剛監督からなだめられながらロッカーに引き上げたが、そうした悔しさを成長の糧にしてきたからこそ今がある。

「不甲斐ない試合はできない」

大岩ジャパンに招集された仲間のため、家族のため、お世話になった人たちのため。覚悟を決めた山本は、日本サッカー界のために全力を尽くす。

取材・文●松尾祐希(サッカーライター)

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