『虎に翼』“女中”に傷つく花江を気遣えない寅子 劇中劇「毒饅頭殺人事件」もトレンド入り

夫の管理下に置かれた妻が、自身の財産である着物を取り返した離婚裁判は、寅子(伊藤沙莉)に大きな影響を与えた。法律とは何であり、誰のためにあるのか。そこに正解はないことを知り、「弱い立場の人を守る盾のような弁護士になる」と誓った寅子。

『虎に翼』(NHK総合)第3週では、その1年後、明律大学女子部存続のために奮闘する寅子の姿が描かれる。

寅子が女子部の2年生になって半年が経った頃、最初は60人いた地獄行きの仲間は20人までに減ってしまった。涼子(桜井ユキ)、梅子(平岩紙)、香淑(ハ・ヨンス)ら寅子が仲良くしている同級生はかろうじて残っているが、1年生もすでに10人が退学。入学希望者も激減し、女子部は存続も危ぶまれる状況だ。

けれど、寅子たちはスンッとした諦め顔ではない。後輩たちが辞めないように面倒をよく見、女子部の待遇改善を求めて大学側と交渉するなど、できることは何でもやった。実に頼もしい限りである。

それは、先輩たちの影響でもあるだろう。1年前は7人いた上級生はついに久保田(小林涼子)と中山(安藤輪子)の2人だけになってしまった。中山が授業中に泣きたくなるのも分かる。だが、それでも久保田に支えられながら勉学に励んでいるし、彼女を励ますことで久保田も心を保てているのではないか。そんな2人の背中を、寅子たちは互いに鼓舞し合いながら追っている。

秋の明律祭では、女子部の宣伝のため、2年生と3年生が合同で法廷劇を披露することになった。演目は実際の判例を元に涼子が脚本を手がけた「毒饅頭殺人事件」。作中では、寅子の母・はる(石田ゆり子)が被告人の甲子、下宿人の優三(仲野太賀)が被害者の乙蔵を演じ、物語が分かりやすく説明される。

医学生だった乙蔵と恋に落ちたカフェの女給・甲子。彼女はいつか結婚するつもりで乙蔵に5年以上も資金援助を続けていた。けれど、乙蔵は医師になった途端に甲子を捨てる。乙蔵の家族にまで冷たくあしらわれた甲子は一家の殺害を決意。防虫剤入りの饅頭を贈り、それを食べた乙蔵と両親が重体に。不運なことに無関係の祖父が死亡してしまった。この事件を巡り、検事と弁護士が白熱の火花を散らす……という内容だ。

検事役を務めるのは、よね(土居志央梨)。相変わらず一匹狼の彼女だが、自分の居場所を守るために参加を決意した。嬉しくなってはしゃぐ寅子だったが、思わぬ出来事が起きる。法廷劇の衣装を作るために、寅子の家にやってきた涼子、梅子、香淑。そこで香淑に女中と勘違いされてしまった花江(森田望智)が気を悪くしてしまったのだ。寅子は花江を気遣うが、「寅ちゃんにお嫁に来た人の気持ちなんて分からないわよ」と言われてしまう。寅子は気づいていなかった。花江の笑顔がどんどん失われていることに。

姑であるはるは、嫁いびりをするようなタイプではない。だが、家事も家計も完璧に管理する彼女は無意識のうちに花江にプレッシャーを与えてしまっているのではないだろうか。「高等試験を受ける日が来たら、私は一発で合格してみせる」という寅子の一言で未だ浪人中の優三が泣き出してしまい、みんなでなだめるコミカルな食卓の場面。そこでも、花江は席にもつかず、1人だけせっせと働いていた。その場にいる誰もが当たり前のような顔をしていて、寅子でさえも疑問を持つ余力はない。そういう日常に埋もれてしまう女性たちのモヤモヤとした感情に本作は光をあてる。寅子の生理が重たく、4日も学校を休んでしまったという描写も現段階でストーリーに何か影響を与えているわけではない。だが、それを寅子のリアルとして描くことで物語に奥行きが出る。さて、寅子は花江の苦しみにどう寄り添うのだろうか。
(文=苫とり子)

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