さとう珠緒、永遠の少女が船橋で見た夢。“ぶりっ子前夜”の地元思い出語り

船橋で生まれ育ったさとう珠緒さん。最近はお墓参りでしか立ち寄れないという地元に来てもらったら、多感な少女時代の思い出話がもう止まらない。ぶりっ子だけじゃない、あんなこと、こんなこと。

さとう珠緒

1973年1月2日、船橋市生まれ。1988年にグラビアアイドルオーディションを機に芸能界へ。1995年に『超力戦隊オーレンジャー』で女優デビュー後、『出動!ミニスカポス』、『王様のブランチ』などテレビ番組に多数出演。2000年代にぶりっ子キャラでブレイク。

窓の外は海と工場。いろんなにおいがしました

19世紀のデンマークの街を再現したミニチュアガーデンで遊ぶさとうさん。(『ふなばしアンデルセン公園』)

―― 本日訪れた『ふなばしアンデルセン公園』と『東魁楼』はさとうさんのリクエストですね。

さとう はい。アンデルセン公園は広くていいですよね。でも昔はこんなに広くなくてシンプルな公園でした。実は中学時代の美術の先生がお勤めなんですけど、今日はご不在とのことで残念……。

――『東魁楼』での思い出は?

さとう お盆やお祝い事で親戚が集まる時に来てました。22階は大きな窓から下の本町通りが見えるんですよ。ここをパレードするお祭り(市民まつり)があって、その日も窓側の席を予約するんです。私、小学4〜6年生の頃にバトントワリングを習っていてそのパレードに参加していたから。それを親戚が見てくれて、終わったらここに来て私も一緒にパレードを見る、みたいな。

―― 踊るのが好きだった?

さとう いやあ、どうだろう。私ははまりやすくて飽きっぽいんです。でも、先生が美人でスタイルがよくて憧れだったから、珍しく続いた習い事でしたね。

―― おじいさまは船橋競馬場の厩務員をしていたそうですね。

さとう はい、祖父母が厩舎で寝泊まりする時は一緒に泊まってました。馬のにおいがすごいんですけど、今でもそのにおいをかぐと祖父の思い出がわーっとよみがえるので、私にとってはいい香りで。朝起きるとすぐそこにヒヒーンって馬がいるんです。

―― 怖くなかったですか。

さとう 近づくなと言われても飼い葉をあげたりしてました。馬は大好きでしたね。かわいくて、きれいで。食べられそうな口だなあとは思っていましたけど。

―― 育ったのもその近くで?

さとう はい。学校の窓から外をパッと見ると海と工場なので、本当にいろいろなにおいがしました。海のにおいがするかと思えばチョコレートのにおいがする、と思いきやコーヒーのにおいもする、と思いきや馬のにおいがして。代えがたい魅力がありましたね。

家族の思い出の『東魁楼』でランチ。「何十年ぶりに食べられてうれしい!」。
カニ肉入りふかひれあんかけ炒飯はスープ付きで2090円。
ぷりぷりした小籠包を見つめて、「いただきま~す」。

船橋駅で口裂け女を兄と待った小学生時代

高さ2.5mの大きなハートのトピアリーと。「お花がいっぱいですね」。

―― ほかにはどんな思い出が?

さとう 『ららぽーと』ができる前にあった船橋ヘルスセンターでは「ゴールデンビーチ」というプールで遊んだり、ドリフターズ(『8時だョ!全員集合』)を祖父のツテで観ることができたり。谷津遊園では迷子になりました。人に道を聞きながら家を目指して歩いてたら、何人目かの大人に警察に通報されちゃってパトカーで帰るという事件で(笑)。パトカーに乗せられたのが悔しかったんですよね。

―― 船橋駅のほうでは?

さとう 『シャポー』の地下に喫茶店があったんです。そこで親と買い物帰りにクリームソーダを食べるのが大好きで、幸せな時間でした。駅のそばは「十字屋」とかデパートがいっぱいあったんですよ。あと、子供時代の最大のアドベンチャーといえば、口裂け女伝説! 私が小1で、小3の兄がバットを持って「みんなで捕まえよう」って船橋駅で朝からひたすら口裂け女を待った(笑)。結局会えなかったけど、当時の船橋だったら出そうな感じがしませんか?

―― 筆者も同世代の船橋育ちなのでなんとなく分かります。

さとう 船橋ってベッドタウンですけど、娯楽も多くて、ワイルドで、下町情緒がいっぱい残っていました。団塊ジュニア世代なので、子供が多くてそんなに構ってもらえるような時代ではなかったからなのか、自由で、大らかで、刺激だらけで。多感な子供時代をいい場所で過ごせてよかったなあって思っています。

―― 映画少女でもあったとか?

さとう はい、好きでしたね! 古い映画だとフェリーニ、チャップリン、モンローにヘップバーン。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』は『ららぽーと』の駐車場に昔あったドライブインシアターで観ました。車に乗ったまま観るっていうアメリカンなスタイルにときめきました。

―― 観るのは映画館で?

さとう 映画館でも観てましたが、当時はレンタルビデオも多かったですね。街のレンタルビデオ屋さんがあちこちにありましたから。

お菓子を食べながら映画を観る部活を結成?

メルヘンの丘ゾーンにて。花壇の色鮮やかなチューリップにうっとり。

―― 高校時代に部活動は?

さとう うーん……、あ、映画を観るクラブを作りましたかね。作ったというよりも仲の良かった国語の先生から「そんなに映画が好きならそういうの作れば?」と言われて。3人くらいでお菓子を食べながら映画を観るという、部活と言えないものでしたけど。その頃は1人でいることが多くて。孤独に浸ってたんですかね。ちょっと暗かったかもしれない。背伸びして小難しいフランス映画にはまったりして。カルチャーが刺激的に思えたんですかねえ。

―― 意外な一面ですね。

さとう フランスのエリック・ロメール監督の短編オムニバスに『青い時間』という作品があるんです。女の子2人が、夜から朝にかけて空が青くなる瞬間を見に行こうとするその話がすごく好きで。「自分も!」って、まだ暗いうちに家を出て自転車をこいで港へ向かって、工場と大きな船が見えるところでビデオを撮りながら“青い時間”を待ったことがありました。映画の世界に入り込んで。その時も感じたけど、海のそばは空が広くていいなあって思うんです。

今の家の近所は墓地があってよくお散歩するんです。「墓地散歩」って言うと友達は冷ややかな目で見るんですけど(笑)、墓地って東京でもめっちゃ空が広いじゃないですか。夜は怖いけど、朝は気持ちいい。空が広いと心が晴れるというか、リラックスできるのは、船橋の影響かもしれません。

―― 船橋にまつわる観光大使などのお誘いもあるのでは?

さとう 1回もないんです。やりたいです、お待ちしてます! 誰に言えばいいんだろう(笑)。でも、船橋出身のタレントさんはいい人がたくさんいるんですよねえ。

―― ふなっしーもいますしね。

さとう ふなっしー! 会ったことあります。かわいいですよね。

―― かわいらしさならさとうさんも負けていないのでは?

さとう ほんとですか!? じゃあ、ゆるキャラ目指して……!

―― 目指すのはそっち!? ある意味、すでにさとうさんは愛されゆるキャラです!

さとう珠緒さんと言えば……の「ぷんぷん」ポーズは未だ健在!

今回訪れた場所

『ふなばしアンデルセン公園』

新京成電鉄新京成線三咲駅から新京成バス「セコメディック病院」行きほか約15分の「アンデルセン公園」下車すぐ。入園料一般900円。9:30~16:00、月休。千葉県船橋市金堀町525 ☎047-457-6627

『東魁楼』

京成電鉄京成本線京成船橋駅から徒歩5分。11:30~20:30LO、無休。千葉県船橋市本町4-36-17 ☎047-422-3529

取材・文=下里康子 撮影=鈴木奈保子
『散歩の達人』2024年3月号より

© 株式会社交通新聞社