縦への意識、スピードアップの追及、ギアを上げるベテランの存在。J3首位攻防戦で見えた沼津の現在地

今季から昇格プレーオフが導入され、J2昇格争いがより活性化した2024年J3。4月14日時点で第10節が終了し、降格組の大宮アルディージャが1試合少ない状態で勝点21を確保。首位を走っている。

彼らを追走しているのが、勝点20のアスルクラロ沼津。ご存じの通り、元日本代表FW中山雅史監督が就任して2年目のチームである。

中山体制1年目の昨季は折り返し地点で4位と昇格争いに参戦。意気揚々と後半戦に突入したが、そこから思うように勝てなくなり、最終的に13位という不本意な形でのフィニッシュを余儀なくされた。

「昨年の後期、かなりスカウティングされて、相手に守られるケースが多かった」と持井響太も神妙な面持ちで言う。

彼と徳永晃太郎の両インサイドハーフ、アンカー菅井拓也の中盤3枚を軸としたパス回しを武器とする沼津にしてみれば、そこを寸断されると効果的なゲームメイクが難しくなる。それが後半戦の失速につながったのは確かだろう。

そこで、今季の中山監督はより縦を意識した攻めを強調。「強度」という言葉を口癖のように繰り返しながらアプローチしている様子だ。昨季のエースFWブラウンノア賢信(現徳島)が移籍し、今季はスピードタイプの和田育が最前線に陣取っていることも大きい。

彼がここまで7ゴールと得点ランキングの上位を走っているように、よりスピードと推進力を押し出すスタイルが構築されつつあるのだ。

「相手の守備を打開していくために、ボールを持つだけじゃなくて、ゴールに向かう姿勢を強めないといけない。縦に刺す、背後を狙うといったプレーが今年は増えているし、自分もフィニッシュの部分に顔を出すことを意識しながらやっています」と持井は語る。

実際、1-1で引き分けた10節・大宮戦でもパス回しに固執することなく、シンプルに長いボールを入れたり、サイドバックが局面を打開するなど、変化をつけていこうという意識が随所に感じられた。

前半は大宮に押し込まれたが、1点ビハインドで迎えた後半は巻き返しに打って出る。54分には、右サイドを駆け上がったFW津久井匠海のクロスに和田が一目散に飛び込むと、この瞬間、相手DFのクリアがそのままゴールインし、試合を振り出しに戻した。

「大宮はいろんな部分で強い。それに対抗するために、自分たちのサッカーをよりスピーディなものにしていかなければいけない。それを具現化できたのは1つの成果」と指揮官も前向きにコメントしていた。

この状況からもう一段階、ギアを上げられるのが今季の沼津の強み。ベンチに陣取っている齋藤学、川又堅碁の元日本代表コンビが攻撃に厚みをもたらせるからだ。

この日もまず齋藤が66分に津久井と代わって登場。71分には遠目からのシュートをお見舞いする。78分には積極果敢な仕掛けからペナルティエリアのギリギリのところでファウルを誘った。「学が出れば何かが起きる」という感触を残したことは、今後を考えてもポジティブだろう。

「仙台で契約満了になった後、やめることも考えました。他にもっと良い条件のチームに行く話もあって、悩んでいた時に沼津から話が来た。練習がキツいって聞いていたので、逆にいいかなと思って来てみたら、ホントにスゴかった(苦笑)。それにすごく魅力的なサッカーをする。僕にとっては良かったですね。

今もベテランだから優遇されるとかはないし、キツいメニューをこなしてアピールして競争に勝たないとチャンスは来ない。だからこそ、今日みたいな試合で数字や結果を残さないと出続けられない。そういう危機感を持ってやっています」と、34歳の経験豊富なアタッカーは貪欲に取り組んでいるという。

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74分からピッチに立った川又は昨夏から沼津でプレー。自身もチームも徐々に上向いている実感を覚えているようだ。

「沼津のスタンダードがあるなかで、僕も良い競争ができていますし、チームとしても戦術を突き詰められている。開幕の金沢(3-0)、鳥取(4-0)にゴールを量産できたことが今の自信につながっているのかなと感じます。今年はクロスの回数を増やしていこうとしていて、それがゴール増の要因かなと。自分もそういうなかで結果を残したい」と、齋藤と同じ34歳のFWは目をギラつかせた。

ベンチ外が続いている今年50歳の大ベテラン伊東輝悦も含めて、百戦錬磨の男たちがもたらす経験値や勝負勘、試合をコントロールする力も今の沼津にとって大きなプラス要素。あらゆる意味で多彩な戦い方ができるようになってきた彼らにとって、2024年はJ2昇格のビッグチャンス。ここをモノにできるか否かは非常に興味深いところだ。

首位攻防戦は引き分けという結果に終わったが、沼津にとっては7000人を超える大観衆の敵地での勝点1確保は悪くない結果だろう。2022年ベースのクラブ資金規模を比較すると、沼津のそれは大宮の5分の1。自前の練習拠点もクラブハウスも持たない小クラブの快進撃は見る者をワクワクさせてくれるはずだ。

「プレースピード、判断スピード、ボールスピード、そういうところのスピードアップにこだわっていかないといけない」と中山監督は語気を強めたが、今のチームがそういった方向に進んでいるのは確か。ここからの変化、今後の戦いぶりから目が離せない。

取材・文●元川悦子(フリーライター)

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