「米」テーマに山鹿の街案内25年 下町地区商店主ら「地域に熱意」原動力 【クローズアップ】

ツアー参加者に米こうじについて説明する井口裕二さん=3月27日、山鹿市

 歴史的な街並みが残る山鹿市の豊前街道沿いで、下町[しもまち]地区の商店主らが「米」をキーワードに街案内する「米米惣門[こめこめそうもん]ツアー」が25年目を迎えた。ツアーを手がける「下町惣門会」は2023年度、優れた地域づくりの活動を国土交通相が認定する「手づくり郷土[ふるさと]賞」の大賞部門を受賞。熊本地震や新型コロナウイルス禍を乗り越え、インバウンド(訪日客)への対応などで進化を続ける。

 3月下旬、広島、山口の団体客35人を乗せた貸し切りバスが到着。2組に分かれ、米米惣門ツアーが始まった。

 創業約190年の老舗こうじ店。9代目の井口裕二さん(41)は真っ白な米こうじが収まった木枠を手に、種類や役割を軽妙な口調で説明した。「発酵の時にブドウ糖という甘みが作られるので、砂糖は使っていません」。参加者にこうじで作った甘酒も振る舞った。

酒造会社では日本酒の試飲もできる

 店主らがリレー方式で案内するのもツアーの特徴の一つ。参加者は酒造会社の史料館や江戸時代に米問屋の豪商が経典を寄進した寺院を見学し、せんべい店へ。米を使ったせんべい焼きを体験した山口県宇部市の女性は「案内も分かりやすく、山鹿に暮らす人たちの息遣いが伝わってきた」と満喫していた。

 下町惣門会は現在10軒で構成。ツアーを始めたのは00年、NHKの連続ドラマ「オードリー」のロケ地に選ばれたのがきっかけだった。「放送を見た観光客が訪れた際に、何もなかったでは山鹿のイメージダウンにつながると思った」と同会会長でこうじ店8代目の井口圭祐さん(70)。

米を使ったせんべい焼きを体験するツアー参加者(左奥)

 江戸時代、米の集散地として栄えた山鹿市。地域の歴史をひもとく中で、米でつながるツアーのアイデアが生まれた。市も道路改良や電線地中化を進め、民間の活動を後押し。周辺の景観も向上した。参加者は口コミで増え、15年には年間7千人を突破した。

 しかし、「決して順風満帆ではなかった」と井口会長。10周年の記念イベントは東日本大震災で中止を余儀なくされ、熊本地震後は風評被害で県外の観光客が激減した。新型コロナによる予約のキャンセルが相次ぎ、案内の人数制限やコースの見直しを強いられた。

 25年前にはなかった対応も求められている。訪日客の受け入れだ。中国語などの観光チラシを作ったほか、案内の仕方にも工夫を凝らす。例えば、寺院に納められた経典は外国人に説明しづらいため、約400年前に建てられた楼門に触れてもらい重厚な歴史を感じてもらうスタイルとした。

 井口さんは「四半世紀やってこられたのは、会員の地域への熱い思いとチームワークがあったから。山鹿の街の活性化のため、無理せずに続けたい」と話す。この日の案内は1時間ほどで終了。メンバーは次の目的地に向かうバスを手を振って見送った。(本田清悟)

 ※米米惣門ツアーは参加費600円。水曜休み。申し込みは山鹿温泉観光協会☎0968(43)2952。

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