映像から陸上選手の動きを“ほぼリアルタイム分析” AI活用、大阪国際女子マラソンで実績 関大

関西大学の田中成典教授、鳴尾丈司特命教授、山本雄平助教らの研究チームが第43回大阪国際女子マラソンで人工知能(AI)を活用し、有力選手の走行動作をほぼリアルタイムで分析することに成功した。田中教授は「動いている対象を動きながら計測する技術には汎用(はんよう)性がある」と手応えを語っている。

レース中に選手の動きを解析

1月28日に大阪市で行われた大阪国際女子マラソンで、前田穂南選手が日本勢トップの2位でゴールし、2時間18分59秒で日本記録を19年ぶりに更新した。3月の名古屋ウィメンズマラソンまでにこの記録を上回る選手が現れなかったため前田選手がパリ五輪代表に内定している。

【第43回大阪国際女子マラソン】大阪城を背に走る前田穂南選手=大阪市内、16キロ付近(撮影・渡辺大樹)

研究チームは大阪国際女子マラソンの大会中、関西テレビに常駐し、中継車から直接取得した前田選手、松田瑞生選手、佐藤早也伽選手の映像を解析した。計測ポイントは30キロ地点までは5キロごと、それ以降は42キロ地点まで1キロごとで、判明した3選手の速度、ピッチ(歩数)、ストライド(歩幅)はテレビ中継で放送された。

「各選手の映像を深層学習の方法で切り出して、その映像からピッチとストライドをほぼリアルタイムで算出しました。速度に関しては日本陸上競技連盟が計測していたポイントの情報を活用しました」(田中教授)

解析用に“切り出した”映像はそれぞれ約10秒。目視で結果の正しさを確認する作業も行ったという。

陸上競技以外でも応用できる可能性

ラグビーなどでは選手のパフォーマンスを評価するために、GPSなどの衛星利用測位システム(GNSS)機器を装着して公式戦に出場することを認めている。だが、センサーの装着は認めるものの他者との通信は許可しないなどのルールを設ける競技・大会もあり、テクノロジーが制限されてフル活用できていないのが実情だ。

映像だけで選手の動きを解析する技術が発達すれば、多くのスポーツで監督・コーチがデータに基づいたアドバイスを送れるようになる。GPSの電波が届きにくい屋内競技でも活用しやすくなるだろう。

大阪国際女子マラソンでの取り組みについて田中教授は「(GPSでは実現が難しい)“半リアルタイム”で解析できた」と成果を強調。固定カメラでサッカーやアメフトの試合を撮影して解析する実績はあったが、動いている中継車の映像で選手を計測、解析できたのは画期的だと述べた。

「私たちはすでに『xG-1』(GPSや加速度センサーで動きを解析するウェアラブル機器)のセンサーを開発しています。正確な位置情報や姿勢がわかる機器ですが、ピッチとストライドの数値を出せず、購入のコストがかかるという面もあります。今回の手法はピッチとストライドを出せるため、正確性(性能)や金銭的コストの面で優位であると言えます」(田中教授)

サッカーなどのフィールドスポーツに応用して、カメラを担いで移動するカメラマンが撮影した映像から選手の細かい動作を解析するなどの使い方も考えられるという。田中教授は「重要なのが単眼で奥行きをどれだけ素早く正確に算出するかです。即座に、かなり高い精度で出せれば、さらに多くのサービスが実現するものと考えます」と期待を語った。

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